2019/01/03
名セッション・ギタリスト、コーネル・デュプリー最期の作品『Doin’ Alright』を聴こう♪
コーネル・デュプリー最期の作品『Doin’ Alright』を聴こう♪
日本でも大人気のフュージョン・バンド、Stuffの一員だったコーネル・デュプリー
コーネル・デュプリーと言えば、真っ先に思いつくのが70年代に活躍した人気フュージョン・グループのStuffだと思います。
このバンドではコーネルは先輩ギタリストにあたるエリック・ゲイルと共に、ツインギター編成でグルーヴィーな演奏を聴かせてくれていました。
しかしこの2人のギタリストが活動していたのは何もStuffというバンドだけではありません。
それぞれに魅力溢れるソロアルバムもいくつか残しています。
このブログでも昨年末にエリック・ゲイルの初リーダー作についてご紹介しました。
また前回のブログ記事ではコーネルと比べられることの多いソウルギタリストのデイヴィッド・T・ウォーカー(以下:デビT)の作品もご紹介していました。
デビTとコーネルは、共にソウル/フュージョン系のセッションの多くにサイドマンとして参加していたので、何かと比べられることも多いかと思いますが、お互いの演奏スタイルは全く違っています。
ジャズ風に洗練されたデビTと比べると、コーネルの方がよりブルースに根差したスタイルです。
コーネルの方は、ギター・スリムやT-ボーン・ウォーカーなどのブルース・ギタリストに強く影響を受けているのでそれも当然だと思います。
90年代初頭に日本でアシッドジャズ/ジャズファンク・ムーヴメントが盛り上がった際に、バーナード・パーディをリーダーにしたスペシャル・バンドが来日公演をすることがあったのですが、その際に当初はコーネル・デュプリーがギタリストとして選ばれていました。
しかし体調の優れなかったコーネルは不参加となり、その代わりにデビTがこのスペシャル・バンドのギタリストを務めたこともあります。
もしこの来日公演がそのままコーネルで行われていたら、バンドの演奏も違ったものになっていたことでしょう。
ちなみにその時の1993年7月渋谷On-Air Tokyoのライヴは、『Coolin’ N Groovin’ 』としてDVD作品かされていますので要チェックです!
ジャズ・ファンク好きは必見のDVDですよ♪
似たような経歴を持った2人のギタリストだけれども、演奏スタイルやそれぞれのリーダー作に収録されている楽曲のジャンルは全く異なっていたりします。
それでは今回は、コーネルの遺作となった最期のアルバム『Doin’ Alright』をご紹介したいと思います。
Cornell Dupree – 『Doin’ Alright』
01.Doin’ Alright
02.I Ain’t Got You
03.I Got A Woman
04.Help Me Make It Through The Night
05.Honky Tonk
06.The Bird
07.Erma’s Shades
08.Rainy Night In Georgia
09.Squirrel
10.Ham
11.CL Blues
12.K.C.
– Bonus Track –
13.I Got A Woman (With The Cornell Stamp)
Personnel:
Cornell Dupree – Guitar
Kaz Kazanoff – Saxophone
Mike Flanigin – Organ
Nick Connelly – Piano
George Porter – Bass on Track 01
Larry Fulcher – Bass on Tracks 03,04,09,11,13
Ronnie James – Bass on Tracks 02,05-08,10,12)
Barry “Frosty” Smith – Drums
Released: 2011.
アルバムについて
本作はプロデューサーのエディ・スタウトがバンドメンバーや曲を集めてコーネル・デュプリーの久しぶりのアルバムとして企画したものです。
当初、コーネルは過去の作品のようなスムース・ジャズ系の作品を制作するものだと考えていたようです。
その方がリスナーの受けが良く売れると思ってのことだったのではないでしょうか?
しかしプロデューサーのエディ・スタウトが求めているのはスムース・ジャズ系の軽いサウンドではなくって、もっと1970年代風のハードでエッジが効いているファンキーな作品を目指していたようです。
ブルースに根差したコーネルの本領が発揮されるのは、やはりイナタいジャズ・ファンク系の楽曲だと思ったのでしょう。
個人的には近年のスムース・ジャズ系を演奏するコーネルよりも、1970年代にジャズ・ファンク/レア・グルーヴ系の作品でサイドマンとして参加していたコーネルの方が好きなので、これは嬉しい判断だと思いました。
そのためアルバム制作のために集められたバンド・メンバーもスムース・ジャズ出身ではなく、よりエッジの効いたサウンドを生み出すことが出来るメンバーが集められました。
そしてエディ・スタウトが自分の好きなグルーヴが心地よい楽曲を60曲選んで、その中からコーネルがやりたい曲を12曲選んで本作は制作していったようです。
その結果、本作は過去のどの作品よりも「ブルージーでイナタいジャズ・ファンク作品」となりました!
やはりコーネルのギターが活きるのは、こういった楽曲ですね♪
それでは収録曲を1曲ずつ見ていきましょう。
アルバムの内容
1曲目の”Doin’ Alright”は、コーネルの自作曲です。
ファンキーなドラムのイントロから始まり、アーシーなオルガンの音が鳴り始めます。
そこにファンキーなサックスが入って曲を盛り上げます。
おのサックスの音色が、まるでコーネルが過去に在籍していたバンドのボスだったキング・カーティス風にも聞こえます。
いきなりのオルガン系ジャズ・ファンク曲に「これだよ!これこれ!コーネル・デュプリーに求めているのはこのサウンドなんだよ!」と言いたくなるような最高の楽曲で幕を開けます。
当時の僕はこの1曲目を聴いただけで「この作品はコーネルのキャリアを代表するような名作になるな!」と確信しました。
しかし当時すでに癌を患っていたコーネルのギターソロに衰えも感じました。
フレージングこそ過去と変わらないようなブルージーなものでしたが、やはりグルーヴ面での衰えは隠せませんね。
もともと後ノリで弾きまくるタイプではないのですが、この曲の2回目のギターソロの際にピッキングミスが目立って聴こえてしまいます。
勢いのあるバックのメンバーの演奏と比べると、コーネルのギターソロだけ勢いが小さく感じられます。
もしこの曲を、1970年代の全盛期に録音してくれていたら…と思ってしまうこともあります。
ちなみにこの曲には、ミーターズのオリジナル・メンバであるジョージ・ポーターJr.がベースで参加しています。
相変わらずものすごいグルーヴです♪
この人は衰えませんね!
この曲の録音の際もコーネルとアイデアを出し合ったそうです。
ちなみにジョージは、コーネルと2000年代からバイユー・バディーズというバンドで一緒に演奏もしています。
2曲目”I Ain’t Got You”は、コーネルが若い頃に影響を受けたブルースマンのジミー・リードの曲です。
エリック・クラプトンやジェフ・ベックが在籍していた英国のロック・バンドのヤードバーズや、エアロスミスがカヴァーしたことで有名になった曲です。
ちなみにコーネルのギター教則本でもこの曲のようなシャッフル・ブルースが自身のルーツだと語っていました。
さすがにリズムギターを弾いている時のグルーヴ感は圧巻です!
イントロのコードカッティングは絶品です♪
しかし、どうしてもギターソロの際のリズムの遅れやピッキングミスによるちょっとしたノイズを聴くと衰えを感じてしまいます。
3曲目”I Got A Woman”は、レイ・チャールズでお馴染みの曲です。
冒頭の1分半はコーネルのギターのみで独奏されています。
しかもかなりテンポを落としたスローなアレンジです。
途中からオルガンやドラムが入ってきて、サックスもオブリガートを吹きます。
ちなみに少しテンポを上げたこの曲のフル・バンド・バージョンが日本盤のボーナス・トラックとして13曲目に収録されています。
4曲目”Help Me Make It Through The Night”は、1972年にサックス奏者のハンク・クロフォードが制作した作品『Help Me Make It Through The Night』の1曲目に収録されていた楽曲です。
そのアルバムにはコーネルもサイドマンとしてギターで参加していたので、ある意味セルフオマージュとも言えそうですね。
当時のアルバム発売の際に付けられていた邦題は「ひとりぼっちの夜」でした。
もともと陽気で楽し気な曲調なのでメジャー・ペンタトニックを中心にメロディーを構築するコーネルのギタースタイルにぴったりの曲調だとも言えます。
原曲と同じようにテーマメロディーはサックスに任せて、コーネルはギターソロ以外はバッキングに徹しています。
5曲目”Honky Tonk”は、コーネルが過去に何度も演奏している曲です。
スティーヴ・ガッドのバンド、ガッド・ギャングにいた当時も、そしてその後のソロ活動でもライヴでよく演奏されていたコーネルの得意曲です。
原曲はオルガン奏者のビル・ドゲットが演奏した人気曲なのですが、ビル・ドゲットの1970年代のアルバムにコーネルは参加していたこともあります。
そこでこの”Honky Tonk”をビル・ドゲットのバンド・メンバーの一員として演奏していました。
またコーネルがギターを弾く上で影響を受けたジャズ・ギタリストのビリー・バトラーもこの曲の原曲でギターを弾いていました。
コーネルにとって憧れのギタリストだったビリー・バトラーが弾いた曲だったので、おそらく若い頃に何度も何度もこの曲を練習していたのでしょう。
その集大成が本作収録の”Honky Tonk”なんだと感じます。
原曲のイメージそのままに演奏しています。
6曲目”The Bird”は、オルガン奏者のジミー・マクグリフが1971年にリリースした『Groove Grease』というジャズ・ファンク系の名作に収録されていた楽曲のカヴァーです。
ジミー・マクグリフ好きの僕としては、2011年当時この作品にこの”The Bird”が収録されることを知りとても嬉しく感じました。
凄く好きな曲なのですが、原曲ではコーネルは未参加でニューヨークのセッション・ギタリストのエヴェレット・バークスデイルというギタリストが弾いていました。
当時のコーネルに『Groove Grease』に参加して欲しかったな~とも思おうのですが、こうして今回自身のリーダー作に”The Bird”を取り上げてくれたのは喜ばしいことです!
僕の好きなオルガン系ジャズ・ファンクの曲をコーネルが演奏してくれているという最高の演出です♪
7曲目”Erma’s Shade”は、コーネルの自作曲で、久しぶりにワウギターが登場する怪しい雰囲気のサイケデリックなファンク曲です!
コーネルも若い頃は、デビTやフィル・アップチャーチのようにワウギターの名手でした。
それがみな、年を重ねるにつれワウペダルを使わなくなっていきました。
年がいって重たいペダルを運ぶのが大変になったからかな?という冗談はさておき、時代性が主な原因だと思います。
フュージョン/スムース・ジャズ系の楽曲では、あまりワウギターを弾くことはないですからね。
しかし1970年代は、コーネルもワウギターを弾いた名演をいくつか残しています。
それはダニー・ハサウェイの作品やアーチー・シェップやウェルドン・アーヴィンなんかのジャズ・ファンク/レア・グルーヴ系の作品で聴けます。
その辺のコーネル・デュプリーのかっこいいワウギターが聴けるアルバムについては、今後このブログでも取り上げていくつもりですので、またの機会をお楽しみにしていてください。
ちなみにこの曲ではコーネルはバッキングに徹していて、ワウペダルを使ったギターソロは残念ながら弾いていません。
久しぶりのコーネルのワウギターが聴けた次は、8曲目の”Rainy Night In Georgia”です。
オリジナルは、R&Bシンガーのブルック・ベントンが歌ったヒット曲です。
この曲の歌伴にコーネルがギターで参加していました。
またこの曲のイントロのギターフレーズによって若き頃のコーネル・デュプリーは名セッション・ギタリストの仲間入りを果たせたと自身のギター教則本で語られていました。
この楽曲がヒットしたことで、イントロの印象的なギターを弾いているのは誰だ?と音楽プロデューサー内で噂になったようです。
そしてその後、コーネルのセッション・ギタリストとしての仕事がどんどん増えていったのだとか。
そんな思い入れの深い曲をコーネルがギター・インストで演奏しています。
歌メロを感情を込めてギターで弾いています。
まるでシンガーにでもなったかのように、ギターに歌わせています。
9曲目”Squirrel”は、シンガーでハーピストでもあるバスター・ブラウンのヒット曲”Fannie Mae”を意識してコーネルが書いた楽曲です。
テンポこそ遅めにしてはいますが、メロディーラインはほぼ”Fannie Mae”のままです。
10曲目”Ham”は、これまた先の”Help Me Make It Through The Night”と同じ1972年の『Help Me Make It Through The Night』に収録されていた曲です。
この曲のみ当時の『Help Me Make It Through The Night』のバージョンは、コーネルではなくエリック・ゲイルがギターを弾いていました。
しかしこの曲もコーネルのギタープレイのスタイルにぴったりな楽し気にグルーヴする曲です♪
コーネルは1970年代のハンク・クロフォードの多くの作品に参加していました。
しかしこの『Help Me Make It Through The Night』には、特別な思い入れがあるんでしょうね。
11曲目”CL Blues”は、コーネルと同郷のテキサス州を代表するブルースマン、T-ボーン・ウォーカーの”Stormy Monday”をコーネル風にアレンジした楽曲です。
先ほどのジミー・リードのようにT-ボーン・ウォーカーからも大きな影響を受けているためか、コーネルのギター教則本にもこの”CL Blues”が課題曲として収録されていました。
しかしこういったスロー・ブルースを弾かせると、コーネルのギターは輝きを放っていますね!
どうしても年齢からか⁉テンポが速めのジャズ・ファンク系の曲では衰えを隠せませんが、こういったスロー・ブルースではむしろ味がある演奏に仕上がっています。
そしてボーストラックを省く最後の収録曲12曲目の”K.C.”は、本作に参加しているオルガン奏者のマイク・フラニギンのオリジナル曲のようです。
テキサス風のジャンプ・ナンバーのような陽気なノリの楽曲です。
アルバムの締めも、コーネルにぴったりなファンキーで明るい楽曲でした♪
以上、【名セッション・ギタリスト、コーネル・デュプリー最期の作品『Doin’ Alright』】のご紹介でした。
この作品がリリースされる1年ほど前に、僕はコーネル・デュプリーの最後の日本公演を観に行きました。
当時は、Stuffのトリビュート・バンドとしてゴードン・エドワーズをベースに迎えて日本公演が行われました。
しかし僕の期待していたStuffの楽曲は、ゴードンが歌う曲しか演奏してくれませんでした。
イマイチ納得いかないライヴでしたが、その後久しぶりのコーネルのリーダー作となるこの『Doin’ Alright』がリリースされることを知りました。
しかも往年のイナタくってファンキーな作品に仕上がっているとの事前情報でした。
これまでのような軽いスムース・ジャズ系の作品ではなく、ジャズ・ファンク系の作品になるということを知った僕は、アルバムに期待すると同時に、再度来日公演をしてもらって、『Doin’ Alright』収録曲中心のファンキーなライヴをしてくれないだろうか?と期待していました。
しかしアルバムが発売される少し前にコーネル・デュプリーの訃報を聞きました。
体調が優れなかったことはネットの情報や前の年のライヴで調子が悪そうだったのでなんとなく知ってはいましたが、さすがに自分の憧れるギタリストの一人が亡くなったことはショックでした。
そしてこの最期のアルバムを聴いてみて、これまで以上に出来が良かっただけに非常に残念に感じました。
生演奏で”Doin’ Alright”や”The Bird”を聴きたかった…と。
そういった残念な気持ちもありますが、コーネルが最期に自身が最も本領を発揮できるようなブルージーなジャズ・ファンク系の作品を残してくれたのは嬉しい限りです。
ギターソロの衰えは感じますが、しかし収録された楽曲の出来の良さに満足できる名作だと思います。
インストのR&B好きの方だけでなく、オルガン系ジャズ・ファンク好きの方にもおすすめしたい名作『Doin’ Alright』です♪
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