
2019/04/11
オーヴァーダビングも多用したジョー・ヘンダーソンの1972年のジャズ・ロック作品『Black Is The Color』を聴こう♪
ジョー・ヘンダーソンのエレクトリックなジャズ・ロック作品『Black Is The Color』を聴こう♪
オーヴァーダビングも多用した時代に沿ったジャズ・ロック!
今回は僕がジョン・コルトレーンとソニー・ロリンズに次いで好きなテナー・サックス奏者のジョー・ヘンダーソン(以下:ジョーヘン)です。
つい先週もジョーヘンのライヴ盤をご紹介したばかりだったのですが…
ジョー・ヘンダーソンが自身のクインテットを率いてクラブ・ライトハウスに出演した名ライヴ盤を聴こう♪
今回は、そのライヴ盤『At The Lighthouse』から2年経って発売されたマイルストーン・レコードでの7作目のアルバム『Black Is The Color』をご紹介します。
本作は、それまでの4ビートを基調としたジャズ作品から変化して、時代に沿ったロック風の8ビートの楽曲が増えた『ジャズ・ロック』の作品になります。
この辺は当時、マイルス・デイヴィスが『Bitches Brew』で追及していった音楽性になんとなく共通する部分もありますね。
また本作は、キーボード奏者のジョージ・ケイブルとベース奏者のデイヴ・ホランドにドラム奏者のジャック・デジョネットが、先にベーシックなトラックを録音してから制作されています。
それまでのジャズの作品のほとんどは、アルバム制作に関わるミュージシャンが同じ場所に居合わせて、そのまま生演奏を録音していました。
しかし本作では、まるでロック・バンドのようにバック・トラックを先に録音してからその上にリード楽器による演奏をオーヴァーダビングする手法が取られています。
今となっては、こういった手法もジャズの世界では当たり前で、驚く様な事ではありませんが、本作が録音された1972年当時だと、ジャズ・ミュージシャンによるそういった手法はかなり珍しかったと思われます。
おそらく、当時のジョーヘンは人気ブラス・ロック・バンドのブラッド・スウェット&ティアーズに参加したことからアイデアを得たのでしょう。
ブラッド・スウェット&ティアーズとの活動は4ヶ月程だったようですが、それでもジャズ界で活動していたジョーヘンには新鮮な体験だったことでしょう。
そういった環境で制作された本作ですが、しかしオーヴァーダビングの不自然さを感じさせない様な作品に仕上がっています。
もちろんオーヴァーダビングを効果的に利用した楽曲も収録されています。
しかもサウンド的にも『ロックのダイナミズム』を感じさせるような作品ですので、「これまでロックを中心に聴いてきたけど、最近はジャズも聴いてみたいかな~」といった方にも、『最初に聴くべきジャズ作品』としておすすめしても良いかもしれません。
ただアナログ感覚のストレート・アヘッドなジャズを探し求めている方でしたら、本作は違うと思いますので、先にジョーヘンのブルーノート時代の作品を聴くことをおすすめします。
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それでは、名作『Black Is The Color』をご紹介したいと思います。
Joe Henderson – 『Black Is The Color』
01.Terra Firma
02.Vis-A-Vis
03.Foregone Conclusion
04.Black Is The Color (Of My True Love’s Mind)
05.Current Events
アルバムの内容
本作は全曲ジョーヘンのオリジナル曲になります。
1曲目”Terra Firma”は、ジョージ・ケイブルスのエレピの音色にデイヴィッド・ホロヴィッツのスペーシーなシンセサイザーのイントロから始まる楽曲です。
まずはジョーヘンのテナー・サックスが、テーマからソロを吹き始めます。
ジャック・デジョネットの叩き出すドラムのビートが、まるで当時のマイルス・デイヴィスのバンドのようですね。
もちろんデジョネット自身が当時のマイルスのバンドで叩いていたから同じに聴こえるのは当然のことなのですが…。
エレピのサウンドも、かなりチック・コリアを意識しているように感じられます。
本作にはゲオルク・ワデニウスという北欧出身のギタリストも参加していて、1曲目でもエレピ・ソロの後、5分50秒からギター・ソロが始まります。
従来のストレート・アヘッドなジャズでは、ギターの音色もクリーンな音で弾くことが多いのですが、本作は『ジャズ・ロック』アルバムです。
なので、まるでロック・バンドの様にワウペダルやヴィブラート系のエフェクターを使った「揺らぎ」のあるサウンドでギターを弾いています。
これがとても曲の雰囲気に合っていると感じられます。
こういったエレピのサウンドが入り乱れる楽曲で、ギターだけクリーン・トーンで弾いたとしたら…違和感が半端ないですからね。
その時演奏する音楽ジャンルに合わせた『サウンド作り』もギタリストの腕の見せ所のひとつだと思います。
ギター・ソロが終わると、ジョーヘンによるアルト・フルートのソロが始まります。
途中からエコーの掛かったようなサウンドに変化して、楽曲に奥行きを与えています。
その後、再びテナー・サックスに持ち替えてテーマ・メロディーを吹いて曲が終わります。
最後のテーマ部分では、アルト・フルートの音色も少し小さめにオーヴァーダビングされています。
ジョーヘンのテナー・サックスによるカデンツァから始まる2曲目”Vis-A-Vi”は、デジョネットの細かいドラミングが過激な印象を与える楽曲です。
フラジオ奏法も多用したジョーヘンの、かなりアグレッシヴなソロが聴きどころです♪
ジョーヘンのソロに続くのはジョージ・ケイブルスのエレピ・ソロですが、なんとなく当時のマイルス・バンドに在籍していた頃のキース・ジャレットを彷彿させます。
それもまたデジョネットが参加しているからなんでしょうかね⁉
過激な2曲目の次は、3曲目のアフロ・ファンク曲”Foregone Conclusion”が続きます。
この曲はオーヴァーダビングが最も効果的に利用された楽曲です。
本作でリード楽器を吹いているのはリーダーのジョーヘンだけなのですが、この曲ではメインのテナー・サックスのバックにソプラノ・サックスやアルト・フルートの音が付け加えられています。
もちろん全てジョーヘンによる演奏です。
オーヴァーダビングを使うことによって、「たくさんのジョーヘンによるホーン隊」なんていう面白い楽曲を作り出せています。
これは「あり」だと思います。
こういうアイデアも、下手でなければガンガン利用する方が良いと僕は感じます。
音楽は、オープンマインドで様々なアイデアを受け入れることが大事ですね。
タイトル曲の4曲目”Black Is The Color (Of My True Love’s Mind)”は、バラード曲です。
本作でも『At The Lighthouse』のタイトル曲だった”If You’re Not Part Of The Solution, You’re Part Of The Problem”のように「黒人の権利」について書かれた楽曲がタイトルに使われています。
この曲でも「たくさんのジョーヘンによるホーン隊」が登場するオーヴァーダビングを効果的に利用した楽曲です。
ちなみにこの曲でエレピを弾いているのは、ジョージ・ケイブルスではなくジャック・デジョネットです。
最後の5曲目”Current Events”は、2分近くに及ぶ長いイントロの後にようやくジョーヘンのサックスが登場する楽曲です。
不気味なサウンドのイントロからそのままジョーヘンのアヴァンギャルドなサックス・ソロが始まります。
ジョーヘンのサックスには、深めのディレイが掛けられています。
山びこの様に響き渡るジョーヘンのサックスのエコー・サウンドが神秘的です。
以上、【オーヴァーダビングも多用したジョー・ヘンダーソンの1972年のジャズ・ロック作品『Black Is The Color』を聴こう♪】でした。
ジョーヘンの作品群の中でも特に過激で革新的な楽曲を聴くことが出来るのが本作『Black Is The Color』です。
こういった作品こそ『ジャズ』という音楽ジャンルが持つ可能性の大きさを感じさせてくれます。
ぜひこういった『ジャズ・ロック』作品もオープン・マインドで聴いてみて下さい♪
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