
2018/10/03
キンブロウ親子で聴く呪術的なミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースの魅力♪
ノース・ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースの魅力♪
さて、前回のこのブログの「Music」のカテゴリー記事はオーティス・ラッシュ追悼のブログ記事でしたので、珍しく連続でブルースネタの投稿となります。
同じブルースといえども今回はオーティス・ラッシュのモダン・シカゴブルースとは打って変わって、北ミシシッピ州のヒル・カントリー・ブルースを代表するキンブロウ親子のご紹介です。
R.L.バーンサイドと同じくミシシッピ・フレッド・マクダウェルから影響を受けた演奏スタイルです。
それはワンコード上をひたすら反復する演奏スタイルで、まるでブードゥー教の呪術のようでもあり独特の催眠効果を生み出しています。
ヒル・カントリー・ブルースを代表するキンブロウ親子
さて、今回僕がご紹介したいのは、1930年7月28日ミシシッピー州ハドスンヴィル生まれのブルースマン、ジュニア・キンブロウとその息子デイヴィッド・キンブロウJr.の2人です。
父親のジュニア・キンブロウの方は、1998年1月17日にホリー・スプリングで心臓発作で亡くなっています。
息子のデイヴィッド・キンブロウJr.の方は…多分生きています!?
なんでこんな書き方をしたかっていうと、なかなかの悪い奴なんでもしかしたら「今はもうこの世にはいないのかも!?」って勘ぐったからです。
というのも、デイヴィッド・キンブロウJr.は、10代後半に麻薬に溺れて以来人生を何度か踏み外しているようなんです。
日本じゃ考えられないようなことですが、アメリカですからね。
その後、強盗を起こしてパーチマン刑務所に収監されちゃったりもしています。
出所後は父親のジュニア・キンブロウと一緒に音楽活動を続けていましたが、1998年にジュニア・キンブロウが亡くなったショックからまたしても人生が狂い始め再びパーチマン刑務所行きとなりました。
そして2度目の出所後に今回ご紹介するアルバム『Shell Shocked』を2006年にリリースしたのですが、それ以降は目立った活動はないようです。
せっかく素晴らしい作品をリリースしたのに個人的には残念に思うのですが、また私生活の方で何か問題を起こしたのかもしれません。
そういったわけで、「多分生きている。」と書きました。(追記:残念ながらこのブログ記事を書いた後の2019年に亡くなっていました。)
それではまずは親父のジュニア・キンブロウの方から僕の好きな作品をご紹介したいと思います。
親父なのに「ジュニア」なのがなんともややこしいですね。
Junior Kimbrough & the Soul Blues Boys – 『All Night Long』
1992年にリリースされた本作はジュニア・キンブロウにとっての久しぶりの作品です。それ以前の録音は1966年のものがありますが、それ以降の1970~1980年代は録音を残していないようです。それが1990年代に入りガレージロックから影響を受けたジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが登場して、彼らがヒットしたことで、そのジャンルに影響を与えたヒル・カントリー・ブルースのミュージシャンたちR.L.バーンサイドやこのジュニア・キンブロウにスポットライトが当たりました。(正確にはミシシッピ・フレッド・マクダウェルが始祖と言えそうですが…。)そして彼らにとって転機とも言えるような出来事が1992年に起こります。それはミシシッピ周辺のミュージシャンの作品をリリースするインディペンデント・レコードレーベルの『ファット・ポッサム・レコーズ』が設立されたことです。同レーベルから長年日の目を浴びることのなかったヒル・カントリー・ブルースのミュージシャンたちが続々と作品を発表していきました。そのうちのひとつがこのジュニア・キンブロウの『All Night Long』です。先にも少し触れましたが、アメリカのガレージロック(MC5やイギー・ポップ&ストゥージズ、ヴェルベット・アンダーグラウンドも入るかな!?)や英国のパンク(セックス・ピストルズやクラッシュやダムドなど。)なんかの音楽性に影響を与えているのが、このヒル・カントリー・ブルースだと言えなくもないんです。時にワンコードで延々と曲を繰り返したり、コード進行が出てきてもサブドミナントを経由してすぐにルートに戻ったりするシンプルな楽曲構成が多いです。またギターの音量もデカく、その音は激しく歪んでいることが主です。そういったシンプルだけども衝動的な音楽性がガレージロックやパンクロックに影響を与えているはずです。先にご紹介していたR.L.バーンサイドのライヴ作品『Burnside On Burnside』なんかは、もはやガレージロックとでもいうべき激しい演奏が繰り広げられています。このブログにも何度か登場している僕のお気に入りの言葉なのですが、“The blues is the roots; everything else is the fruits.”ですね。この言葉はハウリン・ウルフにも楽曲を提供していたブルースベーシストのウィリー・ディクソンの言葉です。「ブルースは全ての根っこであって、それ以外の音楽は全てその木からなる実」という意味になります。全てはブルースをルーツとして生まれてきています。さて、前置きが長くなりましたが、作品の方をご紹介します。1曲目の”Work Me Baby”からヒル・カントリー・ブルース調が全開です!ミシシッピ・フレッド・マクダウェルよりも更に怪しい雰囲気でG7のコードがひたすら反復されています。ギターソロなんかもごくごくシンプルなGマイナー・ペンタトニックのみで弾いています。これがまさにヒル・カントリー・ブルースという音楽性なんです。もうこの1曲でこのジャンルの説明が出来てしまうほどシンプルで特徴的でもあります。続く2曲目”Do the Romp!”は、少しジミー・リード調の曲になりそうで…ならない曲です。そもそものノリが違うんでしょうね。一応この曲はワンコードではなくD7から始まってドミナントのA7にいってサブドミナントのG7に下がって…と展開はしています。そして3曲目の”Stay All Night”がこのアルバムのベスト・トラックでしょうか。まさに呪術的な催眠効果を生み出す怪しいグルーヴが曲全体から醸し出されている曲です。この曲調は息子のデイヴィッド・キンブロウJr.に受け継がれています。ギターソロはジュニア・キンブロウ自身によるものですが、息子のデイヴィッド・キンブロウJr.もそっくりなフレーズを弾きます。やはりその辺は親子なんですね。その後の曲も似たような感じで続いていきます。良く言えば全体の統一感はある作品ですが、悪く言うと似たような曲調ばかりなので単調に聞えてしまうところでしょうか。強いて言えば、7曲目”All Night Long”と8曲目”I Feel Alright”の2曲がアップテンポのビートで聴き心地が良いと思います。しかし”I Feel Alright”のイントロは、なかなかの酷さです。そもそも全体的にギターのチューニングがおかしいんですが、それはライトニン・ホプキンスみたいにこういったブルースマンにありがちなことです。しかしもはや不協和音とでも言うべきイントロのぐちゃぐちゃフレーズは、さすがにね。まぁこういったテクニックだけに頼らない衝動をぶつけたような音楽性が後のガレージロックやパンクロックに受け継がれていったんでしょうね。演奏者として聴くにはちょっとどうかな?…と個人的には思いますが、『ひとつの音楽ジャンル』ということで、「ガレージロックやパンクロックに影響を与えたこんなブルースもあるんだな!」という感じで聴いた方が僕はおすすめです。一度このヒル・カントリー・ブルースの催眠療法を受けてみてはいかがでしょうか?
それでは次は息子のデイヴィッド・キンブロウJr.の2006年の作品『Shell Shocked』のご紹介です。
David Kimbrough Jr. – 『Shell Shocked』
2005年に出所してから作られたデイヴィッド・キンブロウJr.の初の作品になります。基本は父親のジュニア・キンブロウ直系のヒル・カントリー・ブルースなのですが、新世代の要素が混じっています。それはディアンジェロを代表する”ネオソウル(オーガニック・ソウル)“からの影響です。1曲目”Come into My World”は、まるでそのディアンジェロが歌いそうなネオソウル調の曲です。デイヴィッド・キンブロウJr.の歌い方もディアンジェロを意識したような抑揚をなるべく押さえたような歌い方です。これは元はと言えばスライ&ザ・ファミリー・ストーンの影響だと思います。スライが1971年の歴史的名盤『There’s A Riot Goin’ On(暴動)』で提示したようなクールでドライな歌い方です。さてこのアルバムは、1曲目こそいきなりネオソウル調の曲で始まりますが2曲目の”I Dreamed Pop Gigged with Us”からは父親譲りのヒル・カントリー・ブルース調に変わっています。1曲目にソウル調の曲を収録するのはマジック・サムの『West Side Soul』みたいですね。2曲目も歌い方こそディアンジェロみたいですが、曲調は先にご紹介していたジュニア・キンブロウの”Stay All Night”のような曲です。”Stay All Night”がキーGのブルースだったのに対して、こちらの”I Dreamed Pop Gigged with Us”はキーAに上がっています。この辺はデイヴィッド・キンブロウJr.の方が声が少し高いからなんでしょう。そのため声の高さからネオソウル調の曲にも歌声が合うんだと思います。リズムギターの時はギターの音はクリーントーンなのですが、ギターソロになると急激に音が歪んでいます。おそらく何らかの歪み系のエフェクターを踏んでいると思われます。バッキングはクリーンな音で、ソロになると激しく歪むこの辺のギターの弾き方は、まるでニルヴァーナなんかのグランジからの影響を感じますね。まさに1990年代行の新世代のグランジやネオソウルの影響を受けつつも、自身の一族のルーツでもあるヒル・カントリー・ブルースが混じったハイブリッドなブルース作品だと言えますね。3曲目の”Jump to My Rules”は少し跳ねた曲調です。でもどこか暗いのは、グランジとかからの影響でもあるのでしょうか!?タイトル曲の”Shell Shocked”もディアンジェロが歌いそうなクールな曲調です。歌い回しがそっくりです。ディアンジェロからかなり影響を受けているのでしょう。そしてギターソロになると衝動が爆発したかのように歪んだギターの音色が鳴り響きます!ギターの腕前は、決して上手くありませんが、音作りはなかなか悪くないんじゃないかな?といったところです。ヒル・カントリー・ブルースはテクニックを聴く音楽じゃないって言うのも父親譲りですね。5曲目の”Spit in My Mouth”のイントロのドラムのビートなんか聴いていると、まるでディアンジェロの曲が始まるのか?と勘違いしてしまいそうです。6曲目の”I Don’t Do the Things I Used to Do”のイントロはスライドギターを弾いています。しかし父親譲りの不安定な音程です。やろうとしていることは、なんとなく伝わってきそうですが、テクニックが追いついていない感じがします。7曲目”Wild Turkey”と8曲目”Will You Be My Wife?”もネオソウルとヒル・カントリー・ブルースが上手いこと混じった曲調です。そして最後の9曲目”Hey Pretty Girl”は、ギターもベースもなしで歌とビートのみで演奏している変わった曲です。アルバムの最初と最後は他の収録曲と趣が少し違いますが、それ以外の7曲は、いかにもキンブロウ一族の血を引いた伝統のヒル・カントリー・ブルースに、新しい世代のネオソウルの曲調とグランジギターの方法論と独特の暗さが混じり合ったハイブリッドなブルース作品だと感じます。個人的にはリアルタイムでこの作品を聴いたときに「これだよこれ!ブルース界のディアンジェロとでも言うべき新世代のブルース!ブルースの新しい時代が始まった!」と、デイヴィッド・キンブロウJr.の今後の活躍にとても期待しました。しかし残念ながら、この作品をリリース以降は目立った活動は行っておらず、新しい作品の発表も未だないままです。今どこで何をしているのか?ちゃんと生きているのか?すらわからないのが非常に残念です。近々ディアンジェロみたいに復活して表舞台に出てきてほしいものです。そして新作を発表して欲しいですね。傑作をリリース後に音沙汰無くなるところまでディアンジェロの真似をしなくっても…と思ったりもします。デイヴィッド・キンブロウJr.の今のところ唯一の作品『Shell Shocked』は、新世代のブルースを聴きたい方には、すごくおすすめの作品です。
以上、今回は『キンブロウ親子で聴く呪術的なミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースの魅力♪』のいご紹介でした。
たまには少しマニアックなブルースの記事でも…。
また今後も他にも書いていきたいと思いますので、お楽しみに。
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