2019/01/02
ソウルフルギタリスト,デイヴィッド・T.・ウォーカーの1971年の名作『David T. Walker』を聴こう♪
数多くのセッションでギターを弾いた名セッションギタリストのデイヴィッド・T.・ウォーカー
後続のR&Bギタリストに多大なる影響を与えたデイヴィッド・T.・ウォーカー
ケニー・バレルに続き、新年2つめのブログ記事は、僕の尊敬するギタリストのひとりデイヴィッド・T.・ウォーカー(以下:デビT)の最も好きなアルバムにしました。
デビTは、90年代頃にドリカムの作品やライヴに参加したりしていたので、そちら方面でも有名だったりしますが、1960年代~1980年代に数多くのR&Bソウルやフュージョン系の作品にギタリストで参加しています。
またジャズファンク/レア・グルーヴ系の作品でもちょくちょく見かけることがあります。
どんな音楽性のミュージシャンのバックを務めても対応できる柔軟さが買われてのことだと思うのですが、しかしだからといって無個性なギタリストというわけではありません。
一聴して「あ、これデビTだ!」と気づくぐらい特徴的なトーンを持っています。
また後続のR&B系のギタリスト達に大きな影響を与えた数多くのギター奏法も特徴的です。
独特なニュアンスを持つチョークダウンの仕方や、ベースのスラップ音のようなプル奏法及びチョップ奏法、メロディアスなダブルストップ・アプローチ、複音トレモロ・ピッキング、コード音を一気にアルペジオするようなスウィープ奏法、まるでハープのような音をコード弾きに挟むハープ奏法、コードを弾いた後にフロント・ピックアップ付近の弦を叩いて音を出すポンピング奏法などです。
どの奏法もサイドマンで参加した作品でもよく演奏しているので、すぐにデビTだって気づきます。
またこれらの奏法のほとんどが後続のR&B系ギタリストに受け継がれています。
特にディアンジェロを発端とするネオ・ソウル(オーガニック・ソウル)系の作品に参加したギタリストの多くはこれらの奏法、特にハープ奏法を必ずのように弾いています。
例えば、惜しくも2008年に亡くなったスパンキーことチャーマーズ・アルフォードや、アイザイア・シャーキーなどがそうです。
スパンキーの方は、初期のディアンジェロの作品やライヴに参加していたり、ロイ・ハーグローヴのヒップホップ系ユニットだったHRファクターに参加していました。
スパンキーが亡くなってからは、アイザイア・シャーキーがディアンジェロのバンドメンバーとしてライヴに参加しています。
アイザイア・シャーキーの方はダニー・ハサウェイの娘レイラ・ハサウェイの作品にも参加していたりします。
他にもケリー・”2 スムース”・マーシャルなんかもデビTからの影響を強く感じさせます。
ネオ・ソウルのギター奏法は「イコール・デビT奏法」と言っても過言ではないぐらいだと思います。
そんなR&B系のギターを語る上で絶対に割けては通れない、名ソウルフルギタリストのデビTが1971年にリリースしたセルフタイトル作品のご紹介をしたいと思います。
David T. Walker – 『David T. Walker』
01.Never Can Say Goodbye
02.Loving You Is Sweeter Than Ever
03.On Broadway
04.I’ve Never Had The Pleasure
05.I Believe In Music
06.I Want To Talk To You
07.Hot Fun In The Summertime
08.Only Love Can Break Your Heart
09.What’s Goin’ On
10.The Real T.
Personnel:
David T. Walker – Guitar
Billy Preston, Clarence McDonald, Jerry Peters, Joe Sample – Keyboards
Wilton Felder – Electric Bass
Paul Humphrey – Drums
Bobbye Porter – Percussion
Curtis Amy – Saxophone
Annesther Davis, Jim Gilstrap, John Lehman, Merry Clayton, Patrice Holloway, Stephanie Spruell – Backing Vocals
Recorded: at A&M Recording Studios.
Released: 1971.
アルバム参加メンバー
メインでギターを弾くのは、もちろん本作のリーダーでもあるデビTです。
作品の中では2本以上のギターの音がオーバーダビングされていますが、全てデビTが弾いているようです。
リズム隊には、当時の西海岸で活躍していたウィルトン・フェルダーとポール・ハンフリーが参加しています。
ウィルトン・フェルダーは、元はクルセイダーズのサックス奏者なのですが、当時のジャズファンク/クロスオーバー系の多くの作品でベースを弾いています。
ポール・ハンフリーの方も、同じく当時のジャズファンク/クロスオーバー系の多くの作品でドラムを叩いていたり、自身も幾つかのリーダー作を残しています。
この2人組のリズム隊を見て思い出すのが、やはりジミー・スミスの名ジャズファンク作品『Root Down』ですね!
あの作品同様に、本作でも鉄壁のグルーヴを提供してくれています。
また本作には多数のキーボード奏者が曲ごとに交代で参加しているのですが、まずはなんといっても4曲目”I’ve Never Had The Pleasure”の作曲者にして「5番目のビートルズ」とも呼ばれたビリー・プレストンが参加しています。
そしてクルセイダーズ組からジョー・サンプルも参加しています。
ジョー・サンプルとデビTはこの後も度々共演しています。
僕もそうなのですが、1970年代のジャズファンク/クロスオーバー系の作品が好きな人に取っては、こういったミュージシャンの名前を見ただけでワクワクしてしまいますよね。
もちろん期待通りに素晴らしい演奏ばかりが収録されています♪
アルバムの内容
1曲目”Never Can Say Goodbye”は、「さよならは言わないで」の邦題で知られるジャクソン5の名曲です。
幼い頃のマイケル・ジャクソンが可愛らしい声で懇願するように歌うあの曲です。
実はオリジナル録音時のギターを弾いていたのも、このデビTでした。
あくまでマイケルの歌が主役なので音は小さめにされていますが、原曲で聴けるハープのようなギター音やダブルストップでスライドさせている部分を弾いているのがデビTです。
今回はデビTが歌メロも全てギターで弾いています。
女性のバックコーラスこそ聞こえるものの、基本はギター・インスト作品です。
マイケルが歌った歌メロ部分を、デビTがまるでギターで歌うようにたっぷりと感情を込めて弾いています。
人間の歌声に近いようなチョークダウンのポルタメント具合や、サビの部分を感情表現豊かなダブルストップ音で加工していくアプローチなど、アレンジも巧みです。
特にサビ部分の、歌詞で言うところのマイケルが”No, no, no, no, no, no”と歌う部分で、デビTのギターに合わせてポール・ハンフリーが呼応するようにドラムで合わせてアンサンブルを構築しているのが素晴らしいです♪
そして曲全体で聴けるどこか儚さと悲しさを感じさせるようなストリングスのアレンジも素晴らしいです。
本当に素晴らしい名演で、僕の中ではデビTの最高の名演のうちのひとつです。
僕の好きなジャズ・ギタリストのグラント・グリーンも同じようにギター・インストでこの曲をカヴァーしているのですが、やはりこのデビTの演奏する”Never Can Say Goodbye”が一番素晴らしいと思います。
この1曲だけでも、この作品を聴く価値はあります!
続く2曲目”Loving You Is Sweeter Than Ever”は、スティーヴィー・ワンダーが16歳の頃に書いた初々しいラブ・ソングです。
少年期のプラトニックな恋愛を歌った甘酸っぱい歌詞が、大人になって聴くと逆に小っ恥ずかしかったりもしますが名曲ですね。
ちなみに当時のモータウンを代表するボーカル・グループのフォー・トップスが歌って有名にした曲です。
ロック好きの人だと、ザ・バンドやエリック・クラプトンがライヴで歌ったのが有名です。
サビのコーラスがとても美しい名曲です♪
僕も大好きな曲なのですが、この曲を本作では軽快なテンポで颯爽と演奏されています。
もちろんデビTが歌メロ部分を歌うようにギターで弾いています。
僕が一番好きな部分は、2回目のサビが終わった後、2分1秒の辺りでギターの音が止まり、ベースとドラムのみでリズムをキープし、そこからキーボードが入ってきて最後にアドリヴでギター演奏が始まるところです。
最後はベース部分の低い音でリフを弾くデビTや、メインのメロディーを弾くデビTや、ワウギターでリズミカルに弾くデビTなど、数多くのデビTが多重録音で登場します。
まるでマーヴィン・ゲイの『What’s Goin’ On』のようですね。
「お!左チャンネルからマーヴィンが!いや待てよ、右チャンネルからもマーヴィンが!おや?中央にもマーヴィンいるな?んん?何人マーヴィンの声が重なってるの??」って感じです。
マーヴィンの作品にも参加していたデビTですので、この辺のオーバーダブの作り方も影響を受けているのかな~?と。
3曲目”On Broadway”は、ジョージ・ベンソンの得意曲で有名なバリー・マンが書いた曲です。
当時のソウルジャズ/ジャズファンク系のミュージシャンもこぞってカヴァーしていた、ある意味で定番曲です。
この楽しい曲を、男女のバックコーラスが流れる中デビTが前半はクリーンなギターで、そして後半はお得意の喋るようなワウギターで弾いています。
最近はあまりワウペダルを使わないみたいですが、1970年代当時はワウギターをよく弾いてくれていました。
4曲目”I’ve Never Had The Pleasure”は、「5番目のビートルズ」ことビリー・プレストンの書いた曲です。
ビリー・プレストンのキーボードのイントロから颯爽と始まる爽やかな曲です。
曲の始まりこそクリーントーンのギター音で弾いていますが、40秒を超えた辺りからお得意のワウギターのご登場です!
聴き所はギターソロが始まってから、1分58秒辺りから2分10秒辺りで聴けるグルーヴィーなワウギターのソロです。
リズムギターの延長のようなグルーヴィーなギターソロです♪
5曲目”I Believe In Music”は、マック・デイヴィス作でダニー・ハサウェイもデビュー作で歌った曲です。
女声コーラスをバックに歌声のようなデビTのギターの音がメロウに鳴り響くのを聴いていると、まるで教会で聴くゴスペル・ミュージックのようでもあります。
ハイライトは、1分45秒辺りで女声コーラス隊の盛り上がりが最高潮に達した頃にデビTのグルーヴィーなワウギターが登場するところです。
6曲目”I Want To Talk To You”は、デビTのオリジナル曲です。
これがまたとても素晴らしい名曲なんです♪
捨て曲一切なしの名曲カヴァーが多く収録されたこの作品に、デビT自身のオリジナル曲も全く引けを取っていません!
デビTってこんな良い曲書けるんだなぁ~と感心してしまいます。
ギタリストなのに、R&Bシンガー目線で作られた曲という感触です。
歌詞を付けてボーカル曲としても十分成り立つような曲調ですね。
7曲目”Hot Fun In The Summertime”は、スライ&・ザ・ファミリーストーンの名曲です。
僕もこの曲大好きなのですが、B.B.キング風のチョップ音やハープ奏法を織り交ぜて弾くテーマ部分のアレンジが本当に素晴らしい演奏です。
この曲も前半はクリーントーンで弾いて、中盤からワウギターにシフトします。
特に2分35秒辺りから、メインのギターのバックで「ワカチョコワカチョコ♪」とリズムを刻むワウギターのグルーヴ感が半端ないです!
次の8曲目”Only Love Can Break Your Heart”は、なんとニール・ヤングの曲です。
ミーターズなんかもニール・ヤングの曲をカヴァーしていたりするのですが、当時の黒人ソウル系のミュージシャン達もニール・ヤングの曲が好きだったんですね。
僕ももちろん好きなこの曲なのですが、なんとも原曲以上にスローテンポで悲しくなるようなアレンジが施されています。
やはり『After The Gold Rush』は名曲ばかり収録された歴史的名盤ですね。
あの作品は涙腺崩壊寸前の悲しいメロディーの曲で溢れています。
そして9曲目は、本作一番の名演にしても最も有名な曲、マーヴィン・ゲイの”What’s Goin’ On”です。
最初のテーマ部分から高音パートと低音パートのギターがオーバーダブされています。
もちろんどちらも弾いているのはデビTです。
1人2役で「コール&レスポンス」を弾いている感じです。
2本のギターの掛け合いがとても美しいです。
後半のギターソロ部分で、片一方のギターがワウペダルを使い始めます。
その後も今に至るまで、”What’s Goin’ On”はデビTの得意曲となりました。
その始まりがこの作品収録のこのバージョンになります。
そして最後の10曲目”The Real T.”も本作2つめのデビTのオリジナル曲です。
“The Real T.”の”T.”の部分は、もちろんデビTの名前でもあるのですが、”Truth”の”T”でもあります。
“The Real Truth”とは、当時のスラングで「本当のことを言えよ!」といったことです。
デビTが本当に言いたかったこと、それがまさにこの曲です。
デビTの手癖フレーズや特徴的な奏法など、全てを込めた渾身の1曲です!
ライヴでもオープニングに演奏されることが多い名曲です♪
ネオ・ソウル好きのギタリストは必聴です!
以上、【ソウルフルギタリスト,デイヴィッド・T.・ウォーカーの1971年の名作『David T. Walker』】のご紹介でした。
それでは、今後もデビT作品をご紹介していきたいと思いますので、ぜひまたこちらのブログの方をよろしくお願いします。
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