
2019/08/05
知られざるアルトの名手ソニー・レッドと共演したドナルド・バードの3部作+α
知られざるアルトの名手ソニー・レッドと共演したドナルド・バードのブルーノート・レーベルでの3部作+αをご紹介します。
ジャズロック時代のドナルド・バードの名演が聴ける作品群!
前回ソニー・ロリンズのライヴ盤『Don’t Stop The Carnival』をご紹介していました。
そのアルバムにはゲストでトランペットの名手ドナルド・バードが参加していました。
ドナルド・バードをゲストに迎えたソニー・ロリンズ1978年のライヴ盤 『Don’t Stop The Carnival』を聴こう♪
今回はそのドナルド・バードのリーダー作の中から、知られざるアルト・サックス奏者ソニー・レッドがサイドマンで参加したブルーノート・レーベルの3部作とオマケでLTシリーズの1枚の併せて4作品をご紹介したいと思います。
どのアルバムもジャズロック時代のドナルド・バードの名演を聴ける作品ばかりです♪
それでは1枚ずつ順番にご紹介していきたいと思います。
Donald Byrd – 『Mustang』
01.Mustang
02.Fly Little Bird Fly
03.I Got It Bad And That Ain’t Good
04.Dixie Lee
05.On The Trail
06.I’m So Excited By You
Personnel:
Donald Byrd – Trumpet
Sonney Red – Alto Saxphone
Hank Mobley – Tenor Saxphone
McCoy Tyner – Piano
Walter Booker – Bass
Freddie Waits – Drums
BN : 4238
Released : 1966
アルバムの内容
1966年に制作されたソニー・レッド入りのバードのリーダー作1枚目『Mustang』です。
この時期のバードは「ヨーロッパ留学」から帰米した直後で、久しぶりにバレエ音楽やビッグバンドから離れて自己のコンボを率いてNYの名門『ファイヴ・スポット』に出演していた頃でした。
そのコンボでの出演が大成功を収め、そのままの勢いで本作が吹き込まれています。
アルバムは、1曲目の軽快なジャズロック曲”Mustang”から始まります。
この曲の作曲クレジットに「シルヴェスター・カイナー」と書いてあるのは、ソニー・レッドの本名のことです。
リー・モーガンの名曲”Sidewinder”にも通じるジャズロック調の楽曲です。
ちなみに曲名の「ムスタング」とは、ソニー・レッドが欲しかった車の名前から付けられています。
続く2曲目”Fly Little Bird Fly”は、バードの自作曲です。
ジョン・コルトレーンのカルテットを退団したばかりのマッコイ・タイナーの軽快なピアノのイントロが映える楽曲です。
ソロ回しは、ソニー・レッドのアルト・サックス→ドナルド・バードのトランペット→ハンク・モブレーのテナー・サックス→マッコイ・タイナーのピアノの順番に続きます。
個人的には、早いパッセージも物ともしないマッコイのピアノ・ソロが一番素晴らしい出来栄えだと感じます♪
3曲目”I Got It Bad And That Ain’t Good”は、デューク・エリントンとベン・ウェブスターによる名バラード曲のカヴァーです。
まるでマイルス・デイヴィスになったかのように、バードが優しくテーマメロディーを奏でます。
4曲目”Dixie Lee”は、ミス・テネシーで女性歌手のミッキー・ウェイランド「南部的で詩的なパーソナリティを反映させたい」というコンセプトを基にバードが書いたオリジナル曲です。
バードのトランペットを軸にソニー・レッドとモブレーの2管によるオブリガードが華やかです。
5曲目”On The Trail”は、コール&レスポンスがまるでマイルス・デイヴィスの”Freddie Freeloader”を感じさせる楽曲です。
アメリカのピアニスト兼コンポーザーのファーディ・グローフェが書いた楽曲です。
ここでソニー・レッドが、マイルスの名曲”So What”でキャノンボール・アダレイが披露したアルト・ソロに似た演奏をしています。
最後の6曲目”I’m So Excited By You”は、バードがパリの友人エヴァ・リンドクイストのために書いた楽曲です。
正統派のハード・バップ曲といった感じです。
この後、CD盤にはボーナストラックとしてジミー・ヒースの”Gingerbread Boy”が7曲目に収録されていたりもします。
モブレー入りの3管セクステットが華やかなジャズ・アルバムです♪
Donald Byrd – 『Blackjack』
01.Blackjack
02.West Of The Pecos
03.Loki
04.Eldorado
05.Beale Street
06.Pentatonic
Personnel:
Donald Byrd – Trumpet
Sonney Red – Alto Saxphone
Hank Mobley – Tenor Saxphone
Cedar Walton – Piano
Walter Booker – Bass
Billy Higgins – Drums
BN : 4259
Released : 1967
アルバムの内容
『Mustang』の次に制作された1967年のアルバム『Blackjack』です。
ソニー・レッドとモブレー入りの3管は変わらず、ピアノのマッコイがシダー・ウォルトンに、ドラムのフレディ・ウェイツがボリー・ヒギンズに代わったセクステットで吹き込まれています。
1曲目の”Blackjack”は、バード作のルーズでアーシーなリズムが魅力的なジャズロック曲です。
アルバムのタイトルトラックになったのも納得の出来です。
3管によるテーマの後は、アルト・サックス→トランペット→テナーサックス→ピアノとソロが続きます。
特にソニー・レッドのフレーズを吹くというよりも、まるで言いたいことをアルト・サックスで表現したかのようなプレイが魅力的です。
所々でピッチの不安定さもありながら、テクニックだけでは言い表すことが出来ないようなアドリブ演奏です。
2曲目”West Of The Pecos”は、ソニー・レッドのオリジナル曲です。
ソロ回しは先ほどの”Blackjack”と同じですが、シダー・ウォルトンのピアノ・ソロが勢い余って後テーマにまでなだれ込んでいます。
3曲目”Loki”も同じくソニー・レッドの作曲です。
ここでソニー・レッドが、まるでオーネット・コールマンやエリック・ドルフィーを彷彿させるようなフリーキーなソロを披露しています。
その後のバードの溌溂としたソロや、シダー・ウォルトンのリズムカルなソロを聴くと、どうしてもモブレーのイマイチさが目立つ気がします。
4曲目”Eldorado”は、バードがミシガン州立大学のスタン・ケントン・クリニックで教えていた頃の生徒だったミッチェル・ファーバーが書いた曲です。
この曲も『Mustang』収録の”On The Trail”と同じ様にマイルス・デイヴィスの『Kind Of Blue』に収録されていそうな雰囲気の楽曲です。
ここでもソニー・レッドがフリーキーになりかけています。
5曲目”Beale Street”は、ソニー・レッドの作曲したゆったり目のジャズロック曲です。
シダー・ウォルトンのファンキーなピアノ・ソロが聴きものです。
最後の6曲目”Pentatonic”は、そのまま曲名通りにペンタトニック・スケールを練習中にバードが書いたアップテンポの楽曲です。
最初にソロを吹くソニー・レッドが、またしてもフリーキーなソロを披露しています。
そして相変わらずのモブレーのイマイチっぷりも予想通りです。
バードとシダー・ウォルトンのソロは、さすがですね!
前作『Mustang』以上にソニー・レッドの個性が発揮されたこの『Blackjack』もおすすめの作品です♪
Donald Byrd –『Slow Drag』
01.Slow Drag
02.Secret Love
03.Book’s Bossa
04.Jelly Roll
05.The Loner
06.My Ideal
Personnel:
Donald Byrd – Trumpet
Sonney Red – Alto Saxphone
Cedar Walton – Piano
Walter Booker – Bass
Billy Higgins – Drums & Vocal on Track 01
BN : 4292
Released : 1967
アルバムの内容
同じく1967年に制作されたソニー・レッド入り3部作の最終作となる『Slow Drag』です。
前作『Blackjack』でとってもイマイチなプレイをしていたハンク・モブレーは起用せず、バードとソニー・レッドの2管編成で吹き込まれています。
それ以外の3人のリズム隊は、『Blackjack』と同じメンバーです。
バード作の1曲目”Slow Drag”では、ドラムのビリー・ヒギンズが歌っています。(というか、ツブやいています。)
そのツブやきの後に、徐々に盛り上がっていくシダー・ウォルトンのピアノが素晴らしい出来です。
ソニー・レッドのヨレヨレのアルト・ソロが、まるで曲名のように薬物中毒者を表現するかのようです。
2曲目”Secret Love”は、サミー・フェインが作曲した曲です。
ソニー・レッドのフリーキーさが、当時のジョン・コルトレーンのフリージャズ時代を彷彿させます。
3曲目”Book’s Bossa”は、シダー・ウォルトン作のボサノバ・ジャズです。
4曲目”Jelly Roll”は、ソニー・レッド作のジャズロック曲です。
ソニー・レッドはこういった楽曲が好きだったんでしょうか。
しかしドナルド・バードのトランペットのスタイルによく合う楽曲です。
5曲目”The Loner”もシダー・ウォルトン作の楽曲です。
最後の6曲目”My Ideal”は、ニューウェル・チェイス とリチャード・A・ホワイティングによるメランコリックなバラード曲です。
ここでもは、マイルス・デイヴィスになりきったかのように優しくトランペットを奏でています。
先の2作と比べるとスローな楽曲が多く、全体的に勢いが薄れた作品ですが、その分ゆったりとした気分で聴けるのがこの『Slow Drag』という作品です。
以上がブルーノート・レーベルにおけるドナルド・バードとソニー・レッドの3部作でした。
この3作品以外に、LTシリーズとして後年に発売された『The Creeper』というアルバムも存在しています。
この作品の魅力は、チック・コリアとミロスラフ・ヴィトウスが参加していることです。
リターン・トゥ・フォーエヴァー+ウェザー・リポートと言った感じですが、チックの1968年のアルバム『Now He Sings, Now He Sobs』に先駆けること5カ月前にこの2人が共演した作品がこの『The Creeper』でもあります。
そのためかどうしてもソニー・レッドの印象が薄まってしまいます。
もはやチック・コリアとドナルド・バードとヴィトウスを聴く作品と化しています。
「やっぱりチック・コリアってすごいピアニストなんだなぁ~」と感じてしまうアルバムです。
以上、【知られざるアルトの名手ソニー・レッドと共演したドナルド・バードの3部作+α】でした。
3部作は、どれも知られざるアルトの名手ソニー・レッドとドナルド・バードの共演が聴ける素晴らしいアルバムばかりです。
ただどうしても『The Creeper』だけは、僕はチック・コリアを中心に聴いてしまいます。
ところで、よく考えたらこのブログではちょくちょくジョー・ヘンダーソンとドナルド・バードを取り上げているな~と自分で感じました。
この時代のジャズロックを演奏するジャズマンが好きなんです。
また今後もドナルド・バードの他の作品もご紹介していきたいと思います。
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