2019/09/29
ハンク・モブレーがブルーノート・レコードに残したおすすめのアルバム6選‼
ジャズ・サックス奏者のハンク・モブレーがブルーノート・レコードに残したおすすめのアルバムを6作品選んでご紹介したます。
数多く存在するリーダー作から個人的におすすめしたい名盤6作品をチョイス♪
ハンク・モブレーは、1930年7月7日というゾロ目の日にアメリカのジョージア州ドッジ郡の都市イーストマンに生まれたサックス奏者です。
1986年に55歳で亡くなるまでに名門ブルーノート・レコードにて数多くのセッションをこなしています。
自身のリーダー作だけでなくサイドマンとしての参加も多数記録されています。
そもそもモブレーが名門ブルーノート・レコードと関りを持つようになったのが、彼の初レコーディングにも当たる1954年のホレス・シルヴァーのクインテット作品からでした。
この記念すべき初録音となったクインテットはそのままジャズ・メッセンジャーズと名乗るようになり、これによってモブレーは初代ジャズ・メッセンジャーズのメンバーということになりました。
これと同じ年にモブレーは初リーダー作となる『Hank Mobley Quartet』をブルーノート・レコードからリリースしています。
その後1970年までにブルーノート・レコードにて約26枚にも及ぶリーダー作を制作しています。
今回は数多くあるハンク・モブレーのブルーノート・レコード作品から、僕の好きな6作品をご紹介したいと思います。
僕がブログを通してジャズをおすすめしたい理由
もしかしたらジャズがお好きな人からしたら「ベタなチョイスだな!」とか「あの作品は入ってないのかよ!」とか色々と批判できる箇所もあるかと思いますが……
あくまでもこのブログの理念のひとつである「ジャズ初心者の方に僕の聴いてきたジャズをおすすめしたい。」をモットーに書きたいと思います。
僕がジャズを聴き始めた頃には、今のようにネットは発展していませんでした。
周りには「どの作品がおすすめなのか?」という風にジャズの聴き方を教えてくれる人もいなく、雑誌や専門書を読んでも音楽のおすすめというよりも「いついつに録音セッションを行って、誰誰のメンバーが参加していて……で、このメンバーは○○のセッションでも参加していて……」みたいに、データをまとめたようなことばかり書いてあって……結局どの作品を聴くべきなのか、わからないままで終わっていました。
初心者だった僕が知りたいのは録音データとか原盤の「○○番台」とかいう番号ではなく、演奏内容やどの曲がおすすめなのか?などの音楽に対する情報でした。
(といっても僕もブログで録音日や参加メンバーのことを一切書かないわけではないんですが……。ん~なかなか難しいですね。笑)
そういった過去の自分が本当に欲しかった情報を、逆に大人になった僕自身が情報発信していければ……と思いこのブログを立ち上げています。
もちろん完璧にその役割を果たすことは難しいのですが……もし「これからジャズを聴いてみたい!」と興味を持った方々に、僕のこのブログのおすすめを読んで「難しく考えてたけど、意外とジャズって気軽に聴けそう♪」と感じていただければと思います。
それと単純に僕の好きな作品を、より多くの人に聴いてもらって同じ音楽が好きな人が1人でも多く増えてくれたら嬉しいな~と思うからです。
僕自身は若い頃にジャズを話せる人がいなくって寂しい思いをしましたが、でもこのブログを通して多くの人がジャズを聴くようになってくれればいいな~って思います。
といったわけで、いつもの様にではありますが僕が好きなハンク・モブレーの作品をなるべくわかりやすくカジュアルな感じで書いていければ……と思います。
なんだかジャズの批評本とかって妙に堅苦しくって、そもそも文章を読むのが大変ですよね……。
そうなってくると「ジャズって気軽に聴いてはいけない音楽なのかな……。」と諦めてしまいそうになります。
でもね、ジャズも「音楽」なんです。
文字通りに「音楽」は、楽しんで聴くものだと思います。
気難しいことは考えず、メロディアスなサックスの音色に、リズミカルなドラムのグルーヴに身を任せて全身で聴くことが一番大事なことだと思います。
しかめっ面で理論ばかり考えて「わかりあえる者だけ」で寂しく聴くべきものではないと思います。
良い「音楽」は、みんなで聴いて楽しみましょう。
それでは前置きが長くなりましたが、僕の好きなハンク・モブレーのブルーノート・レコード作品を6枚ご紹介したいと思います。
Hank Mobley – 『Hank Mobley Quintet』
01.Funk In Deep Freeze
02.Wham And They’re Off
03.Fin De L’Affaire
04.Startin’ From Scratch
05.Stella-Wise
06.Base On Balls
アルバムの内容
モブレーが1957年に吹き込んだブルーノート・レコードの4作目のリーダー作に当たる『Hank Mobley Quintet』です。
モブレー以外にピアノのホレス・シルヴァー、ドラムのアート・ブレイキー、ベースのダグ・ワトキンスという初代ジャズ・メッセンジャーズのメンバーが参加しています。
そこにトランペッターのアート・ファーマーが参加しています。
僕はジャズ以外にもファンクが大好きなのですが、高校生の頃に”funk”という単語を辞書で調べてみたことがあります。
するとそこには「アート・ブレイキー要するザ・ジャズ・メッセンジャーズが50年代に演奏していたファンキー・ジャズから始まった音楽」みたいなことが書いていたのをうろ覚えしています。
「ジャズとファンクって全然リズムが違うんじゃない?」と不思議に思っていました。
それから自分でもギターを弾くようになって、色んな教則本や雑誌を読んでみると「ファンクの16分のリズムをしっかり弾きこなすには、まずはスウィングのリズムをしっかりと弾けないといけない。」と書かれているのを何度か目にしました。
パッと聴くと全く別物の音楽ジャンルの様ではありますが、ファンクはジャズの影響を受けて形成されていった音楽なんだな~と考えるようになりました。
それから数年経った時にこのアルバムを聴きました。
モブレー自身が書いた”Funk In Deep Freeze”という1曲目のタイトルに”funk”という言葉が使われていました。
もちろんこの曲は”funk”ではなくれっきとした”jazz”です。
しかしブレイキーのドラムのシンコペーションを聴いていると、どことなくこれが後の”funk”という音楽ジャンルを生み出すこととなった要因なのかな?と感じられます。
ジャズとファンク……異なる音楽ジャンルですが、全く別物ってわけではないんですね。
ちなみにこの時期のジャズのことを「ハード・バップ」と呼びます。
これはアドリブ演奏を主体として「ビ・バップ」からより発展したジャズのことで、無頼派と言われるビ・バップよりも、バンド全体のアンサンブルにより重点を置いた音楽性です。
フロントマンがアドリブ演奏をしている時でも、バックの演奏陣は同じパターンを繰り返すだけでなく、ソロに合わせて演奏パターンに変化をつけてみたり、なんならフロントマンを煽ってみたりしてリズム隊も演奏を盛り上げるのが特徴的です。
例えばこの曲だと、モブレーのサックスソロの途中、5分14秒にブレイキーが渇を入れています!
モブレーってヘタではないんですが、なんていうか気迫が欠けているというか……ソニー・ロリンズやジョン・コルトレーンのように豪快で力強いのではなく、サックスの音色がとっても大人しいんですよね。
ブルーノート・レコードの創始者アルフレッド・ライオンによると「ハンクは本当に気のいい男だった。ちょっと優柔不断なところが欠点ではあるけどね。」と言ったように、そのプレイもとても優柔不断に聴こえます。
この曲でも最初にソロを吹くアート・ファーマーの自信に溢れたトランペットソロや、バックのリズム隊のグルーヴにノッた余裕のあるピアノソロを弾いているホレス・シルヴァーと比べると、自信なさそうにソロを吹いているようにも聴こえてしまいます。
なんなら次のフレーズに迷っているような⁉そこにブレイキーが渇を入れてフロントを盛り上げようとしているこの感じ……これがハード・バップの特徴の1つだと思います。
2曲目”Wham And They’re Off”は、ブレイキーの勢いあるドラムのイントロから一気にフルスロットルで始まるファスト・テンポのジャズです。
テーマはブレイキーとファーマーがユニゾンで吹きつつ、それぞれ1人ずつの箇所も挟み演奏されています。
トップバッターでソロを吹くのはモブレーです。
サックスの音色こそ弱目ではありますが、メロディーラインはとてもわかりやすく耳馴染みは良いです♪
もちろんブレイキーが「もっと勢いよく吹け!」と言わんばかりにバックで煽りまくています。(笑)
ブレイキーのドラムセットあが壊れるんじゃないかな?と思ったところで、ファーマーの溌溂としたトランペットソロに移ります。
あまりのノリの良さにバックでコンピングしているシルヴァーのピアノもゴキゲンに弾みまくています♪
この気持ちの良いアンサンブルこそがハード・バップです!
そのノリを維持したままシルヴァーのピアノソロに移ります。
「これってホレス・シルヴァーのアルバムだっけ?」とリーダーのモブレーを忘れてしまいそうになった頃に(笑)ホーン隊2人がユニゾンでキメフレーズを吹き始めます。
それを合図にブレイキーのドラムソロが始まります。
モブレーよりも少し早いタイミングでファーマーのトランペットが入り、モブレーもモッチャリと後に続き再びユニゾンのキメが入ります。
アップテンポの2曲目が終わると3曲目のバラード曲”Fin De L’Affaire(情事の終わり)“が始まります。
モブレーがブルージーにテーマとソロを奏でた後にファーマーのミュート・トランペットによるリリカルなソロが始まります。
その後シルヴァーのピアノソロと続き再びモブレーのソロに戻っていきます。
レコード盤だとここでA面が終了するのですが……CDだとこのまま次の曲に繋がります。
美しいバラード曲が終わり一息ついたところでアップテンポの4曲目”Startin’ From Scratch”が始まります。
勢いよく2本のホーンによるユニゾンのテーマで始まると、その勢いのまま本作のリーダーのモブレーがソロを吹き始めます。
1分を過ぎた辺りでソニー・ロリンズの演奏した”The Surrey With The Fringe On Top(飾りのついた四輪馬車)“風のフレーズも飛び出します!
1曲目の”Funk In Deep Freeze”のサックスソロはどことなく自信なさげに聴こえたのですが……速いテンポのこの曲ではまるで水を得た魚の如く勢いあるソロを展開しています。
それに影響されてか、次のファーマーのトランペットソロもシルヴァーのピアノソロも負けじと盛り上がりを見せます。
フロント3人のソロが終わるとブレイキーと2本のホーン隊によるバースのソロ回しが始まります。
モブレー4小節→ブレイキー4小節→ファーマー4小節→ブレイキー4小節……という風に交代してソロ回しが行われます。
5曲目”Stella-Wise”もこのクインテットのアンサンブルを遺憾なく発揮したユニゾンによるテーマが印象的なハード・バップ曲です。
シルヴァーのピアノソロから始まり、ブレイキーのフロントを煽るようなナイアガラロールを合図にモブレーのソロに移り、そのままトランペットソロを挟み最後にはブレイキー1人でドラムソロを叩いてしまっています。
2本のホーンにピアノまでいるのに、ブレイキーばかり目立って聴こえてしまうってのも凄いですよね。
そんな時でもダグ・ワトキンスは、しっかりとリズムをキープしています!
もしかしたらダグ・ワトキンスこそが全ての楽曲の土台を作る本当のまとめ役なのまもしれません⁉
ベーシストって派手なフロントマンやバカスカ叩くドラマーの陰に隠れがちですが……本当は他の演奏者から一番頼りにされる存在ですからね。
最後の6曲目”Base On Balls”は、そんなダグ・ワトキンスのウォーキングベースのイントロから始まるミドルテンポの渋いジャズ・ブルース曲です。
ブルーノート・レコードの創始者アルフレッド・ライオンは、そのレーベル名通りにブルースも大好きな人でした。
ライオンは才能ある新人ミュージシャンにもレコーディングのチャンスを与えた先見の明ある人物で、彼らにカヴァー曲だけでなく自作曲をレコーディングするチャンスをも与えた心の広い人物でもありました。
他のレーベルだとジャズ・スタンダード曲を中心にアルバム制作をしなければいけないのに、この『Hank Mobley Quintet』のように全曲をオリジナル曲で制作するチャンスを与えています。
本作は全てモブレー自身が書いたオリジナル曲で構成されているのですが、最後の最後にジャズ・ブルース曲で締めくくられています。
ライオンは、全ての楽曲をオリジナル曲で制作することを許可しましたが1つだけ条件を出していたそうです。
それは自分の好きな「ジャズ・ブルースの曲を必ず1曲作ってくること」だったそうです。
そういったこともあってか、初期のブルーノート作品には必ずのように自作のジャズ・ブルースが収録されています。
僕がモブレーのこの作品を好きな理由も実はこの曲だったりします。
僕自身もジャズと同じくらいブルースが好きだってことは、このブログの他の”Music”のブログ記事に目を通していただければお分かりになると思います。
勢いあるハード・バップが続いた最後に渋いジャズ・ブルース曲があると、なんだか落ち着いて作品を聴き終えることが出来るんですよね。
それまでブレイキーばかり目立っていたリズム隊も、この曲ではダグ・ワトキンスのウォーキングベースが中心となっています。
3人のフロントマンもソロでは思い思いのブルースを伸び伸びと演奏しています!
ジャズマンと言えども、やはりみんなブルースも好きだったんだな~と感じれる1曲です。
ブルース嫌いな人がこんな素晴らしいソロ演奏は絶対にできないですからね。
曲の最後はリズム隊2人だけになってフェードアウトしていく終わり方もアルバムの締めとしては最高です♪
今回ご紹介する6作品の1つめは、モブレーのリーダー作の基本とも言えそうなバランス良い選曲のオリジナル曲で構成された『Hank Mobley Quintet』でした。
Hank Mobley – 『Soul Station』
01.Remember
02.This I Dig Of You
03.Dig Dis
04.Split Feelin’s
05.Soul Station
06.If I Should Lose You
アルバムの内容
ここから3作品は「モブレー3大傑作」とも呼ばれる60年代初頭のブルーノート三部作になります。
おそらく僕も含めハンク・モブレーの作品の中で、「ウソ偽りなく最も好きな作品はどれか?」という問いかけに、この『Soul Station』を挙げる人は多いんじゃないかな?と思います。
僕にとってのモブレーの最高傑作は文句なしにこの1960年の名盤『Soul Station』です!
アルフレッド・ライオン曰く、「モブレーは音楽的アイデアはあったものの引っ込み思案でシャイなため、自分のことを表に出すタイプではなかった」とのことです。
その神経質な正確なためか、気の許せるミュージシャンが少なかったので、気心の知れたメンバーを集めることが良い録音をする条件だったようです。
モブレーの多くの作品に同じ様なミュージシャンの名前が登場するのはこういったわけです。
本作には引き続きドラムのアート・ブレイキーを起用しています。
その他には、ピアニストのウィントン・ケリーとベーシストのポール・チェンバースというモブレーにとって最良のメンバーが選ばれています。
といっても、この時期のジャズ作品の多くにウィントン・ケリーとポール・チェンバースは参加しているんですがね。(笑)
後はフロントマンの違いと、ドラムがフィリー・ジョー・ジョンズだということぐらいでしょう。
さて、先ほどの『Hank Mobley Quintet』が全てモブレーのオリジナル曲で構成されていたのに対し、本作は2曲のカヴァー曲が取り上げられています。
まず1曲目の”Remember”がそのカヴァー曲になります。
アーヴィング・バーリンが1925年に書いた古き良き時代のスウィング・ジャズの隠れた名曲です。
本作を除けば、ベニー・グッドマン楽団が1936年に演奏したのが有名です。
でも僕としては、もはやこの曲はモブレーのこの名演こそが最も素晴らしい演奏だと思います。
「マイルス・デイヴィスのバンドに参加している時のあの自信なさげなモブレーはどこにいったの?」と言いたくなるぐらい自信に満ち溢れた演奏をしています。
本作はモブレー以外の管楽器の参加はなくワンホーンで全て演奏されています。
しかしそれが退屈になることなどなく、むしろモブレーの魅力を思う存分満喫できる暖かみのあるトーンを独り占めして聴くことが出来ちゃいます。
テーマメロディーからソロまで、全てのフレーズに無駄がなく、どこまでもメロディアスに伸び伸びと演奏しています。
どこも否定できるような箇所がないくらいに、サックス奏者にとってのお手本のような完璧な演奏です。
そのままケリーの小気味良いピアノソロまでもが、モブレーに影響されているかのようなフレージングに感じます。
なぜか僕は、毎年冬になるにつれこの曲のモブレーの吹くテーマメロディーが頭の中で鳴り始めます。
冬の寒さをモブレーの暖かみのあるサックスで耐えようとしているのかもしれませんね。(笑)
一度聴くと永久に忘れないような印象的なメロディーラインです。
そのままモブレー作の2曲目”This I Dig Of You”に続きます。
まるでこの曲も先の”Remember”の続編であるかのような寛いだ雰囲気の楽曲です。
マイルス・デイヴィス・バンドにいる時のモブレーのことは忘れてやってください。(笑)
こちらのモブレーが本物です!
3曲目はモブレーのオリジナルのジャズ・ブルース曲”Dig Dis”です。
この曲ではケリーの弾くゴキゲンなピアノソロが一番の聴きどころとなります。
2曲目と似た路線のジャズ曲4曲目”Split Feelin’s”と続きタイトルトラックの5曲目”Soul Station”も自作のジャズ・ブルース曲です。
ゴキゲンにスウィングするピアノが得意なケリーが参加しているためなのか?ノリのよいジャズ・ブルース曲が2回も登場します。
そしてアルバムの締めの6曲目は、作曲家のラルフ・レインジャーが1936年の映画『Rose of the Rancho』のために制作したバラード曲”If I Should Lose You”のカヴァーです。
チャーリー・パーカーを始めグラント・グリーンやオスカー・ピーターソン等、ジャズマンに人気の楽曲です。
その中でも本作のモブレーの演奏が最も光っていると僕は思います。
逆に「どうしたのモブレー?なんでこんなに調子が良かったの?」と疑問に感じてしまいそうです。(笑)
いや、これこそが彼の本来の力だったのでしょう!
もし今回の6作品の中でも、どれか1枚だけ聴いてみたいな~という人にはまずはこの名盤『Soul Station』をおすすめします。
これが最高傑作だと思います。
Hank Mobley – 『Roll Call』
01.Roll Call
02.My Groove Your Move
03.Take Your Pick
04.A Baptist Beat
05.The More I See You
06.The Breakdown
アルバムの内容
モブレー3大傑作の2作目『Roll Call』も先ほどの『Soul Station』と同じ1960年に制作されています。
今回は『Soul Station』と同じメンバーに、当時期待の新人だった若手天才トランペッターのフレディー・ハバードが参加したクインテット編成で吹き込まれています。
前作から9ヶ月後の録音だった本作には期待の新人が参加しているためなのか?先輩たちも気合が入り緊張感のある楽曲が並びます。
1945年の映画『ダイアモンド・ホースシュー』のためにハリー・ウォーレンが作曲した5曲目の”The More I See You”以外は全てモブレーの自作曲になります。
1曲目のタイトル曲”Roll Call”から、録音スタジオの張り詰めた空気が感じられるようなキビキビとしたアップテンポの楽曲です。
若手に負けてられるか!とモブレーを始めケリーのピアノソロやブレイキーのドラムセットを壊さんばかりの大打撃など迫力ある演奏が繰り広げられています。
この録音後にドラムセットが壊れたんじゃないだろうか?と思えるような勢いです!
しかしそんな先輩達の猛攻にも関わらず、一番後輩のハブ君(ハバードのニックネーム)のソロが一番凄かったりします!
こればかりは天性の才能によるものなんですね……。
60年代になり、ジャズがハード・バップだけに留まらず新しい世界へと進んでいこうとしているのが聴こえてきます。
寛いだ雰囲気だった前作『Soul Station』から打って変わって、次の2曲目”My Groove Your Move”が始まっても緊張感が続きます。
「これってモブレーの作品だよね?」と自分自身に問いかけてみたくなるほどハブ君が目立っちゃってます。
モブレーの自作曲なのに、まるでハバードに牽引されてテーマを吹いてるようにすら感じます。
5曲目のカヴァー曲”The More I See You”になってようやく「あぁ『Soul Station』で聴けたモブレーの暖かいトーンだ!」と落ち着くことが出来ます。
なんだかんだでモブレーにはこういった寛いだ雰囲気のメロディアスな楽曲が一番合っているように感じます。
ただし、ソロに入るとハブ君が珠玉のトーンでミュート・トランペットを吹いちゃっています。
ほんと上手いね、ハブ君って!
最後6曲目”The Breakdown”もまたしてもハブ君が主役になっちゃってます。
後輩に負けそうになっているモブレーを助けるためなのか?それとも気合を入れなおそうとしているのか?最年長者のモブレーがドラムセットを壊す勢いでソロを披露しています。
バラード曲の”The More I See You”以外、全ての曲で独特の緊張感を維持した演奏を聴くことが出来ます。
そうしてもフレディー・ハバードの上手さが目立ってはいますが、しかし作曲はモブレーのペンによるものです。
寛いだ『Soul Station』とは違った緊張感溢れる『Roll Call』を続けて聴いてみてはいかがでしょうか。
Hank Mobley – 『Workout』
01.Workout
02.Uh Huh
03.Smokin’
04.The Best Things In Life Are Free
05.Greasin’ Easy
– Bonus Track for CD –
06.Three Coins In The Fountain
アルバムの内容
モブレー3大傑作の最後は1961年に制作された『Workout』です。
座り煙草をしている渋いモブレーのジャケ写だけでも購買意欲をそそる作品なのですが、中身の方も満点の出来です!
メンバーは、引き続きウィントン・ケリーとポール・チェンバースが参加しているものの、ドラムがフィリー・ジョー・ジョンズに代わっています。
音のデカさや派手過ぎる叩き方が多少気になりますが……ハード・バップを代表するドラマーです。
そしてなんといっても僕が一番尊敬するジャズ・ギタリストのグラント・グリーンが参加しているのも本作の魅力のひとつです。
内ジャケには、5歳年下のグラントに譜面を通して曲構成を伝えているモブレーの貴重な写真も掲載されています。
レイ・ヘンダーソンとルー・ブラウンによる『Good News』というミュージカル・ナンバーの4曲目”The Best Things In Life Are Free”と、CD盤のボーナストラックである6曲目の同名映画の挿入歌”Three Coins in the Fountain”以外は全てモブレーの自作曲です。
フィリー・ジョーの勢いあるドラムから始まる1曲目”Workout”は、モブレーのサックスとグラントのギターがユニゾンでテーマを奏でます。
まずはモブレーがお手本とばかりに流麗なサックスソロを吹き始め、それに続くようにグラントがギターソロを弾きます。
この頃はまだしつこいほどの繰り返しのシーケンスフレーズを弾くことはありませんが、既にグラントの手癖フレーズが何度も登場します。
5分16秒辺りで弾いているギターソロのフレーズは、この時期のグラントがよく弾くパターンです。
次の2曲目”Uh Huh”は、ウィントン・ケリーが得意そうなノリの良いスウィングするジャズ曲です。
余裕をもって大らかにソロを吹くモブレー、1つ1つのフレーズを確かめるかのように慎重にギターを弾くグラント、天性のノリを活かしてピアノを思いっきりスウィングさせるケリー、3者3様のソロを披露しています。
アルバム・ジャケットのモブレーを思わせる曲名の”Smokin'”は、渋い楽曲かと思いきや、アップテンポのハード・バップです。
いかにもモブレーが自分のお得意とする曲を書いたといったところでしょうか。
グラントもここでは勢いに乗ったギターソロを弾いています。
4曲目のカヴァー曲”The Best Things In Life Are Free”は、もともとのテーマメロディーが完成されているだけあって文句なしの名演に仕上がっています。
アーヴィング・バーリンが1925年に書いた”Remember”から2年後となる1927年に書かれた曲だけあってか、少し似たテーマメロディーを持った曲です。
テーマはモブレーのワンホーンで演奏されています。
面白いのがグラント・グリーンは、もともとチャーリー・パーカーを聴いてそのフレーズを真似してジャズ・ギターを修得しただけあって自身をコード楽器としてではなくホーンと同じようにフロントの楽器と捉えているところです。
そのため本作では一切バッキングを弾いていません。
本来ならピアノの音とブツからない様にギターもコンピングを「ジャッジャッ♪」と弾くものなのですが、グラントはテーマをユニゾンで弾くか、ソロを弾く時しか登場しません。
そういった点では先のアート・ファーマーやフレディー・ハバードと同じようにトランペッターと同じ感覚なのでしょうね。
ちなみに擁護しておきますと、グラントはバッキングを弾くことが出来ないわけではありません。
むしろ抜群のグルーヴ感で、リズム隊顔負けな程コンピングも得意なんです。
しかしグラントは、オルガンと演奏する時以外は、自身をホーン隊と同じように捉えていて、ほぼコンピングをしません。(たまに例外あり。)
グラントのコンピングを聴きたければ、オルガン作品にサインドマンとして参加したアルバムを聴いてみてください。
グラント・グリーンがサイドマンで参加したオルガンジャズの名盤6選
アルバムの本編最後はモブレーの自作ジャズ・ブルース曲”Greasin’ Easy”で締めくくられています。
ここでもグラント・グリーンは、2分48秒から続くギターソロで手癖フレーズを弾いていますね。
多くの作品で同じ様な手癖フレーズを弾いているため、どうしてもテクニックに拘るジャズ・ギター・ファンから認められていないような気がしてならないグラント・グリーン・ファンの僕なのですが……このお決まりフレーズがあるからいいんですよ!(笑)
本作はCD盤のみのオマケ音源のカヴァー曲”Three Coins In The Fountain”の出来も素晴らしいので、ぜひCD盤の方で聴くことをおすすめします。
Hank Mobley – 『Dippin’』
01.The Dip
02.Recado Bossa Nova
03.The Break Through
04.The Vamp
05.I See Your Face Before Me
06.Ballin’
アルバムの内容
僕はジャズ喫茶全盛期に生まれた世代ではありません。
ジャズ喫茶ブームが下火を迎えた後で生まれているので、その世代の方々とは親子ほど年が離れています。
そんな「若輩者がジャズを偉そうに語るな!」とジャズ喫茶世代の先輩方から説教されてしまいそうなのですが……しかし僕も世代は違えどその先輩方と同じように10代の頃から自分の意志でジャズやブルースを聴くようになりました。
リアルタイムでジャズを体験こそしていませんが、ジャズに対する情熱は同じだと自分では思っています。
だから日本のジャズ喫茶で本作収録のボサノヴァの名曲カヴァー「リカード・ボサノヴァ」が流行ったことを、本で読んだだけでしか知らなかったし、もちろん生まれていなかったので実際にジャズ喫茶に行って体験もしていません。
しかし本作の”Recado Bossa Nova”の素晴らしさは初めて、本作を聴いた時に直ぐに気づきました。
お互いの作品でよく共演しあった天才トランペッターのリー・モーガンが本作の吹き込みに参加しています。
その気の合う2人によるテーマメロディーのユニゾンは何度聞いても堪らないものがあります。
ハロルド・メイバーンによる洒落たピアノのコンピングも見逃せません。
本作はこの”Recado Bossa Nova”を聴くためだけに購入しても良いくらいの名演だと思います。
しかしここでリー・モーガンが参加したことによって軽快な8ビートのジャズ・ロック”The Dip”が1曲目に収録されているのもポイントだったりします。
アート・ブレイキーやフィリー・ジョーのドラミングが吹く臭く感じられるほど、本作のビリー・ヒギンスの軽快なドラミングはジャズに新しい時代が訪れたことを告げてくれているかのようです。
この辺は個人的な好みだと言えますが、なんだかんだでロックも好きな僕には本作のビリー・ヒギンスのようなドラムの方が好きだったりします。
本当は”Recado Bossa Nova”だけじゃない1966年の名作『Dippin’』も、『Soul Station』と同じようにハンク・モブレー最初の1枚として聴いてみても良いと思います。
Hank Mobley – 『Another Workout』
01.Out Of Joe’s Bag
02.I Should Care
03.Gettin’ And Jettin’
04.Hank’s Other Soul
05.Hello, Young Lovers
アルバムの内容
1961年に録音されておきながら1985年になるまでお蔵入り状態だった『Another Workout』は、『Workout』からグラント・グリーンを省いたカルテット編成で吹き込まれています。
モブレーによるオリジナル曲は3曲で、2曲目の”I Should Care”はピアニストのポール・ウェストンが1945年のミュージカル映画『Thrill of a Romance』のために書いた曲で、5曲目の”Hello, Young Lovers”は”My Favorite Things”でお馴染みロジャース&ハマースタイン・コンビが1951年に書いた曲です。
しかしその2曲のカヴァー曲の出来が素晴らしかったりします。
モブレーのワンホーンによる暖かみのあるトーンは、ドラムこそ違えど名盤『Soul Station』を彷彿させます。
アルフレッド・ライオンがハンク・モブレーについてこう語っています。
「引っ込み思案だけど、ハンクは絶対に自分のスタイルを曲げなかった。不器用なのかもしれない人に合わせるのが苦手なんだ。いつも私は彼がもっとも寛げるメンバーを集めた。似たようなミュージシャンとばかりレコーディングしたのも、それが理由だ。」
モブレーが最も本領を発揮できるメンバーがこのメンバーだったのかも知れませんね。
以上、【ハンク・モブレーがブルーノート・レコードに残したおすすめのアルバム6選‼】でした。
マニアックを目指すのではなく、ジャズ喫茶世代ではない僕のような次の世代が、更に若い今の世代の人に向けてジャズをご紹介出来れば……と思い書いてみました。
「これからジャズを聴いてみたい!けど、どれから聞いたらいいのかわからない?」という人の手助けを出来れば……と思います。
僕が若い頃に悩んでいたこと……このブログを通してジャズ・ファンが今後も増えていってくれて、僕と同じ様な寂しい思いをしない人たちが増えてくれたら喜ばしいことです。
あなたの最初のジャズ・アルバムに、ハンク・モブレーの作品を選んでみてはいかがでしょうか?
出来れば6作品全部を聴いてもらいたいけれども……まずは『Soul Station』か『The Dip』から聴き始めることをおすすめします。
どんな音楽雑誌や音楽サイトでも必ずと言っていい程に紹介されるようなベタな作品が名盤と言われるには訳があります。
それらは時代を超えて、多くの人の心を揺さぶることが出来る作品なのです。
ジャズ喫茶全盛期の世代の先輩方も、その息子世代の僕も、そしてこれからの若い世代の人達をも感動させられるから名盤なのです。
ジャズ初めの1枚にぜひ『Soul Station』か『The Dip』を!
そしてそこから他の4作品も聴いてみて下さい。
また僕のこのブログに書いています他のジャズ作品にも興味を持っていただけたら幸いです。
人生を豊かに彩るジャズの名曲をあなたに……。
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