2018/07/10
ジョン・コルトレーンのインパルスレーベル第一弾『Africa/Brass』を聴こう!
ジョン・コルトレーンのインパルスレーベル第一弾作品『Africa/Brass』
アフリカ音楽を題材にオーケストラ編成でモードジャズを探求!
1961年…ジョン・コルトレーンが、1959年にマイルス・デイヴィスのセクステットで制作した歴史的名盤『Kind Of Blue』に参加したことでモードジャズの洗礼を受け、その後モードジャズの可能性を追求していくこととなる時期です。
モード・ジャズの金字塔にしてマイルス・デイヴィスの歴史的名盤『Kind of Blue』の50周年記念盤をご紹介します。
モードジャズとは、それまでのコード《和音》を中心としたジャズではなく、モード《旋法》を中心とした、よりアドリヴの可能性を追求したスタイルのことです。
ジャズ界にモードを提示したのがマイルス・デイヴィスであり、そのモードをより発展させていったのがジョン・コルトレーンでした。
ちなみにこの2人は同い年です。
しかし音楽キャリアは、マイルスの方がコルトレーンよりも10年以上先輩に当たります。
さて、コルトレーンがモードジャズの可能性を追求していた最も素晴らしい時期は、ABCパラマウント参加に設立された新興のジャズレーベルのインパルスと契約を交わした1961年4月から始まります。
この時、コルトレーンはそれまで所属していたアトランティックレーベルから移籍して、3年で約5万ドルというマイルス・デイヴィスに次ぐ高額の契約金を手にしています。
そしてインパルスに移籍してすぐの1961年5月23日と6月7日の2日間のレコーディングからこのアルバムは制作されています。
この時すでにピアノのマッコイ・タイナーとドラムのエルヴィン・ジョーンズは参加していましたが、ベーシストはジミー・ギャリソンではなくレジー・ワークマンでした。
まだ《黄金のカルテット》のメンバーが揃う前です。
1961年のインパルスレーベル第一弾として発売されたのがこの『Africa/Brass』というアルバムでした。
ちなみに今回は通常盤だけでなく、スタジオセッションをまとめたCD2枚組計8曲入りのコンプリートバージョンのご紹介もしたいと思ます。
通常盤のアルバムでは、タイトル曲の”Africa”とイギリス民謡の”Greensleeves”と、コルトレーンの自作曲”Blues Minor”の3曲が収録されています。
3曲と言ってもどれも5分以上の長尺曲ばかりです。
もちろん僕はこのアルバム大好きなので、通常盤とコンプリート盤はどちらも持っています。
こちらがCD2枚組8曲収録のコンプリート盤です。
アルバムの内容
通常盤の1曲目は、タイトル曲でもある約16分にもおよぶコルトレーンの自作曲”Africa”で始まります。
この頃のコルトレーンは、パーカッション奏者のババトゥンデ・オラトゥンジと知り合ったことでアフリカの文化に興味を持つようになっていました
それと同時にこの時期はヨーロッパの植民地だったアフリカ諸国が次々と独立していった時代でもありました。
そんな中で制作されたこの曲は、まるでアフリカのジャングルの野生動物たちの騒音をオーケストラ編成で表現したかのような曲です。
エリック・ドルフィーがブラス編曲を担当したこの曲には約10人ほどになる管楽器隊が参加しています。
その中にはエリック・ドルフィーの伝説のファイヴ・スポットでのライブ盤にも参加していた若き天才トランぺッターのブッカー・リトルも名を連ねています。
Fire Waltzの衝撃!エリック・ドルフィー怒涛のファイヴ・スポットでのライヴ録音!
この曲は、壮大なオーケストラをバックにはしていますが曲はいたってシンプルなAABA形式です。
コルトレーンは、ワンコードのバックにして様々なモード理論でソロを吹きまくっています。
エリック・ドルフィーやブッカー・リトルのような天才ソロイストが参加していますが、彼らにソロパートはなくあくまでコルトレーンのカルテットが主役です。
サックス、ピアノ、ベース、ドラムのカルテットのみがソロを演奏します。
2曲目は、有名なイギリス民謡の”Greensleeves”です。
この曲では、当時まだ駆け出しだった頃のトランぺッターのフレディ・ハバードが参加しています。
もちろんフレディもソロパートはなしです。
あの技巧派のフレディ・ハバードが単なるアンサンブルの一員でしかないっていう…今にして思えば、なんとも贅沢な話ですよね。
このアルバム発表より少し前にコルトレーンは、自身の生涯の代表曲になる”My Favorite Things”をカヴァーしています。
ワルツ調の有名なミュージカル曲を、モードジャズの理論でアドリヴを吹きまくる”My Favorite Things”が、ライヴで好評だったため味を占めたのか?似たようにモードの理論でアドリヴを展開できる”Greensleeves”を今回は選んでいます。
コルトレーン自身のアレンジで6/8拍子で演奏されるこの曲は、この後の伝説のヴィレッジバンガードでのライヴや、エリック・ドルフィーを伴ったヨーロッパツアーでもライヴで取り上げられていました。
しかしいつの間にか、”Greensleeves”を演奏することはなくなっていきました。
とても良い曲と素晴らしい演奏なだけにとても残念ですよね。
晩年のコルトレーンの演奏でも聴きたかったぐらいです。
そして最後の3曲目は、コルトレーンのオリジナル曲の”Blues Minor”です。
ライヴでは演奏されることがなかったような気がしますが(?)かなりかっこいい曲です!
ブルースと言っても、モード化して多才な音色で演奏されています。
こういった渋めのブルース曲をバックに、革新的なモード奏法でアドリヴソロをバリバリと吹くコルトレーン…大好物です!
このコルトレーンのソロ部分だけを延々と流していたいぐらいかっこいいソロなんです!
そして途中で、オーケストラがコルトレーンのソロにかぶさってアンサンブルを構築する部分…何度聴いても鳥肌ものです!
未聴の方は、ぜひこのアルバムを購入して”Blues Minor”を聴いてみて下さい!
さて、このアルバムのコンプリート盤には、”Greensleeves”の別テイク1曲と”Africa”のファーストバージョンと別テイク1曲の計3曲の他に2曲の未発表曲が収録されています。
それはカル・マッセイ作の”The Damned Don’t Cry”とトラディショナル曲の”Song Of The Underground Railroad”の2曲です。
哀愁溢れる”The Damned Don’t Cry”と疾走感溢れる”Song Of The Underground Railroad”と。
特に緊張感溢れるアドリヴソロをコルトレーンが吹きまくる”Song Of The Underground Railroad”は、なぜ未発表だったのか?不思議なくらいかっこいい演奏です。
この”The Underground Railroad”というのは、19世紀にアメリカ南部に住む黒人たちが、人種差別から逃れるためにアメリカ北部やカナダに逃亡するのを助けた地下組織のことです。
この組織の女性リーダーであったハリエット・タブマンは、キング牧師やマルコムXなどが登場する遥か前の黒人英雄のひとりでもあります。
ちなみにデューク・エリントンの有名曲”Take The A Train”もこの組織のことを暗示しているそうです。
あの明るいメロディーに誰しもが知っているような楽し気なスタンダード曲にも、実はこのような悲しい歴史が隠されていたりするんですね。
ジョン・コルトレーンがインパルスの第一弾として制作したこの『Africa/Brass』は、その後のモードジャズの追求~スピリチュアルジャズの発展の始まりとして歴史的に大事な作品と言えるでしょう。
その後、コルトレーンの《黄金のカルテット》の一員であったピアニストのマッコイ・タイナーが『Time For Tyner』収録の”African Village”や、アルバム『Extentions』なんかで、アフリカ調の曲を演奏するようになったのも、このコルトレーンの『Africa/Brass』に参加した時の影響が大きいんじゃないかと思われます。
それでは、 ぜひ『Africa/Brass』を聴いてみて下さい。
出来れば”Song Of The Underground Railroad”が収録されているコンプリート盤がお勧めです。
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