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カテゴリー:Music

2019/04/01

ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンがベイステイトに残したスピリチュアル・ジャズ作品3選‼

ジョン・コルトレーンの遺志を継ぐスピリチュアルなジャズ・トランペット奏者のハンニバル・マーヴィン・ピーターソンの作品をご紹介します。

ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンとは?

今回ご紹介するのは、1948年に米国のテキサス州に生まれたハンニバル・マーヴィン・ピーターソンというトランペット奏者です。

 

名前の最初に付いている「ハンニバル」というのは、紀元前のカルタゴの将軍「ハンニバル・バルカ」から由来しています。

 

マーヴィン・ピーターソンを観たファンから「ハンニバル」と愛称で呼ばれるようになり、それに気をよくしたマーヴィン・ピーターソンが自身のグループ名に使用するようになりました。

 

その後、その愛称をえらく気に入ったので自らのニックネームとして使うようになりました。

 

さて、そんなハンニバル・マーヴィン・ピーターソン(以下:ハンニバル)は、元はと言えばサックスを習いたかったけれどもトランペットの方が安価で購入できたためトランペット奏者として活動をすることとなります。

 

駆け出しの頃は、女性R&Bシンガーのエタ・ジェイムズや、同郷のテキサスの巨人T-ボーン・ウォーカーなどのバンドでも演奏していたようです。

 

それからジャズを目指すようになり、ローランド・カークやロイ・ヘインズにエルヴィン・ジョーンズにファラオ・サンダースにアーチー・シェップ等のジョン・コルトレーンと関係のあるミュージシャンと共に研鑽を積みました。

 

そのため、ハンニバルの演奏する音楽性もジョン・コルトレーンの遺志を継ぐような『スピリチュアル・ジャズ』系の作品が多いです。

 

その昔、僕がジャズを聴き始めたばかりの友達に「何かおすすめのジャズってない?普段どんなの聴いてるん?」と聴かれて…

 

「そうだな~……コルトレーンとかの熱いアドリヴ演奏が聴ける『スピリチュアル・ジャズ』系が好きかな~。」と答えた際に、「何それ?怪しい?宗教団体かよ!」と何故か笑われたことを思い出します。

 

こういう風に、自分が知らないことを否定から入るのは良くないですね。

 

閑話休題…まぁそれは良いとして、『スピリチュアル・ジャズ』は、ちゃんとした『ジャズ』のジャンルの1つです!

 

とはいっても、その音楽性を「詳しく説明してよ!」と言われちゃうと…僕も困るのですがね。

 

なんていうか…僕の単純な見解だと『熱い魂が宿る音楽』だと感じます。

 

60年代初期~半ばにかけて、アメリカでは黒人の権利を求める公民権運動の波が最高潮に達していました。

 

そんな時に、遠く離れたアフリカの地では多くの国が独立を果たしました。

 

それに感化されたようにアメリカ黒人達が自分たちの生まれに今まで以上に誇りを持つようになり、激しいアフリカン・ビートをジャズにも持ち込みました。

 

その通常のジャズよりも更に激しいポリリズムを用いたビートの上を、その曲のコード進行が許す限りの(場合によってはハーモニーを逸脱してまでも)アドリヴ演奏で自己を表現するようになりました。

 

そこには、僕のような一般人では到底、眼光紙背に徹することが出来ない様な『深淵なる思想』が込められていると思います。

 

平和な世の中に生まれた世代の僕のような日本人が、当時の苦しかったアメリカ黒人達の生活を理解することなど到底不可能なのですが、しかし彼らの表現する『魂を揺さぶるような音楽』を聴いて、何も感じないほど感性が鈍くはないと思っているつもりです。

 

こういった音楽を最初に定義したのがジョン・コルトレーンでした。

 

もちろんジョン・コルトレーン自身も、オーネット・コールマンやエリック・ドルフィーにアルバート・アイラーなどの当時のフリー・ジャズ系ミュージシャンから大きな影響を受けてはいるのですが、しかし『スピリチュアル・ジャズ』の一番のアイコンと言えば文句なしにジョン・コルトレーンだと思います。

 

みな、ジョン・コルトレーンの遺志を継ぐ者ばかりです。

 

しかしこういった難しいことを抜きにしても、今回ご紹介する3作品を聴いて、ハンニバルの熱いトランペット演奏に触れていただければ…と思います。

 

何度か書いていますが僕のこのブログは、「これから色んな音楽(ジャズ)を聴いてみたいという方に、自分の聴いてきた素晴らしい音楽をなるべくわかりやすくご紹介すること」なんです。

 

一人でも多くの人に、僕の聴いてきた素晴らしい作品を耳にしてもらいたいと思っています。

 

なので、「ジャズ初心者だから…」とか「こんな作品知らなかった」ということは気にしないで下さい。

 

むすろ僕は、そういう方々におすすめしたいのですからね♪

 

それでは今回は、ハンニバルが日本のスピリチュアル・ジャズ・レーベルの「ベイステイト」に残した3作品をご紹介したいと思います。

 

 

ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンが日本のスピリチュアル・ジャズ・レーベルに残した名作3枚!

今回ご紹介したいアルバムは、1976年のライヴ盤『Live In Lausanne』、1978年の『The Light』、1979年の『Tribute』です。

 

全て日本のスピリチュアル・ジャズ・レーベルの「ベイステイト」からリリースされています。

 

ちなみに「ベイステイト」からリリースされたサックス奏者のビリー・ハーパーの『The Believer』をご紹介したブログ記事も過去に書いていますので、よければそちらもご参照ください。

 

日本が誇るスピリチュアル・ジャズ・レーベルのベイステイトからリリースされたビリー・ハーパーの『The Believer』を聴こう♪

それでは、ハンニバルの3作品を順番にご紹介していきたいと思います。

 

 

Hannibal Marvin Peterson – 『Live In Lausanne』

01.My Favorite Things
02.Grandma Suzie
03.Episode Zero
04.The Light

 

1976年にスイスの都市ローザンヌで収録された熱いパフォーマンスを収録したライヴ盤です。

 

いきなり1曲目からコルトレーンの得意曲”My Favorite Things”から始まります。

 

この曲のオリジナルは、オスカー・ハマースタイン2世とリチャード・ロジャースのコンビによるミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌です。

 

当時のジャズ・シーンでは、ミュージカルや映画の曲をカヴァーすることが多かったのですが、ジョン・コルトレーンがこの曲を演奏し始めたのにも理由がありました。

 

まず、当時のお客さんが慣れ親しんだような誰もが知る曲をステージで演奏するとライヴが盛り上がったということもありますが、そういった楽曲の楽譜を売る商売人がいたようです。

 

彼らがミュージシャンの楽屋や控室に行き、「大将、こんな曲の楽譜がありまっせ!次の新曲にどうでっか?お安くしときまっせ~♪」と言って楽譜を売りさばいていたようです。

 

当然、ジョン・コルトレーンの楽屋にも楽譜を売りに来ていたようで、たまたまコルトレーンのバンドに所属していたピアニストのマッコイ・タイナーが”My Favorite Things”の譜面を手に入れました。

 

そのことをコルトレーンに話してみたら、コルトレーンはこの曲の譜面を見て、コード進行がステージで長尺アドリヴ演奏をするのにピッタリだということに気づき取り上げることにしたという経緯がありました。

 

それからコルトレーンが、ワルツ・タイムでこの曲を取り上げて以降、まるで『スピリチュアル・ジャズ』系の登竜門のようにこの曲を挙って後輩ミュージシャンも演奏するようになりました。

 

もちろんジョン・コルトレーンの遺志を継ぐジャズマンのひとりであるハンニバルも例外ではなかったようです。

 

まるで「トランペットを吹くジョン・コルトレーン!」と言いたくなるような13分以上の熱い演奏が繰り広げられています。

 

曲が始まると、ところどころドラム音は聴こえるものの、ほぼ無伴奏の状態でハンニバルが約2分20秒に及ぶカデンツァを奏でています。

 

そこから”My Favorite Things”の「あのテーマ」が始まりバンドが入って、演奏が盛り上がります。

 

本来こういった『スピリチュアル・ジャズ』をリードする楽器は、コルトレーンと同じような温かい音色のサックスが多いのですが、あえてハンニバルはトランペットの硬質なサウンドで刺すように演奏します!

 

コルトレーンのバージョンと同じく、トランペットがテーマを吹き終えると、まずはピアノがソロを弾き始めます。

 

まるでマッコイ・タイナーになったかのような、コロコロと流れるソロをマイケル・コクレーンが弾き始めます。

 

かなり長いピアノ・ソロの後に、ハンニバルが少々アヴァンギャルドな音色を混ぜつつソロを吹きます。

 

そしてドラムの重厚なソロの後、再び「あのテーマ」に戻って静かに曲は終焉を迎えます。

 

この1曲だけでも本作を聴く価値は十分にあります!

 

2曲目”Grandma Suzie”は、6/8拍子のリズムで演奏されるハンニバル作のオリジナル・ブルース・ナンバーです。

 

ここでもマッコイ・タイナー風のコクレイーンのピアノが大活躍します!

 

主役のハンニバルが登場するのは2分50秒を超えてからです。

 

しかしここからが本番です!

 

ハンニバルのハイ・トーン・ソロに合わせて、バックではディーダー・マレイの弾くチェロが「ギコギコ♪ギコギコ♪ギーッギーッ♪」と不気味なアンサンブルを構築していきます。

 

「なぜハンニバルがフレディ・ハバード並みの評価を受けれなかったのか?」と疑問に感じる程、素晴らしいトランペット・ソロを聴くことが出来ます♪

 

3曲目”Episode Zero”は、先ほどのチェロ奏者ディードレ・マレイが書いた曲です。

 

イントロからテンポ・ルバートでチェロのフリーキーな演奏が始まります。

 

「あれ?今聴いてるのてヴェルヴェット・アンダーグラウンドだっけ?それともレッド・クレイオラだったかな?いや、きっとサーティーンス・フロア・エレヴェイターズだ!」と言いたくなるような(?)サイケデリックなサウンドです。

 

なんと主役のハンニバルは、バックで小さい音でトランペットのオブリガードを吹くのみで、ソロ吹いていません。

 

ディードレ・マレイのチェロを聴くための曲です。

 

個人的には…ちょっとここは飛ばします。

 

僕が聴きたいのは、あくまでもハンニバルの熱いトランペット演奏なので!

 

4曲目”The Light”は、後に同名タイトルのアルバムも制作されるハンニバルの代表曲のひとつです。

 

この曲ではイントロからハンニバルのオープン・トランペットの奔放なサウンドが聴けるので「安心」します。

 

もうチェロの「ギコギコ♪」は聴かなくっていいんだな~と。

 

イントロからおよそ7分55秒までハンニバルの熱いトランペット・ソロが続きます。

 

その後、ピアノのソロがあり11分39秒辺りから「ズゴォォォォォォ~~~」と謎の不快なノイズが入ります。

 

このノイズが何に起因するのかは謎のようですが、ここだけちょっと気持ち悪いです。

 

そしてハンニバルのトランペットが入ってきて、テーマに戻り14分に及ぶ長尺曲が幕を閉じます。

 

これこそまさにハンニバルのアドリヴ演奏を聴くためだけにあるような良曲です♪

 

 

Hannibal Marvin Peterson – 『The Light』

01.To Find The Path(旅路の果て)
02.To Search The Inner World(イナー・ワールドを探して)
03.From Blindness Traveling(潜行)
04.For Strength And Wisdom Enough(炎の凱旋)
05.The Light(光あれ)

 

全5曲に言いえて妙な邦題が付けられたのは、この作品が日本のレーベルから発売されたからなんでしょか?

 

よくはわかりませんが、1曲目”To Find The Path”は、アルバムの幕開けに相応しいような「始まり」を感じさせる楽曲です。

 

この1曲目をコンセプト・アルバムのイントロの様にして、2曲目”To Search The Inner World”に移ります。

 

一気にアフロ・ジャズ風のグルーヴに変わり、そこにマーセラ・アレンという女性ボーカリストの歌が乗ります。

 

歌が終わると、ピアノ・ソロとチェロのソロがあり、7分36秒を超えてやっとハンニバルのトランペットが登場します。

 

高らかに自らの意思を宣言するかのような力強いハイ・トーンのトランペット・ソロが聴きどころです♪

 

まるでコルトレーンの「クル・セ・ママ」を彷彿させるこの曲が終わると、3曲目”From Blindness Traveling”に移ります。

 

様々なパーカッションの音色で始まり、1分6秒からハンニバルのトランペットが登場します。

 

先ほどの強いビートを持つ楽曲とは打って変わって、厳かで静謐な雰囲気の楽曲です。

 

そして4曲目”For Strength And Wisdom Enough”は、ハンニバルのカデンツァによるイントロから始まって、次第にバンドが入って盛り上がる楽曲です。

 

コルトレーンのようなハンニバルのトランペット・ソロに、マッコイ・タイナー風のコクレーンのピアノ・ソロが続きます。

 

6分55秒辺りから、まるで後期コルトレーン・バンドの様にピアノの伴奏が抜けて、トランペットvsリズム隊のガチンコ対決になるトランペット・ソロの部分が聴きどころです♪

 

5曲目の”The Light”は、『Live In Lausanne』でも演奏されていた楽曲です。

 

なぜかライヴ・バージョンよりもアヴァンギャルドな演奏が展開されています!

 

まるでファラオ・サンダースのようなフラジオ奏法のダーティーなトランペットの音色が、苦痛でもだえ苦しんでいるかのようです。

 

本作のバージョンでは、マーセラ・アレンの歌も入っています。

 

個人的には、ライヴ・バージョンの方が良かったです。

 

ちなみに本作収録曲は、全てハンニバルのペンによるオリジナル曲です。

 

 

Hannibal Marvin Peterson – 『Tribute』

01.Een Steven
02.Dahomey Dance
03.ST.Louis Bues
04.Wll You Needn’t
05.Misty

 

「ベイスメント」での3作目に当たる本作『Tribute』は、1979年1月16日に東京で録音されています。

 

先ほどの『The Light』とは違って、ベーシストのスティーヴ・ニールに捧げた1曲目”Een Steven”のみハンニバルのオリジナル曲です。

 

残りの楽曲は全てカヴァー曲です。

 

この1曲目の”Een Steven”は、マッコイ・タイナー風のピアノ弾きマイケル・コクレーンに「ギコギコ♪」チェロ奏者のディードレ・マレイなどお馴染みのメンバーが登場します。

 

トランペット→ピアノ→チェロの順番でソロ回しもあります。

 

続く2曲目”Dahomey Dance”は、ジョン・コルトレーンの楽曲です。

 

コルトレーンの1961年のスパニッシュ作品『Olé Coltrane』に収録されていました。

 

ハンニバルのトランペットが最初から勢いよく登場します!

 

52秒を過ぎるとピアノやチェロが入って壮大な展開へと発展していきます。

 

13分と長い演奏時間ですが、チェロとトランペットのかなり長めのフリーキーなソロが聴きどころです!

 

3曲目”ST.Louis Bues”は、W.C.ハンディが1903年に歴史上初めてブルース進行の楽曲を録音したという記念碑的な楽曲のカヴァーです。

 

このブルース曲をまるでサッチモ(ルイ・アームストロング)になった気分でハンニバルがイナタく猥雑なトーンで吹き始めます。

 

先ほどまでの壮大な『スピリチュアル・ジャズ』は何だったのか?と言いたくなるぐらいにダウンホームな雰囲気に包まれた演奏です。

 

どうやらこの楽曲は、日本公演で演奏した際に好評だったために本作に収録されたようです。

 

4曲目”Wll You Needn’t”は、ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクの人気曲です。

 

多くのジャズマンがカヴァーしたこの楽曲を、ハンニバルも同じように演奏しています。

 

最初の1分は、ドラムのソロのみで、そこからやっとトランペット演奏による「あのテーマ」が始まります。

 

その後、ピアノ→トランペットの順にソロ回しが続き、再び「あのテーマ」に戻って終わります。

 

アルバム最後の収録曲である5曲目”Misty”は、ジャズ・ピアニストのエロール・ガーナーの曲です。

 

こちらも多くのジャズマンが取り上げたスタンダード曲ですね。

 

先ほどの”Wll You Needn’t”は「いつもの感じ」でカヴァーしていましたが、こちらの”Misty”の方は全く別の曲のようなアレンジで取り上げています。

 

トランペット・ソロに至っては、かなりアヴァンギャルドに吹いています!

 

しかしこういった熱い演奏こそがハンニバルの特長であり、『スピリチュアル・ジャズ』というジャンルの本来のあるべき姿ですからね♪

 

むしろダウンホーム過ぎる”ST.Louis Bues”は、『スピリチュアル・ジャズ』らしくないのでアルバムに収録すべきではなかったんじゃないかな⁉…と。

 

 

 

以上、【ハンニバル・マーヴィン・ピーターソンがベイステイトに残したスピリチュアル・ジャズ作品3選‼】でした。

 

以前ご紹介していたビリー・ハーパーと同じく、聴く者の魂を揺さぶるような熱い『スピリチュアル・ジャズ』系の演奏をするトランペット奏者のハンニバル・マーヴィン・ピーターソンのご紹介でした。

 

また今後も『スピリチュアル・ジャズ』系をご紹介していきたいと思いますので、ぜひまたこちらのブログを読みに来てください♪

 

 

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