
2019/06/03
変則8弦ギタリストのチャーリー・ハンターが参加していた異色のジャム・バンド『T.J.カーク』を聴こう♪
変則8弦ギタリストのチャーリー・ハンターが90年代半ばに参加していた異色のジャム・バンド『T.J.カーク』をご紹介します。
変則8弦ギターを操る異色のギタリスト、チャーリー・ハンター!
このブログでも何度か登場しているチャーリー・ハンターは、変則8弦ギターの使い手です。(※最近は7弦のギターも使っているようです。)
チャーリー・ハンターの使うギターは、通常の5本のギター弦と、6弦の代わりにベース弦が3本付いた特殊8弦ギターを使用しています。
なので5本のギター弦を使ってギター・パートを弾くのと同時に、3本のベース弦でベース・パートを弾くことが可能です。
こういった弾き方は、ブルースの世界では古くはロバート・ジョンソンの時代から演奏されてきました。
もちろんロバート・ジョンソンは、通常の6弦ギターで演奏していました。
ピアノのサウンドをギターに置き換えたら、4本の高音弦でコード弾きをして残りの2本の低音弦でベースラインを弾くという弾き方になったようです。
この演奏方法が更に発展させたのがチャーリー・ハンターの変則8弦ギターになります。
チャーリー・ハンター自身もギター1本で「オルガンのような厚みのあるサウンド」を表現するためにこの変則8弦ギターを使うようになったと言われています。
またギターアンプとベースアンプを同時に使うことで、チャーリー・ハンターの3本のベース弦は完全にベースそのものの音色として演奏されています。
残りの5本のギター弦にはコーラス・エフェクターを使ってコンテンポラリー・ジャズ系のサウンドでコード弾きを行うことが多いようです。
さて、そんなチャーリー・ハンターが90年代半ばに『ジャム・バンド』の先駆けとして在籍していた異色のバンドがあります。
それが今回ご紹介する『T.J.カーク』というバンドです。
ジャム・バンド界を牽引する3人のギタリストが奏でる摩訶不思議なファンク世界⁉
この『T.J.カーク』というバンドにはチャーリー・ハンターの他に2名のギタリストが参加しています。
それはウィル・バーナードとジョン・ショットです。
今ではジャム・バンド界でもそれぞれ有名になった2人ですが、当時はまだまだ無名に近い若手でした。
そこにドラムのスコット・アメンドラが参加した4人編成のバンドです。
もちろんベース・パートは全てチャーリー・ハンターが弾いています。
さて、このバンドが異色なわけなのですが、それはバンド名にも表れています。
『T.J.カーク』の”T”の文字は、ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンク(Thelonious Monk)の頭文字です。
そして”J”の文字はジェームス・ブラウン(James Brown)の頭文字になります。
最後の”KIRK”というのは、ローランド・カーク(Roland Kirk)の名前から付けられています。
このバンド名の通りに、基本的にこのバンドはモンクとJBとローランド・カークの楽曲を演奏するバンドです。
そもそもセロニアス・モンクとローランド・カークはジャズ界においても異色のミュージシャンですよね。
その摩訶不思議な世界観の楽曲に、ジェームス・ブラウンのファンクのビートが混じったのがこの『T.J.カーク』になります。
サウンドとしてはジミー・ヘリングが現在やっているジャム・バンド系の音楽に近いです。
しかし実際のところはこの『T.J.カーク』の方が先にそういった音楽性をやっていました。
なので90年代後半からブームとなるジャム・バンドの先駆けだったと言えます。
そんな革新的なバンドの『T.J.カーク』は2枚のアルバムを残しています。
今回はその2作品をご紹介したいと思います。
T.J. Kirk – 『T.J. Kirk』
01.Soul Power
02.Teo
03.Bemsha Swing
04.Shuffle Boil / You Can Have Watergate Just Gimme Some Bucks And I’ll Be Straight
05.Volunteered Slavery
06.Serenade To A Cuckoo
07.Freaks For The Festival
08.Cold Sweat / Rip, Rig & Panic
09.Humph
10.Epistrophy
11.I Got To Move / In Walked Bud
12.Jackie-Ing
アルバムの内容
1994年9月にサンフランシスコにて録音されて1995年にリリースされた1stアルバムの『T.J. Kirk』です。
1曲目からジェームス・ブラウンのファンク曲で始まります。
基本的に3人のギタリストの役割分担は決まっていて、ウィル・バーナードがロック調のサウンドでリードギターを弾き、ジョン・ショットがワウペダルを使ってファンキーな演奏をしています。
チャーリー・ハンターはベースラインを弾くと同時に、コーラス・エフェクターを使用してコード弾きをしています。
なのでそれぞれのギタリストの音の聴き分けはそこまで難しくはありません。
曲が始まるとLチャンネルから聴こえてくるメインでギターカッティングいているのがウィル・バーナードで、Rチャンネルから聴こえてくるワウギターがジョン・ショットです。
チャーリー・ハンターのギターの音はその2人よりも音量が小さめで左寄りの中央から聴こえてきます。
1分14秒のギターカッティングから最初にソロを弾くのがウィル・バーナードです。
そして1分43秒から2番手でソロを弾くのがチャーリー・ハンターになります。
まるでジョン・スコフィールドのようなコーラス・エフェクターのサウンドと奇抜なフレージングが特徴的ですね。
そして2分14秒から3番手でソロを弾くのがジョン・ショットのワウギターです。
3人とも文句なしに上手いです!
次の2曲目”Teo”と3曲目”Bemsha Swing”と4曲目の最初”Shuffle Boil”はセロニアス・モンクの曲です。
面白いのは4曲目の”Shuffle Boil”の途中からジェームス・ブラウンの”You Can Have Watergate Just Gimme Some Bucks And I’ll Be Straight”に発展していくところです。
かなり派手に歪ませたロックギターが一旦落ち着いてファンクの曲になります。
そして5曲目”Volunteered Slavery”から6曲目”Serenade To A Cuckoo”、7曲目”Freaks For The Festival”まで3曲連続でローランド・カークの楽曲が続きます。
といってもあくまでも楽曲は演奏するためのきっかけのようなものであって、もはやコード進行以外は彼ら3人のギタリストのオリジナル曲だとも言えそうなぐらいにアレンジが施されています。
ローランド・カークの曲であっても、バックのリズムはジェームス・ブラウン風のファンクですからね♪
そういった面でもファンク好きの方にもおすすめ出来る作品です。
8曲目はジェームス・ブラウンの”Cold Sweat”とローランド・カークの”Rip, Rig & Panic”が合体した摩訶不思議な楽曲です。
ウィルのハワイアンなスライドギターも聴くことが出来ます。
9曲目”Humph”、10曲目”Epistrophy”とモンクの2曲が続いて、11曲目はジェームス・ブラウンの”I Got To Move”とモンクの”In Walked Bud”の合わせ技です。
そして最後の12曲目”Jackie-Ing”もモンクの楽曲で締めくくられています。
この曲は39秒と短いのであっという間に終わります。
全体でいうとセロニアス・モンク度が高めではありますが、どの曲にも彼ら3人ならではのハチャメチャなアレンジが施されています。
それでもこのメンバーの演奏力の高さで有無を言わせぬ名作に仕上がっているのはさすが!ですね。
演奏力は文句なしに高いのでそこは安心して聴くことが出来ます。
ただ、なかなかアヴァンギャルドなアレンジが施されていますので、そういった点では聴く人を選びそうではあります。
でもセロニアス・モンクやローランド・カークの曲を好んで聴いている人からしたら「こんなの普通」かもしれませんね。
T.J. Kirk – 『If Four Was One』
01.Damn Right I’m Somebody
02.Get On The Good Foot/Rockhard In A Funky Place
03.Stomping Grounds/Untitled Instrumental/Green Chimneys
04.The Payback/I Mean You
05.Brake’s Sake
06.Ruby My Dear
07.Meeting At Termini’s Corner/I Got A Bag Of My Own/Brilliant Corners
08.Cross The Trakes/Thelonious
09.Four In One
アルバムの内容
こちらは1996年の4月から5月にかけてサンフランシスコで録音された2ndアルバムの『If Four Was One』です。
1曲目こそJBズでお馴染みの”Damn Right I’m Somebody”を素直にカヴァーしてはいますが、本作は前作以上に合体曲が多くなっています。
ただし本作には、モンクとJBとローランド・カーク以外の楽曲も1曲収録されています。
それは2曲目にJBの”Get On The Good Foot”と共に収録されているプリンスの曲”Rock Hard In A Funky Place”です。
この曲はプリンスのリリース直前に突然発売中止になった幻のアルバム『Black Album』の最後の7曲目に収録されていた曲です。
結局この『Black Album』は、制作から7年の時を経て1994年にリリースされています。
プリンスのオリジナルもかなりファンキーな曲なのですが、本作では3名のギタリストが自由奔放に絡み合って更なるファンクネスを表現しています。
その後もローランド・カークの”Stomping Grounds”とJBの”Untitled Instrumental”とモンクの”Green Chimneys”を混ぜ合わせた3曲目や、JBの”The Payback”とモンクの”I Mean You”を合わせた4曲目などアヴァンギャルドな合体曲が続きます。
5曲目にきて、ようやくモンクの”Brake’s Sake”を1曲だけでカヴァーしています。
といってもバックのリズムはJB風のファンクなのですがね。
次の6曲目の”Ruby My Dear”も素直にモンクだけの楽曲です。
そして7曲目は、またしても3名のミュージシャンの合体曲です。
ローランド・カークの”Meeting At Termini’s Corner”、JBの”I Got A Bag Of My Own”、モンクの”Brilliant Corners”という順番です。
その次の8曲目はJBの”Cross The Track”とモンクの”Thelonious”の合体曲で、アルバム最後は1stと同じくセロニアス・モンクの曲で終わります。
全体的に1stよりも勢いが失われた気がしますが、その分アヴァンギャルドなアレンジは増したようです。
ファンクな楽曲が減っているのが少し不満点ではありますが、それでもこのバンドにしか演奏することが出来ない独特の雰囲気は失われていません。
まずは1stの『T.J.Kirk』を聴いて、それから順番通りにこの2ndの『If Four Was One』を聴くことをおすすめします。
どうしても1stアルバムの方が勢いがあってかっこよかったのは仕方ないです。
以上、【変則8弦ギタリストのチャーリー・ハンターが参加していた異色のジャム・バンド『T.J.カーク』を聴こう♪】でした。
チャーリー・ハンター好きやウィル・バーナードやジョン・ショット好きはもちろんですが、ジミー・ヘリングやメデスキ・スコフィールド・マーチン&ウッド系のジャム・バンドがお好きな方におすすめの2作品です。
というよりも、このT.J.カークこそがこういったジャム・バンドの始祖だと言えなくもないですね。
ちなみにチャーリー・ハンターが『Copperopolis』と『Mistico』の2作品をリリースしていた2006年と2007年辺りに一度T.J.カークは再結成ツアーを行っていたようです。
あれから更に10年以上経ちましたが、またこの4人でT.J.カークとして活動して欲しいところですね!
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