
2019/10/23
【2007年の問題作⁉】NYCが誇る現代のサキソフォン・コロッサス トニー・マラビーの『Tamarindo』を聴こう♪
NYCが誇る現代のサキソフォン・コロッサスことトニー・マラビーの2007年作品『Tamarindo』をご紹介します。
フリージャズ作品をご紹介するのは久しぶり⁉
かなり久しぶりに純粋な『フリージャズ作品』についてのご紹介になります。
一応このブログでは“Free Jazz”というタグも設置しているのですが……僕の好きなオルガンジャズやジャズファンクと比べるとかなり登場数が少なくなっています。
直近ではエディ・ゲイルの『Eddie Gale’s Ghetto Musicを”Free Jazz”のタグを設置して3月にご紹介していましたが…
ブルーノート流アフリカン・ビート!エディ・ゲイルのゲットー・ミュージックを聴こう♪
あの作品はそこまで「フリー」なわけではありませんでしたからね。
本格的な”Free Jazz”作品をご紹介していたということであれば、2017年12月31日のオーネット・コールマンが最後でした。
【フリージャズの名盤!】ゴールデン・サークルのオーネット・コールマンの衝撃!
となると、およそ2年ぶりにフリージャズ作品のご紹介ということになります。
そこで久しぶりとなる今回は、オーネット・コールマンの時代からだいぶ進んで、2000年代にデビューしたトニー・マラビーの作品をご紹介したいと思います。
既成概念に捉われない自由な発想で豪快にブロウするトニー・マラビー!
1964年1月2日に米国アリゾナ州ツーソンに生まれたトニー・マラビーは、テナーサックス奏者です。
1995年にNYCに引っ越して、それからいくつかの注目すべきグループでサックスをプレイすることになります。
そのグループの中でも特に注目すべきは、オーネット・コールマンのバンドでもベースを弾いていたチャーリー・ヘイデンの『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』と、ビル・エヴァンスのトリオで有名になったドラム奏者のポール・モチアンの『エレクトリック・ビ・バップ・バンド』です。
こういったジャズが好きなら誰しもが名前を知るような大御所の下で研鑽を積んだトニー・マラビーは、2000年に初リーダー作の『Sabino』でレコード・デビューを飾っています。
その後、2003年に『Apparitions』を2004年に『Adobe』とコンスタンスにリーダー作を制作しています。
さて、僕が初めてトニー・マラビーを聴いたのが今回ご紹介する2007年の4作目のリーダー作となった『Tamarindo』からです。
本作を知ったのはタワレコで「最新のジャズ」をチェックしていた時に、この作品を見かけたのがきっかけでした。
『NYCが誇る現代のサキソフォン・コロッサス』と書かれたポップに目が行きました。
「サキソフォン・コロッサス」と言えば、僕がジャズを聴き始めた最初の頃にハマったソニー・ロリンズの名盤の名前です。
そのポップが書かれたCDのジャケットを見てみると、何やら袈裟のようなものを着た修道士が茨の付いたハート(心臓)を触ろうとしています。
ハートの上には火の付いた十字架が建てられており、まるで信仰心を試しているかのような強烈なイラストです。
そのデザインを見て僕は「トニー・マラビー?知らないけどサキソフォン・コロッサスて書いてるしソニー・ロリンズ風のサックス奏者なんだろう。ジャケットのデザインからして多分ファラオ・サンダース系のスピリアル・ジャズ系のジャズマンなんだろう!」と勝手に思い込みました。
近くにアルバムを試聴できるコーナーがあったのに、全く無視してそのままジャケ買いしてしまったんです。
そして家に帰って聴いてみて度肝を抜かれました。
まさかの『フリージャズ作品』だったからです。
それではトニー・マラビーの2007年のアルバム『Tamarindo』をご紹介します。
Tony Malaby – 『Tamarindo』
01.Buried Head
02.Floral and Herbacious
03.La Mariposa
04.Tamarindo
05.Mother’s Love
06.Floating Head
Personnel:
Tony Malaby – Tenor & Soprano Saxophone
William Parker – Bass
Nasheet Waits – Drums
アルバムの内容
1曲目”Buried Head”からさっそくフリーな世界が訪れます。
「埋められた(葬られた)頭」と、これまた不気味な曲名ですが、曲名通りにトニー・マラビーの不気味なサックスプレイが始まります。
本作ではトニー・マラビーが最も得意とするトリオ編成で全ての楽曲が演奏されています。
ピアノやギターのようなハーモニー楽器がない分、トニー・マラビーのサックスが自由奔放に、リズム隊からも分離して飛び交います。
もはや難解なメロディーなのか?ミスっただけなのか?わけがわからなくなりそうですが、これこそが『フリージャズ』ですよね。
しかしコード進行に捉われない自由な発想という点では、これこそが音楽の持つ本来の姿なのかもしれません。
本来、音楽というのは神との交信をする為の儀式でした。
もしかしたらここでトニー・マラビーは、曲名通りに「神の葬られた頭」を掘り起こそうとしているのかもしれません⁉
そういった意味合いもあってアルバムジャケットには、人の顔が映っていないのかもしれません。
アドリヴ演奏の途中でテナーサックスからソプラノサックスに持ち替えているのですが、ここでもジョン・コルトレーンの亡霊が付きまといます。
コルトレーン以降のサックス奏者のほとんどはソプラノサックスを演奏する際に「コルトレーンぽく」なっちゃいますね。
5分18秒辺りで聴けるトニー・マラビーのフレージングは、コルトレーンのソプラノソロに似ています。
ちなみにコルトレーンはシドニー・ベシェのソプラノ演奏を研究していますが、ソプラノを吹くように勧めたのはマイルス・デイヴィスです。
またしてもマイルスの影響ですね。
しかしメロディーラインやテンポが自由というだけで、決してヘタなわけではありません。
トニー・マラビーだけでなく、ここに登場するウィリアム・パーカーとナシート・ウエイツのリズム隊の演奏も相当な技量を持って演奏されています。
素人では到底辿り着くことが出来ないプロの演奏です。
11分と1曲目から長尺フリージャズが始まりますが、最初こそ「何だこれ?」と思うかもしれませんが、何回か聞いていくうちにこの不思議な世界にのめり込むようになっていることでしょう。
2曲目”Floral and Herbacious”では、サックスのフラジオ奏法以上の難関が待ち構えています!
それはベースのアルコ奏法(弓弾き)です。
これがクラシック音楽風のメロディアスな深い演奏なら感動的なのですが、これはフリージャズです!
「ギコギコ!ギュワッギャッ!ギュギュギュギュッ!」と擬音で表現しても濁音だらけになってしまいます。
さすがに僕もフリーすぎるアルコ奏法はあまり得意ではないです。
黒板を爪で引掻いたような寒気のする演奏でした。
しかし次の3曲目”La Mariposa”は、フリーではありますがソプラノサックスの音色が綺麗なので少し聴きやすい楽曲になります。
ベースもピチカート奏法(指弾き)に戻っているので安心して聴くことが出来ます⁉
そして4曲目にアルバム・タイトル曲の”Tamarindo”が収録されています。
「タマリンド」とは、常緑高木のことでその実は果実として食べることが出来ます。
甘酸っぱい味のため、酸味料として使用されることが多い果物です。
ちょうど知り合いがメキシコに行ったので「タマリンド」を撮った写真を貰いました。
茶色のえんどう豆の鞘みたいなのに、赤い実がビッシリと詰められています。
写真だけでなく「タマリンド」のペーストも貰いました。
どうやら料理に使えるようです。
またペーストの他にもグミに加工したお菓子も貰いました。
グミのお味の方は……
甘酢っぱくってスパイスのような独特の「日本にはない」味がするグミでした。
癖が凄いですが、美味しかったです。
さて、「タマリンド」の説明が終わったところでアルバムの内容に戻りましょう。
タイトル曲の”Tamarindo”は、本作の収録曲の中で最も聴きやすい楽曲です。
それはこの楽曲にはテーマメロディーが存在しているからです。
曲が始めると、まずはトニー・マラビーが独奏でテーマとなるメロディーを奏でます。
そのメロディーラインを基本としてアドリヴ演奏が展開されていきます。
ソロではアルコ奏法も登場しますが、2曲目と比べると大人しめです。
そして5曲目”Mother’s Love”では、またしても不気味なベースのアルコ奏法が登場する楽曲です。
どこが「母の愛」なのかよくわからない楽曲です⁉
アルバム最後の6曲目”Floating Head”で、埋もれていた頭が浮かび上がってきました。
どうやらコンセプト・アルバムであることがここにきてやっと判明します。
といっても、そのコンセプトが何なのか?僕には眼光紙背に徹することは出来ませんが、「これもジャズなんです!」
以上、【NYCが誇る現代のサキソフォン・コロッサス トニー・マラビーの『Tamarindo』を聴こう♪】でした。
さすがにジャズファンクのように万人におすすめ出来るような作品ではありませんが、一風変わった自由な発想のジャズを聴いてみたい方、既にフリージャズが好きだという方におすすめのアルバムです。
ジュゼッピ・ローガンやアート・アンサンブル・オブ・シカゴが好きな方にもおすすめです♪
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