2019/04/22
プリンスが本気で作った異色のインスト・アルバム『N.E.W.S.』を聴こう♪
プリンスが「歌わない」異色のインスト・アルバム『N.E.W.S.』をご紹介します。
プリンスのキャリアにおいて2作目の全編インストゥルメンタルで構成されたアルバム
以前このブログの【プリンスのおすすめアルバム7選‼】という記事で2000年にリリースされたジャジーな名盤『The Rainbow Children』をご紹介していました。
プリンスのおすすめアルバム7選‼
今回ご紹介するアルバムは、デジタル配信での販売を省けば……『The Rainbow Children』の次にリリースされた2002年の初のライヴ盤『One Nite Alone… Live!』に続く公式アルバムです。
全編「歌なし」インスト・アルバムとしては、(ブートレグを除いて……)2003年に先に配信リリースされていた『Xpectation』の次になるので2作目のインスト作品です。
さて、本作がリリースされる前の出来事を簡単に書いてみたいと思います。
大成功した『The Rainbow Children』ツアー
90年代の多くの時間は、プリンスはレコード会社とのトラブルから自身の名前を封印して発音不可能なシンボルをアーティスト名に使用していました。
そのシンボルマークをメディアなどで呼ぶ際には、【The Artist Formerly Known As Prince(ジ・アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス)】と呼ばれていました。
これは直訳すると「かつてプリンスと呼ばれたアーティスト」という意味ですが、英語圏では”The Artist(ジ・アーティスト)“と、日本では「元プリンス」と呼ばれていました。
90年代の多くの作品はこの名義でリリースされています。
しかし2000年になると、急に「プリンス」というアーティスト名に戻り、これまでになかったような楽器の生演奏により重点を置いた作品『The Rainbow Children』をリリースしました。
それまでのプリンスの特長だったデジタル音やデジタルビートを極力排して、よりオーガニックなサウンドを中心に腕の立つミュージシャンが集められて制作されたアルバムは、当時も評価が高かったと思われます。
僕自身は、80年代にリアルタイムでプリンスが一番ヒットしていた時期を体験したわけではありません。
1995年『The Gold Experience』からリアルタイムでプリンスを聴き始めました。
そのため『The Rainbow Children』を聴いても、違和感はありませんでした。
すんなりと好きになれたアルバムでした。
プリンス自身も『The Rainbow Children』に手ごたえを感じたのか?アルバム・リリース後には日本を含む世界中をツアーして回りました。
そもそもプリンスは、デビュー時からライヴの凄さが評判だったのですが、この時のツアーも世界中で大絶賛され、初のライヴ番『One Nite Alone… Live!』がリリースされるきっかけとなりました。
ツアーが成功したひとつの理由に、バンド・メンバーが過去最高レベルの腕の立つミュージシャンが集まっていたからというのもあるでしょう。
それは、80年代後半からプリンスのバンドに参加していたサックス奏者のエリック・リーズにシーラ・Eのバンド・メンバーだったキーボード奏者のレナト・ネト、そしてベースのロンダ・スミスとドラムのジョン・ブラックウェルという最高のリズム隊です。
特にリズム隊の2人の演奏力の高さが、この時期のプリンス・バンドの充実したライヴを支えていたと思います。
最高のバンド・メンバーを得て制作された本気のインスト作品!
そんな過去最高法のバンド・メンバーを引き連れて、ツアーの余韻が覚めぬうちに制作されたのが2003年の全編インスト・アルバム『N.E.W.S.』です。
なぜここで全編インストゥルメンタルで構成されたアルバムを制作したのか?
プリンスは、このバンド・メンバーでなら「歌なし」のインスト作品を制作しても作品として成り立つと思ったのでしょう。
今この最高のバンド・メンバーの演奏を残しておきたいと思ったのでしょう。
そして制作されたのがプリンス版『Bitches Brew』と言えそうな実験的なインスト・アルバムです。
本作は『東西南北』をテーマに、”North(北)“,”East(東)“,”West(西)“,”South(南)“の曲が収録されています。
その4曲の頭文字から『N.E.W.S.』というアルバム・タイトルも付けられています。
しかもどの曲も14分の尺で制作されています。
全曲併せて56分というこだわりようです。
収録曲だけでなくアルバム・ジャケットにもこだわりがあるようです。
紙仕様で作られたアルバムのジャケットは、裏面から開けることが出来ます。
CDのレーベル面も羅針盤のようなデザインが施されています。
ジャケットを広げた際に4方に広がった部分にもデザインが施されています。
その部分には、それぞれの方角によって大自然の『四元素(エレメント)』を基にデザインが施されており、各メンバーの名前が記載されています。
まず、、”North(北)“の方角のエレメントは、”Air(風)“です。
そこには主役のプリンスの名前が掲載されています。
本作では、ギターを中心にフェンダー・ローズやキーボードにパーカッションを演奏しています。
次に”East(東)“の方角のエレメントは、”Earth(大地)“です。
こちらにはエリック・リーズの名前が掲載されています。
担当楽器はテナーとバリトンの2種類のサックスです。
次は”South(南)“の方角で、エレメントは”Water(水)“です。
プリンスのバンドに参加した歴代のメンバーの中でも、屈指の腕前を持つ名ドラマーのジョン・ブラックウェルの名前が掲載されています。
最後に”West(西)“の方角のエレメントは、”Fire(火)“になります。
こちらには女性ベーシストのロンダ・スミスと、ピアノやシンセサイザーを担当するレナト・ネトの名前が記載されています。
こういったデザインのこだわりもプリンスらしいですね♪
アルバムの内容
アルバム収録曲は、全4曲のインスト・ナンバーで構成されています。
『The Rainbow Children』ほどジャズっぽくもないけれども、『Xpectation』のようなジャズ・ファンク作品でもありません。
どちらかと言えば、フュージョン系の楽曲が収録されています。
これまでのプリンスのイメージだったファンクっぽさもかなり薄めです。
しかしそれでもプリンスにしか創りえない作品に仕上がっているのは、さすがです!
また、どの曲もまるでマイルス・デイヴィスの『In A Silent Way』でテオ・マセロがやったように様々な曲調を継ぎ接ぎしたかのように途中で別の曲のように転調します。
1曲目”North”は、ロンダ・スミスのワウベースのイントロから静かに始まる楽曲です。
シンセサイザーが遠くで鳴っているよう浮遊感漂う音色で奥行きのあるサウンドで、この方角のエレメントである”Air(風)“を意識したかのようなサウンドを表現しています。
粘りつくようなブラックウェルのネオ・ソウル風のドラミングに、艶やかなエリック・リーズのサックスの音色が絡み合います。
3分54秒辺りからプリンスのギターも登場します。
サックスとユニゾンでジャジーなフレーズを弾いています。
ギターには薄くオクターバーを掛けているようです。
エリック・リーズがバリトン・サックスでソロを吹き、その後プリンスがいつものサンタナのような揺らぎのあるサウンドでギター・ソロを弾き始めます。
徐々にワウペダルも使って派手なギター・ソロになっていきます!
このまま一気に弾けるのかな?と感じた瞬間にクールダウンし、静かなバックの演奏の中ピアノの美しいソロが始まります。
いきなりこれまでのプリンスの曲にはなかったような異色の1曲目の次は、2曲目”East”が始まります。
不気味な教会音楽のようなシンセサイザーのイントロで始まり、ブラックウェルがジャック・デジョネットのようなポリリズムなドラミングで本領を発揮します!
エリック・リーズもウェイン・ショーターになったかのようにサックス・ソロを吹き始めます。
そこにアル・ディメオラのようなプリンスのギターも登場します!
すると、「琴」や「シタール」のようなキーボードの音色が聞こえてきます。
まるで東洋の音階を意識したかのようなメロディーを弾き始め、そのバックではプリンスがヘヴィーに歪んだギターでパワーコードを弾いています。
この方角のエレメント”Earth(大地)“を意識したかのような、ハードロック・バンドのような大地の鼓動を感じるメタリックなギター・ソロが始まります。
その後、7分58秒で一旦クールダウンします。
ここでいつものようなプリンスのギター・カッティングが始まります。
カッティングの際にも、ギターにはオクターバーを使用しているようです。
そしてエリック・リーズのサックス・ソロが始まり、楽曲は再び盛り上がりを見せます!
その後もオクターバーを使ったギター・カッティングとサックスの絡み合いが続き、徐々に曲は終わりを迎えます。
3曲目”West”は、プリンスのギターのネオ・ソウル調の美しいコード弾きから始まります。
バラード調の演奏をバックにサックスがロウソクに静かに火を灯すかの如く優しいメロディーを吹き、その周りを煙となって浮遊するかのようなエレピの音が流れます。
そしてプリンスが、深めにエコーの掛かったギター・サウンドでソロを弾きます。
バラード調だった楽曲は、3分58秒辺りからプリンスのギター・リフを合図に徐々に楽曲はファンキーなアップテンポに転調していきます。
サックス・ソロ→ピアノ・ソロ→ギター・ソロと火を噴く様なソロ回しが展開されます。
この方角のエレメントである”Fire(火)“を表現しているのでしょう。
しかしロウソクの火が消えていくかのように、再びスロー・テンポになって曲はクライマックスを迎えます。
4曲目”South”は、海中でイルカが泣いているかのようなシンセサイザーの音がイントロで鳴り始めます。
ロンダ・スミスのスラップ・ベースがバンドを先導します。
サックスの吹くメロディーの周りには、どことなくスティーヴィー・ワンダーが弾くファンキーなクラヴィネットのようなシンセサイザーの音色が飛び交っています。
まるでパーラメントの”Aqua Boogie”のようなサウンドは、この方角のエレメントである”Water(水)“を表現しているかのようです。
徐々にファンキーなバックの演奏が盛り上がっていき、うねる様なサックス・ソロの大波を迎え、そして一旦クールダウンします。
その後、優しいサックスの音色が大航海の終着地が近づいてきたことを知らせるかのように美しいメロディーを奏でます。
しかし大波はもう一度やってきます!
荒れ狂うサックスに嵐のように吹き上げるギター!
それら全てを越えた先には、ピアノのフィナーレが待っています。
長かった56分の世界旅行もこれにて終幕です♪
以上、【プリンスが本気で作った異色のインスト・アルバム『N.E.W.S.』を聴こう♪】でした。
たまにはプリンスの、こういった異色のフュージョン系インスト作品を聴いてみてはいかがでしょうか♪
しかしプリンスは本当に多才ですね!
ちなみに昨日2019年4月21日でプリンスが亡くなってから3年が経ちました……合掌。
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