
2019/01/06
フィル・アップチャーチのギターが冴える!1972年の名盤『Darkness Darkness』を聴こう♪
フィル・アップチャーチの1972年の名盤『Darkness Darkness』をご紹介します。
名セッション・ギタリスト、フィル・アップチャーチを聴こう!
今年に入ってからデイヴィッド・T・ウォーカーやコーネル・デュプリーなど、ソウル系のセッション・ギタリストを取り上げていたので、今回はその系譜でフィル・アップチャーチをご紹介したいと思います。
デイヴィッド・T・ウォーカーやコーネル・デュプリー好きの人には、僕の行くソウル系のセッションなどでよく出会うことがあるのですが、意外とフィル・アップチャーチは知らなかったりして残念に思うことがあります。
なので今回はフィル・アップチャーチの最高傑作をご紹介したいと思います。
シカゴ生まれのソウルフルなギタリスト、フィル・アップチャーチ
シカゴ生まれのフィル・アップチャーチは、13歳からギターを始め、高校生の時から地元のクラブで演奏していたようです。
その後、シカゴでセッション・ギタリストになりました。
オーティス・ラッシュのバンドでベースを弾いたり、ジェリー・バトラーやジーン・チャンドラー、ハウリン・ウルフ、マディ・ウォーターズなど多くのブルース/ソウル系のミュージシャンと共演しています。
そして60年代後半頃にダニー・ハサウェイとジョージ・ベンソンと共演することになります。
特に同じシカゴ出身のダニー・ハサウェイとの共演は多く、ダニーのほとんどのアルバムでフィルがギターを弾いているほどです。
また今回ご紹介する『Darkness, Darkness』でも幾つかの曲のホーンやストリングスのアレンジでダニー・ハサウェイが参加しています。
そして”Cold Sweat”と”Sausalito Blues”の2曲でエレピを弾いています。
それではさっそくアルバムのご紹介をしたいと思います。
Phill Upchurch – 『Darkness, Darkness』
01.Darkness, Darkness
02.Fire & Rain
03.What We Call The Blues
04.Cold Sweat
05.Please Send Me Someone To Love
06.Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)
07.You’ve Got A Friend
08.Love And Peace
09.Sweet Chariot
10.Sausalito Blues
Personnel:
Phil Upchurch – Guitar
Arthur Adams – Rhythm Guitar
Joe Sample – Piano
Donny Hathaway – Electric Piano on Tracks 04 10
Ben Sidran – Organ on Tracks 08
Chuck Rainey – Bass
Phil Upchurch – Bass on Tracks 10
Bobbi Porterhall – Congas
Harvey Mason – Drums
Don Simmons – Drums on Tracks 04
Recorded: at Wally Heider Studios, Los Angeles.
“Sausalito Blues” and “What We Call The Blues” recorded at Universal Studios, Chicago.
Released: 1972.
アルバム参加メンバー
このアルバムを制作するに当たって、プロデューサーのトミー・リピューマにリズム隊のリクエストをフィル自らしたようです。
ベースにチャック・レイニーとドラムにハーヴィー・メイソンです。
当時のフュージョン/クロスオーバー系の作品の多くに参加している鉄壁のリズム隊ですね!
そのリクエストに応えつつも、更にトミー・リピューマは、ピアノにジョー・サンプルとリズム・ギターにアーサー・アダムス、コンガにボビー・ホールをキャスティングしました。
今こうして名前だけ挙げてみると、豪華な一流のミュージシャンばかりですね!
バックに最高のの面子が揃ったところで、本作のリーダーであるフィル・アップチャーチが思う存分ギターを弾きまくっています!
アルバムの内容
2曲のオリジナル曲を省いた8曲が全てカヴァー曲になります。
それもポップ・チャートを駆け上がったような有名曲も多く含まれています。
なので、収録曲名だけ見るとまるで歌メロをギターインストで弾いただけのポップなアルバムなのかな?…と勘違いしてしまいそうですが、全くそうではありません。
本作での曲は、単にフィルがギターを弾きまくるためだけの「器」でしかありません。
どの曲でもテーマメロディーを弾いた後は、もはや何の曲をやっていたのか?忘れてしまいそうなぐらいにギターを弾きまくります!
なので、やはりギターを弾く人やギターインスト物が好きな方におすすめのアルバムになります。
1曲目”Darkness, Darkness”は、アメリカのフォーク・ロック・バンドのヤングブラッズの1969年の曲です。
原曲はアイリッシュ・トラッドなフォーク調の曲なのですが、本作では歌メロだけそのままでズッシリとボトムの重たいソウルフルなアレンジがされています。
アルバムのタイトルにしたのも頷ける初っぱなからの名演です。
9分以上ある長尺曲のほとんどがフィルのギターソロになります。
巧みなスウィープ奏法を「これでもか!これでもか!」と何かに取り付かれたように繰り返し弾きまくっています。
これだけ長い時間ギターソロを弾いているのに、アイデアが尽きないのがすごいところです。
自身の持つテクニックや奏法を全て出し尽くさんとばかりに、ギターをイジメまくっています。
さっそくアルバム冒頭から、挨拶代わりにギターを弾きまくっていますが、もちろんこの1曲だけではありません!
次の2曲目の”Fire & Rain”は、シンガー・ソングライターのはしりとでも言うべきジェイムス・テイラーの有名曲のカヴァーです。
イントロではまるでデイヴィッド・T・ウォーカーのようなハープ奏法も飛び出します。
最初のテーマこそ、歌心たっぷりに感情を込めてギターを優しく弾いています。
もとが名曲なので、上手いギタリストが弾くとそれだけで名演になるのですが、歌メロを2周弾いた後にギターソロが始まると、これまた持てる力の限りギターソロを弾きまくっています!
一旦、ギターソロが落ち着いて歌メロに戻ります。
このまま曲が終わるのか?と思ったところで、再度ギターソロが始まります。
終盤のギターソロでは、ひとつのフレーズに少しずつ変化を付けながらじっくりと盛り上げていきます。
一番の盛り上がりを見せるのは6分55秒辺りの連続フレーズです!
バラード曲なのに、ここまでハードにギターを弾きまくるとは…恐れ入ります。
それもギターの音色はクランチではありますが、ハードに歪ませているわけではありません。
演奏テクニックだけでここまでハードなサウンドになっているのがすごいところです!
次の3曲目”What We Call The Blues”は、フィルのオリジナル・ブルースです。
やはりこういったソウル系のギタリストは、ブルースもお得意です♪
2分29秒を過ぎた辺りからワウペダルを使ってギターソロを弾いています。
フィルもデビTやコーネルのように、70年代はよくワウペダルを使用していました。
しかし3人とも80年代頃からワウを使わなくなっていきます…みんなワウの達人なので非常にもったいないことだな~と個人的には思います。
フィルのワウペダルの使い方は、まるでトーキング・モジュレーターのようにギターが言葉を話しているかのような使い方です。
人間の声のようにギターの音色がフレーズに呼応して変化していきます。
そのワウギターの演奏がもっと凄いのが次の4曲目”Cold Sweat”です。
もちろんファンクの帝王ジェームス・ブラウンの名曲のカヴァーです。
原曲よりも更にオシャレな演奏に仕上がっています。
それはチャック・レイニーとハーヴィー・メイソンのリズム隊の2人だけでなく、左チャンネルからうっすら聞こえるダニー・ハサウェイのエレピの音と、右チャンネルでワカチョコとワウギターでリズムを弾いているアーサー・アダムスによるものだと思います。
全員の演奏能力の高さを存分に味わえる名演ですね♪
2分48秒まではクランチ・トーンのギターで、テーマ→ギターソロとフィルが弾いています。
2分49秒辺りでワウペダルをオンにして、少しの間フィルもリズム演奏に徹します。
3分30秒辺りからドラム以外のメンバーがクールダウンして、ドラムソロが始まります。
そのドラムソロの間も、ベースやワウギターが煽っている音が聞こえます。
その後一旦、ワウギターをオフにして再びテーマメロディーに戻ります。
そして5分16秒から再びギターソロを弾きまくります!
この辺りが最高潮に盛り上がる瞬間です!
これってJBの曲だよね?と疑いたくなるぐらいギターを弾きまくっています!
凄まじい”Cold Sweat”が終わった後は、パーシー・メイフィールドのバラード曲”Please Send Me Someone To Love”で少し落ち着きましょう。
もちろんこの曲も素晴らしい演奏なのですが、さすがに”Cold Sweat”のようには弾きまくってはいません。
ジョー・サンプルのエレピソロも含む、わりと歌メロに忠実なメロディアスな演奏です。
少し落ち着いた後は、マーヴィン・ゲイの名曲”Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)”のカヴァーです。
痙攣するようなヴィブラートを掛けて弾く歌メロ部分のギター演奏が上手いです!
どうやったらあんな音が出せるのか?…同じギター弾きとしてとっても謎です。
また5分44秒辺りで、連続スウィープ奏法によるシーケンス・リックが聴き所です!
そして7曲目の”You’ve Got A Friend”は、ダニー・ハサウェイのライヴ盤でもお馴染みのキャロル・キングの名曲です。
今回はフィルが歌メロをギターで奏でるインスト・アレンジです。
曲のテーマを弾く際に、まるでビリー・バトラーのようなギターのボリュームを使ったバイオリン奏法まで飛び出します!
ついつい感心してしまいます。
曲の序盤こそ、原曲を基調にゆったりとバラード演奏に徹しているのですが、3分15秒を過ぎた辺りから徐々にギターソロが始まります。
ここから終盤にかけてのギターソロは恐ろしいほどに弾きまくっています!
「これ、何の曲だったっけ?バラードじゃなかったっけ?」と忘れてしまいそうなぐらい、ハードにギターを弾きまくっています。
本作収録曲の中でも、全てを出し切ったかのような特にすごいギターソロが聴けます。
次の8曲目”Love And Peace”は、本作にリズムギターで参加しているアーサー・アダムスのオリジナル曲です。
曲名通りにほんわかした雰囲気のバラード曲です。
この曲のみベン・シドランがオルガンを弾いています。
先ほどの”You’ve Got A Friend”と比べると、終始ゆったりとした演奏です。
そして9曲目の”Sweet Chariot”は、”Swing Low Sweet Chariot”として知られるトラディショナルなゴスペルの曲です。
フィルの音楽性のルーツにもゴスペルの影響があるんだな~と感じさせてくれます。
イントロこそフィルのギター独奏で始まりますが、1分が経つ頃には軽快なバンド・サウンドに変わります。
アーサー・アダムスがファンキーなワウギターでリズムを支える中、またしてもフィルがギターソロを弾きまくります!
よくこれだけ弾きまくってアイデアが尽きないものです!
本作最後の収録曲である10曲目の”Sausalito Blues”もフィルのオリジナル・ブルースです。
ダニー・ハサウェイによるストリングスのアレンジが、まるで教会音楽のような神聖な雰囲気を醸し出しています。
フィルのギターとストリングスを中心に、ベースやドラムは小さめの音量で控えめに演奏しています。
アルバムのエンディングにピッタリの曲ですね♪
以上、【フィル・アップチャーチのギターが冴える!1972年の名盤『Darkness Darkness』を聴こう♪】でした。
とにかくフィル・アップチャーチがギターを弾きまくるアルバムです。
しかし、ギターの音はちょっぴりアンプの歪みを加えたクランチ・サウンドですので、激しくメタリックに歪んだ轟音ではありません。
なので、聴きやすい音だと思います。
またシンガーが歌っているようなワウギターも弾いているので、それだけで多彩なサウンドを楽しめます♪
同じようなジャンルのギター弾きの僕も、もちろん大好きなアルバムです。
自分が演奏する上でも影響を受けたアルバムです。
そして、この域には到底登り詰めることは出来ません…。
どうしてもギタリストの歴史の中では地味な存在のフィル・アップチャーチですが、ギターの腕は超一流です!
ぜひともギター弾きの方やギターインストものが好きな方におすすめしたい名盤『Darkness, Darkness』のご紹介でした。
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