2022/06/27
イタリアン・ポップスをジャズ・ファンクに!エディー・ロバーツの2作目のソロ・アルバム『Trenta』を聴こう♪
エディー・ロバーツのソロ・アルバム2作目『Trenta』
今回はザ・ニュー・マスターサウンズのリーダーでギタリストでもあるエディー・ロバーツのソロ・アルバム3作目をご紹介します。
以前このブログではソロ1作目の『Roughneck』と、そのソロ1作目の曲をライヴで披露したライヴ盤『Roughneck – Live in Paris』をご紹介していました。
今回ご紹介するアルバム『Trenta』は、ライヴ盤を含む通算3枚目のソロ・アルバムとして2007年にリリースされています。
“Trenta”=「トレンタ」とは、イタリアのカラブリア州コゼンツァ県カザーリ・デル・マンコに属する分離集落(フラツィオーネ)を表す言葉なのですが、このタイトル通りに本作はイタリアのポップスを取り上げた異色の作品に仕上がっています。
なぜイタリアン・ポップスなのか?
では、どういったきっかけでソロ2作目のこのアルバムがイタリアンな内容のアルバムになったのか?と言うことなのですが、理由はこういった経緯にあります。
以前このブログでもご紹介していたことがあったのですが、エディー・ロバーツは、ザ・ニュー・マスターサウンズを始めるよりも前にザ・スリー・デューセズというオルガン・ジャズのトリオで演奏活動を行っていました。
60年代風ソウル・ジャズが現代に甦る⁉ザ・ニュー・マスターサウンズのエディー・ロバーツが在籍していたオルガントリオ『The Three Deuces』を聴こう♪
そのザ・スリー・デューセズ時代にツアーでイタリアのプッリャ州バーリに訪れています。
このアドリア海沿岸の都市に訪れたのは1997年のことで、そこでジャズ・フェスティヴァルに出演しています。
その際にニコラ・コンテや現地の様々なミュージシャンの音楽に触れたことでイタロ・ジャズの魅力に触れ、食指を動かしたのがきっかけでした。
その後、英国のリーズに帰国した際に地元のイタリアン・レストランSalvo’sにバンドで出演することとなります。
(※エディー・ロバーツは英国人です。)
そのSalvo’sでは、80年代後半から90年代初頭に掛けてのアシッド・ジャズ時代に多くのパーティーを主催していたイタリア移民のギップ・ダモーネが経営するレストランでした。
おそらくアシッド・ジャズのパーティーがきかっけでエディーとギップは知り合ったのでしょう。
このお店の開店30周年を祝したパーティーに招かれたエディーはギップから「私の好きなイタリアン・ポップスを演奏してくれないか?」と提案を受けたようです。
ちょうどザ・スリー・デューセズのツアーで訪れたイタリアで現地の音楽に触れ興味を持っていたエディーにとっては都合が良かったことでしょう。
その後、レストランの土曜深夜の営業終了後に開かれるジャム・セッション”Round Midnight”にてエディーがイタリアン・ポップスの曲を演奏するようになり、そして数年が経ち本作の制作にまで至ったという話です。
もちろん単にイタリアン・ポップスの曲をそのままインストにしてカヴァーしたのではなく、エディー・ロバーツ風のジャズ・ファンクのアレンジに仕上げています。
そのため僕のようなブルーノート・レコードの60~70年代ジャズ・ファンク好きにも聴きやすいアルバムとなっております。
それではアルバムの収録曲をご紹介したいと思います。
The Eddie Roberts Quintet – 『Trenta』
01.Giorgios Brother (Chillo E Nu Buono Guaglione)
02.Dicitencello Vuje
03.Strada Statale 163 (Sabato Triste)
04.Napule E
05.Sto’ Vicino A Te
06.Storia D’amore
07.Mai Piu
08.‘Na Sera ‘E Maggio
09.24000 Baci
10.Basta Na Jurnata E Sole
11.Core N’grata
==== Japanese Bonus Track ====
12.Giorgios Brother [Lack Of Afro Remix]
イタリアン・ポップスの曲をジャズ・ファンクにアレンジした異色の名作!
本作はイタリアン・ポップスの曲を取り上げたアルバムとなっております。
そのためエディー・ロバーツのオリジナル曲は収録されていません。
エディー・ロバーツは単にギタリストというだけでなく、ザ・ニュー・マスターサウンズのほとんどの曲を手がける名ソングライターでもあります。
しかしそんなエディーがこのソロ2作目『Trenta』では、イタリアの音楽を取り上げるというコンセプトの元、オリジナル曲一切なしで制作をしています。
とはいったものの、60年代ブルーノート・レコードのジャズ・ファンク作品のようなアレンジが施されているので、エディー・ロバーツらしさが随所に感じられる外れのない作品でもあります。
本作ではカンタウトーレの中心的人物ピーノ・ダニエレの曲が多く取り上げられています。
カンタウトーレとは、イタリア版シンガーソングライターのことで、主に自由性の高いリリックを武器にポップスやロックを歌う歌手のことをいいます。
我々日本人からしたら「カンツォーネ」の方が言葉になじみがありますが、カンツォーネの方は歌謡曲のようなもので現代的なカンタウトーレと比べると少し古めかしい音楽に感じられます。
アルバムの1曲目”Giorgios Brother (Chillo E Nu Buono Guaglione)”は、そのピーノ・ダニエレの曲です。
オリジナルは、1979年のアルバム『Pino Daniele』の6曲目に収録されていた”Chillo E Nu Buono Guaglione”というボーカル曲です。
この曲はそもそもオリジナルがかなりかっこいい曲なので、ぜひそちらも聴いてもらいたい楽曲です。
渋い歌だけでなくアコギやマンドリンも弾きこなすピーノ・ダニエレの技量も素晴らしいのですが、この曲のオリジナルはベーシストも必聴です!
リーノ・ズルゾロの弾くスタンリー・クラークもびっくりなフュージョン・ベースがあまりにもかっこいいからです!
そんなオリジナルがそもそもかっこいいこの曲をエディーは、ウェス・モンゴメリーというよりもジョージ・ベンソン直系のオクターブ奏法にてテーマ・メロディーを弾いてインストでカヴァーしています。
ウェス・モンゴメリーというよりもジョージ・ベンソン直系というのは、オクターブ奏法時にフレーズに合わせてスキャットを歌っているからです。
オリジナルの良さを残しつつもジョージ・ベンソン風のジャジーな奏法を用いてジャズ・ファンクにアレンジしているところはさすが!と言えます。
ハイテンションな1曲目の次は2曲目でクラシカルな曲”Dicitencello Vuje”を取り上げています。
この曲は、マリオ・ランツァやジュゼッペ・ディ・ステファノにクラウディオ・ビルラといったイタリアの歌手が1950年代にこぞって歌った哀愁漂うバラード曲です。
クラシックの作曲家ロドルフォ・ファルヴォが1930年に書いた壮大な曲でエンツォ・フスコが歌詞を書いています。
大体の場合、荘厳なストリングスを配して演奏されるのですが、本作ではビル・ローレンスの弾くフェンダー・ローズのエレピの音色とマルコム・ストラッチェンの吹く哀愁漂うトランペットで大人なムードで演奏されています。
ちなみに本作の名義名に「ザ・エディー・ロバーツ・クインテット」と記載があるように、トランペット+ギター+ピアノ+ウッドベース+ドラムスの5人編成でレコーディングされています。
ただし1曲目のようにトランペットが抜けていたり、必ずしもクインテットで演奏されているわけではなく曲によっては編成が変わっています。
面白いことにこの2曲目ではエディーはテーマやソロを弾かずに、かなり小さい音でコードを弾いているのみになります。
テーマやソロはエレピとトランペットに任せて、自身はプロデューサー目線で参加していたのでしょうか⁉
しかしビル・ローレンスとマルコム・ストラッチェンが良い仕事をしてくれているため、違和感なくこの哀愁漂う楽曲がアルバムに溶け込んでいます。
3曲目”Strada Statale 163 (Sabato Triste)”は、イタリアを代表するロック・シンガーのアドリアーノ・チェレンターノが1966年委歌った”Sabato Triste”という曲のカヴァーです。
アドリアーノ・チェレンターノは、“イタリアのエルビス・プレスリー”と呼ばれた人物でやさぐれた歌い方が魅力の歌手です。
このやさぐれロックを60年代風ジャズ・ロックに変換して、ダブルストップを駆使したエディーのギターがテーマメロディーを奏でます。
ギター・ソロではグラント・グリーンというよりも、もっとロック色もの強いメルヴィン・スパークスから影響を受けたようなアドリヴを聴かせてくれています。
メルヴィン・スパークスはパット・マルティーノのようなジャズ・ギタリストからだけでなくB.B.キングやチャック・ベリーからも影響を受けているジャズ・ファンク系のギタリストです。
こちらの曲でもビル・ローレンスのピアノが良い仕事をしています♪
4曲目”Napule E”は、1曲目と同じくピーノ・ダニエレの曲です。
オリジナルは1977年にリリースされた美しいバラード曲です。
イントロのマンドリンのトリル音をエディーはエレキ・ギターに置き換えて同じくトリル奏法で演奏しています。
ピーノ・ダニエレが歌っていたボーカル部分は、本作ではピアノのビル・ローレンスが弾いています。
オリジナルでは中盤からストリングスの美しい音色が涙を誘うのですが、本作ではしっとりとカヴァーしています。
5曲目” Sto’ Vicino A Te”も同じくピーノ・ダニエレの曲で、1曲目”Chillo E Nu Buono Guaglione”と同じく1979年のアルバム『Pino Daniele』に収録されていたボーカル曲です。
この曲をアップテンポのボサノヴァにアレンジしてカヴァーしています。
ここでもエディー・ロバーツはテーマをオクターブ奏法で弾いています。
ザ・ニュー・マスターサウンズではあまりオクターブ奏法で演奏することはないのですが、もともとはウェス・モンゴメリーやジョージ・ベンソンからの影響も濃いギタリストなので、こういったジャズ曲ではオクターブ奏法も多用しています。
6曲目”Storia D’amore”と7曲目”Mai Piu”は、共にアドリアーノ・チェレンターノが歌った曲です。
“Mai Piu”でエディーはお得意のグラント・グリーン風のギター・ソロを披露しています。
8曲目”‘Na Sera ‘E Maggio”は、ジュゼッペ・チオフィが1938年に書いた古い楽曲です。
セルヒオ・ブルーニやマリオ・ランツァ等の様々な歌手が歌っています。
この哀愁漂う曲でもエディーはバッキングに徹して後はビル・ローレンスのピアノに任せています。
9曲目”24000 Baci”は、またまたご登場のアドリアーノ・チェレンターノが1961年に歌ったゴー・ゴーなロック・ソングです。
こういった曲調は僕ら現代の日本人の耳からしたら、なんとなく昭和歌謡に聞こえてきますね。
やけに派手なイントロでカヴァーしたエディー・ロバーツの本作でのアレンジもオリジナルに近く、なんとも昭和歌謡風です。
一転してピアノの音色がオシャレな10曲目”Basta Na Jurnata E Sole”は、またまたピーノ・ダニエレの1979年のアルバム『Pino Daniele』に収録されていたボーカル曲です。
てかこうして収録曲を見てみると…ほとんどがピーノ・ダニエレのアルバム『Pino Daniele』収録曲とアドリアーノ・チェレンターノの楽曲で構成されたアルバムではあります。
“Basta Na Jurnata E Sole”は、オリジナルは爽やかなポップス風の曲なのですが、本作ではビル・ローレンスのピアノを中心にインストで仕上げています。
アルバム最後の11曲目”Core N’ Grata”は、作曲家のリッカルド・コルディフェッロが1911年に書いたとても古い楽曲で、「つれない心」という邦題が付けられています。
古くはオペラ歌手のエンリコ・カルーソーやジュゼッペ・ディ・ステファノにマリオ・ランツァ等も取り上げた名曲ですが、近年では盲目のテノール歌手にして世界三大テノールの1人アンドレア・ボチェッリが1995年に歌ったものが特に素晴らしいです。
この壮大な楽曲をビル・ローレンスの美しいピアノを主役にエディーはまたしても小さな音でバッキングを付け加える程度でカヴァーしています。
自身の2作目のソロ・アルバムでありながら、イタリアン・ポップスの楽曲を取り上げ、演奏面でもピアノのビル・ローレンスに多くを任せた作品となっております。
しかしだからと言ってエディー・ロバーツらしからぬ作品かと言えばそうではありません。
エディー・ロバーツだからこそ作ることが出来たイタリアン・ポップスをジャズ・ファンクにアレンジした異色の名作です!
ちなみに日本盤では12曲目にボーナス・トラックとして1曲目の”Giorgios Brother (Chillo E Nu Buono Guaglione)”をよりファンキーにアレンジしたリミックス曲の”Giorgios Brother [Lack Of Afro Remix]”が収録されています。
エディー・ロバーツのファンキーなギター・リフを中心にリピートして、その上をファンキーなオルガンがギャンギャンと鳴ったアシッド・ジャズ風のリミックス・バージョンです。
しかしこれがかなりかっこいいのでアシッド・ジャズ好きの人はぜひ日本盤で手に入れてみてはいかがでしょうか?
以上、【イタリアン・ポップスをジャズ・ファンクに!エディー・ロバーツの2作目のソロ・アルバム『Trenta』を聴こう♪】でした。
イタリアン・ポップス好きだけでなく、僕の様なディープ・ファンク/ジャズ・ファンク好きにもおすすめできるエディー・ロバーツのソロ2作目『Trenta』でした。
ちなみにこのブログ記事のタイトル画像で背景に使っているイタリアの写真は、実際に僕が2004年にイタリア旅行した時に自分で撮った写真です。
フィレンツェの名所『サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂』の写真です。
あれから20年近くの月日が流れましたが、いつかまたイタリアに行ってみたいと思います。
その時はこのアルバム『Trenta』を現地で聴いてみたいと思います♪
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