2019/10/18
ハービー・ハンコックがブルーノート・レコードに残した名作アルバム7枚のおすすめ♪
ジャズ・ピアニストのハービー・ハンコックがブルーノート・レコードに残した名作アルバム7枚をご紹介します。
マイルス・デイヴィスの黄金のクインテットのメンバーでもあったハービー・ハンコックが残した歴史的名作群!
以前、ジョー・ヘンダーソンやハンク・モブレーがブルーノート・レコードに残した名作群をご紹介したブログ記事を書いていたシリーズの続きになります。
ハンク・モブレーがブルーノート・レコードに残したおすすめのアルバム6選‼
ジョー・ヘンダーソンがブルーノート・レーベルに残した5枚のリーダー作!
今回は、マイルス・デイヴィスの黄金のクインテットのメンバーでもあったジャズ・ピアニストのハービー・ハンコックがブルーノート・レコードに残した7作品をまとめてご紹介したいともいます。
ジャズファンクやフュージョンばかりではない!ハービー・ハンコックは実力派ジャズピアニスト!
ところで僕より少し年上の世代の方や、僕らの世代、それよりも年下の世代だと、ハービー・ハンコックをヘッドハンターズや”Rockit”の印象が強いという人も多くいらっしゃるかもしれません⁉
僕の親世代のご年配の方々だったら、もしかしたら70年代にハービーがジャズファンク化したのをリアルタイムで聴いて「なんだこれ?ハービーはもうジャズやめたのか?」と思った人もいるかもしれません⁉
もちろん僕の同世代でも、マイルス・デイヴィスの黄金のクインテット時代の『E.S.P. 』や『Miles Smile』なんかを聴いてる人や、そもそもジャズが好きでハービーをジャズピアニストと捉えてる人も少なくはないと思いますが……
今回はハービー・ハンコックのことをジャズファンクやフュージョン系の音楽を演奏するミュージシャンだと思っていた人や、これからジャズを聴いてみたいけれどもどれから聴いたらいいのかわからない?と言った初心者の人にハービーのブルーノート時代の作品をおすすめしたいと思います。
ハンク・モブレーの時もそのつもりで書いてみたのですが、基本的に僕のこのブログは「これからジャズやブルースを聴いてみたいけど、どれから聴いたらいいのかわからない?」と言った人に、僕の聴いてきた音楽をおすすめ出来れば……と思い書いています。
といったわけで、今回ご紹介するハービー・ハンコックの7作品からジャズを聴き始めて好きになってもらえたら幸いです。
それでは今回は、ハービー・ハンコックがブルーノート・レコードに残した下記の7作品を制作順にご紹介したいと思います。
それではまずはハービー初のリーダー作『Takin’ Off』からです。
Herbie Hancock – 『Takin’ Off』
01.Watermelon Man
02.Three Bags Full
03.Empty Pockets
04.The Maze
05.Driftin’
06.Alone And I
アルバムの内容
「ドナルド・バードがハービーをシカゴから連れてきたんだ。さっそくドナルドのレコーディングに起用したところ、これが素晴らしいピアノを弾く。(中略)それで彼をハウス・ピアニストにして、次々と録音していった。」
とは、ブルーノート・レコードの創始者だったアルフレッド・ライオンがハービーについて語った言葉です。
ライオンは才能ある無名の新人にチャンスを与える人物でした。
スタンダード曲のカヴァーばかりでなく、ミュージシャンが書いてきた自作曲を良い曲であれば積極的に彼らのリーダー作に収録させていました。
本作は1962年5月28日に録音されたハービーにとって初のリーダー作となります。
ブルーノートでの吹き込みは、1961年のドナルド・バードの『Royal Flush』で経験こそしていましたが、まだまだ無名の新人ピアニストでした。
しかし若い才能を見つける審美眼を持っていたライオンは、この無名の新人ピアニストのデビュー作の全ての曲を彼の自作曲で構成することに決めています。
その期待に応えるかのように1曲目の”Watermelon Man”は、今ではスタンダード曲にまで上り詰めました。
後にヘッドハンターズでジャズファンク化するこの曲は、元はハービーが子供の頃に聞いたスイカ売りの声をテーマにしたと言われています。
更には、この曲は当時のブルーノート・レコードでもいち早く収録されたジャズ・ロック曲でもあります。
フレディー・ハバードとデクスター・ゴードンという2人の名手が奏でるトランペットとサックスのわかりやすいキャッチーなテーマメロディーは、それまでのストレート・アヘッドなジャズと一線を画しています。
ロックから転身してジャズを聴き始めたいという人への入門曲としても最適だと言えそうです。
このわかりやすさこそが、この曲がスタンダードまで上り詰めた一番の理由でしょう。
そういったわけもあって、この曲は今でも日本のセッションでも定番曲となっていますね。
しかも単純な3つのコードのみで書かれたブルース進行の曲なので、セッション初心者からベテランまでみんなが楽しめる曲でもあります。
ただ本作でキャッチーなのはこの曲だけで、以降は古い世代のデクスター・ゴードンに合わせたのか?わりとオーソドックスなハード・バップ曲が並んでいます。
とはいえ、ファンキーな”Empty Pockets”や”Driftin'”に、リリカルで美しい”Alone And I”など多彩なジャズばかりですが……。
もちろん天才ハービー・ハンコックに駄曲など一切ないのですが、まだ古い音楽をやりたいのか?新しい音楽を作り出したいのか?迷ってた時期だったようにも思えます。
ハービーはこの時まだ22歳でしたからね……そのことを思うと、この若さでこれ程の曲を作曲したというのは『音楽の天才』以外の何物でもないですよね!
1曲目以外のジャズ曲も「これぞジャズ!」と言えるような名曲ばかりですので、ジャズ初心者が聴き始めの1作に選んでも良いアルバムだと言えます。
それに本作が”Watermelon Man”の初登場ということもありますので、これからジャズを聴いていきたいという人には外せないアルバムですよ。
楽器を演奏する人でこれからジャズ系のセッションに行ってみたい!けど何の曲からやったらいいんだろう?という人にも、まずは”Watermelon Man”から始めるのがおすすめです♪
Herbie Hancock – 『My Point Of View』
01.Blind Man, Blind Man
02.A Tribute To Someone
03.King Cobra
04.The Pleasure Is Mine
05.And What If I Don’t
アルバムの内容
1963年に制作されたハービーにとってブルーノート2作目となる『My Point Of View』は、もしかしたら今回ご紹介する7作品の中で最も地味なアルバムと思うかも知れません……。
といっても、本作の出来が悪いわけではなく、他のアルバムが凄すぎるだけです!
本作の5曲も全てハービーが作曲した曲で構成されています。
本作録音の2ヵ月前にハービーは、ドナルド・バードの『A New Perspective』にてジャズ・ギタリストのケニー・バレルと共演していたのですが、本作ではバレルと並ぶブルーノートのハウス・ギタリストだったグラント・グリーンと共演しています。
この共演が上手くいったので、後にグラント・グリーンのリーダー作でもハービーが客演しています。
さて、ハービーのブルーノート時代において少し地味な存在のアルバムなのですが……僕の一番好きなギタリストのグラント・グリーンが参加しているので好きな作品でもあります。
前作の”Watermelon Man”と少し似た”Blind Man, Blind Man”は、ハービーとグラントの共通点の一つでもあるゴスペル音楽からの影響を感じさせます。
ドナルド・バードにハンク・モブレーにグレイシャン・モンカー3世というブルーノートお抱えのホーン隊のテーマの合間に、グラント・グリーンがコール&レスポンス風のオブリガードを入れます。
ギターソロが始まると、そのバックから聞こえてくるハービーのファンキーなコンピングとの相性の良さが感じられます。
どうしても”Watermelon Man”の二番煎じのような曲だったため、地味な存在に終わってしまった……といった気がします。
ただ、グラント・グリーンが次に登場するのは最後の曲”And What If I Don’t”まで待たなければいけません。
残念ながら2曲でしかギターを弾いていないのですが、それでもハービーとの相性の良さを感じさせてくれます。
出来ることなら全ての曲でグラント・グリーンのギターソロを聴きたかった……といったところです。
しかし他の曲にも聴きどころはたくさんあります。
美しいバラード曲の”A Tribute To Someone”や”The Pleasure Is Mine”に、『Maiden Voyage』への布石を感じさせてくれる”King Cobra”など。
20代前半の若者が全て一人で書いたとは信じ難いような名曲ばかりです♪
2曲のみの参加ですが、グラント・グリーン好きの人にもおすすめの作品です。
Herbie Hancock – 『Inventions & Dimensions』
01.Succotash
02.Triangle
03.Jack Rabbit
04.Mimosa
05.A Jump Ahead
アルバムの内容
この後の3作品がどれもジャズ史に残る名盤ばかりなので、このアルバムもそれらと比べると地味な存在になり兼ねませんが……しかし前2作と比べて明らかな変化を聴くことが出来ます。
前作から5ヵ月後に制作されたブルーノート3作目『Inventions & Dimensions』は、ハービーが古いものではなく新しい音楽を作り出そうと決意したように感じます。
ホーン隊やギタリストを排して、メロディーとハーモニーを演奏するのは自身のピアノのみにしたのも、新たな音楽を作り出すためだったのでしょう。
その代わりにピアノトリオ+コンガというリズムを強調した変則的なバンド編成で制作されています。
1曲目”Succotash”から、それ以前のジャズピアニストでは聴くことが出来なかったような新しいメロディーラインを聴くことが出来ます。
旧世代のビ・バップやハード・バップに対する新主流派(ニュー・メインストリーム)と呼ばれるモードジャズへとハービーが駒を進めていきます。
所々で左手を使わず右手のみでメロディーを奏でたり、両手でユニゾン・フレーズを弾いてみたり、ハービーの手癖のようなフレージングを聴くことが出来ます。
ホーン隊がいない分、ジャズ・ピアニストとしてのハービー・ハンコックをしっかりと聴くことが出来るアルバムです。
まだ新しい音楽を作り出そうとしていた初期だったためか?スタンダードになるような曲が収録されていないのが本作を地味な存在にしていると思うのですが……しかし実験段階の作品を覗いているような興味深いアルバムです。
Herbie Hancock – 『Empyrean Isles』
01.One Finger Snap
02.Oliloqui Valley
03.Cantaloupe Island
04.The Egg
アルバムの内容
ここから3作品は「ジャズが好きだったら絶対に聴いておかないと!」と言えるような歴史的名盤ばかりです!
ハービーにとって4作目のリーダー作となる『Empyrean Isles』は、1964年に制作された名作です。
マイルスの黄金のカルテットから、ウッドベースのロン・カーターとドラムのトニー・ウィリアムスを引き連れて、そこにマイルスのライバルのような存在のフレディー・ハバードがトランペットで参加しています。
ウェイン・ショーターを除く、後にV.S.O.P.のメンバーとなる4人が揃ったアルバムでもあります。
1曲目”One Finger Snap”から新主流派と呼ばれる新しい世代のジャズが展開されています。
フレディー・ハバードのテクニカルなトランペットソロに挑戦的なトニー・ウィリアムスのドラミング、そこに高速でメロディーを奏でるハービーのピアノソロ……どれをとっても一流です♪(ロン・カーターは?笑)
しかし何といっても本作が歴史的に重要な作品になった理由は、3曲目の名曲”Cantaloupe Island”でしょう。
この曲も後のジャズファンク期に、全く別のアレンジが施されて再演されるのですが、オリジナルは本作に収録されているこのバージョンです。
“Watermelon Man”と同じくスタンダード曲にまで上り詰めた名曲です。
この曲もセッションで定番の楽曲なのですが……最悪ペンタトニック1発でアドリヴを弾きこなせる”Watermelon Man”程甘くはないです!
同じたった3つのコードで出来た曲なのに、”Cantaloupe Island”をペンタトニック1発で弾いてしまうと大失敗してしまうことになります。
ちゃんとコードトーンを理解して、モードのスケールなんかも利用しないと上手く弾きこなせないクセのある初心者泣かせの楽曲です。
ただしその辺を理解してしまうと、これほど楽しい楽曲もないくらいの名曲です♪
ハービーのピアノのフレーズをギターに
置き換えて弾いたりしています♪
「ジャズが好きなら知っていて当たり前!」の部類に属する定番曲です。
知っていて損はないですので、ジャズ初心者の方は必ず聴きましょう♪
Herbie Hancock – 『Maiden Voyage』
01.Maiden Voyage
02.The Eye Of The Hurricane
03.Little One
04.Survival Of The Fittest
05.Dolphin Dance
アルバムの内容
「マイルス・デイヴィスのクインテットに入って2年が過ぎ、自分でもやっていることに手応えを感じるようになっていた。彼と共演することで多くのものを学んだし、それを自分なりに試してみたかった。」
とは、ハービーが本作に対して語った言葉です。
結局マイルスかよ!と言いたくなりますが……(笑)本作のきっかけもマイルス・デイヴィスの影響なんでしょうね。(僕は大のマイルス・ファンです。)
しかし恐ろしい作品です!
音楽雑誌で「ジャズの名盤」企画があれば必ずのように入っている作品です。
それどころか、ブルーノート・レコードの全作品の中で、本作に対抗できるアルバムと言えばジョン・コルトレーンの『Blue Train』やウェイン・ショーターの『JUJU』、ケニー・バレルの『Midnight Blue』等数える程しかありません。
なんならブルーノートの最高傑作と言っても差し支えないぐらいです!
何はともあれ、ジャズを聴き始めたら真っ先に購入すべきアルバムのひとつです!
「処女航海」と言う邦題が付けられたように、本作はコンセプト・アルバムになっています。
航海に出て嵐に合い、無人島で一人残されるもそこから脱出してイルカ達が群れで暮らす平穏な地にたどり着く……まるでロビンソン・クルーソーの物語を音楽で表現したような傑作です。
前作の4人のメンバーに、この時期マイルス・バンドに在籍していたサックス奏者のジョージ・コールマンを含むクィンテットで録音されています。
ウェイン・ショーターが加入する前のマイルスバンドでイマイチな演奏を繰り広げていたジョージ・コールマンが、「あれはマイルスに委縮していただけだよ!」とでも言いたげに本作では自信満々にサックスを吹いています。
逆におすすめするのが難しいぐらいダメなとこが見つからない作品です。
ちなみに”Maiden Voyage”は、なぜかジャズファンク系のギタリストに気に入られていたのか?後にグラント・グリーンやオドネル・リーヴィーがこぞってカヴァーしています。
ジャズが好きなら必ず聴いておかなければいけないような歴史的名盤にして、ハービー・ハンコックにとっても最高傑作となったのがこの『Maiden Voyage』です。
この作品に関しては「ジャズ好きは必ず聴きましょう!」
Herbie Hancock – 『Speak Like A Child』
01.Riot
02.Speak Like A Child
03.First Trip
04.Toys
05.Goodbye To Childhood
06.The Sorcerer
アルバムの内容
若い頃のハービーと奥さんがキスをするロマンチックな写真が使われたブルーノート6作目『Speak Like A Child』は、マイルスのアルバムでも取り上げられた”Riot”と”The Sorcerer”の2曲を含む作品です。
これまでハービーのリーダー作は全て自作曲で固められていたのですが、ここで初めてロン・カーターの書いた”First Trip”を取り上げています。
ロマンチックなジャケットを見て「素敵な楽曲が並べられているんだろうな~♪」と思って1曲目を聴くと度肝抜かれます!(笑)
「暴動」という曲名通りに過激でアグレッシヴな曲で始まります。
でもジャズ初心者の方もここで諦めないで!
某石鹸のCMみたいになっちゃいましたが(笑)、タイトルトラックの2曲目”Speak Like A Child”は、ハービーのリリシズムが最も表現されたような美しい楽曲です。
ハービーのピアノの音色を邪魔しないようにホーン隊も穏やかにバックで吹いているのが印象的です。
その次に続くロン・カーターのゴキゲンなナンバー”First Trip”へと繋がる構成も素晴らしいです♪
その他にも、5曲目”Goodbye To Childhood”のハービーの思い詰めるようなピアノ演奏も聴き逃せません。
『Maiden Voyage』のように全体が同じコンセプトの下に制作されたトータルなアルバムではありませんが、本作もジャズが好きなら必ず聴いておきたい名盤のひとつです。
Herbie Hancock – 『The Prisoner』
01.I Have A Dream
02.The Prisoner
03.Firewater
04.He Who Lives In Fear
05.Promise Of The Sun
アルバムの内容
時はジャズの大変動期、歪ませたエレキギターやエレクトリック・ピアノなどの電子楽器が、それまでアコースティックだった(ジャズギター以外)ジャズの世界に押し寄せていた頃!
1969年に制作されたハービーにとって最後となるブルーノート作品『The Prisoner』は、そんな時代背景やサイバーなアルバム・ジャケットとは全く逆の美しいジャズ作品で締めくくられました。
マイルスのバンドではエレピをバシャバシャ弾いていたハービーが、自分をデビューさせてくれたブルーノート・レコードに恩を返すかのようにストレートなジャズ作品を最後に残したのは興味深いところです。
前3作品があまりにも傑作ばかりだったので、本作も少し目立たない存在ではありますが……「ブルーノート時代のハービー・ハンコックにハズレなし!」はこの7作目でも続いています。
本作も3曲目の”Firewater”がベースでも参加しているバスター・ウィリアムスの曲で、後はハービーの自作曲になります。
ハービーはベーシストが書いた曲が好きだったのでしょうかね?(笑)
ちなみに本作は、ジョニー・コールズとジョー・ヘンダーソンにガーネット・ブラウンの3管以外にも数多くのブラス隊を交えたアンサンブルが楽しめる作りになっています。
ハービーの編曲能力の才も垣間見える作品です。
以上、【ハービー・ハンコックがブルーノート・レコードに残した名作アルバム7枚のおすすめ♪】でした。
まずは『Maiden Voyage』から始めて、”Cantaloupe Island”や”Watermelon Man”のような定番曲が収録された『Empyrean Isles』に『Takin’ Off』と聴いていくと良いかもしれません。
その後、美しい『Speak Like A Child』にアンサンブルが素晴らしい『The Prisoner』や革新的な『Inventions & Dimensions』等も聴いてみて下さい。
グラント・グリーンが参加した『My Point Of View』もお忘れなく♪(笑)
ちなみに、肝心の『Maiden Voyage』が抜けてはいますが、ハービーのブルーノート初期の名作5枚を合わせたCDセットもあります。
今のところ2,000円以内で5作品を購入することが出来るお得なセットとなっております。