
2021/03/12
グラント・グリーンも参加したジョージ・ブレイスのおすすめのソウル・ジャズ作品まとめ
複数のホーンを同時に扱う異質のジャズマン、ジョージ・ブレイスのおすすめ作品をご紹介します。
グラント・グリーンも参加したソウル・ジャズの名作です。
以前、ビッグ・ジョン・パットンのブルーノート作品をまとめてご紹介していたブログ記事でも、登場したジョージ・ブレイスを今回はご紹介したいと思います。
グラント・グリーンも参加したビッグ・ジョン・パットンのブルーノート作品おすすめ盤まとめ
ビッグ・ジョン・パットンの記事では、1963年7月11日に録音されておきながら1986年になるまで正式にリリースされなかった曰く付きのアルバム『Blue John』にてジョージ・ブレイスが参加していたのをご紹介していました。
その際に僕は、「どうしても好きになれません…。」と書いていたのですが、その点に関しては変わりはありません。
しかしそれでもジョージ・ブレイスのリーダー作をいくつか聞いています。
それはなぜなのか?…と言うことなのですが、理由は簡単!
僕の大好きなジャズ・ギタリストのグラント・グリーンが参加しているからです!
ちなみに上記でご紹介していた『Blue John』というアルバムでもグラント・グリーンが参加しています。
この『Blue John』でのジョージ・ブレイスの演奏を聞いたブルーノート・レコードの創始者であるアルフレッド・ライオンがブレイスを気に入り、アルバムの制作を持ちかけたのがブレイスがリーダー作を制作したきっかけでした。
ジョージ・ブレイスは、1939年6月27日にニューヨークに生まれ、音楽家族で育っています。
もとはクラリネットやアルト・サックスなどを吹いていたようですが、1961年に複数のホーンを同時に吹く奇抜な演奏スタイルのローランド・カークを見て、影響を受けたようです。
その後は、ジョージ・ブレイス自身も、ソプラノ・サックスと管の曲がりのないアルト・サックスの一種ストリッチを同時に咥え、ユニゾンで音を出して演奏するスタイルを確立しています。
それのみならず、2本のソプラノ・サックスを合体させて”ブレイス・フォン”なるものまで生み出したというから、その異質さは飛び抜けているといえます。
ただし、これは好きな人には響くのでしょうけれども、僕のようにいつまでも苦手なままな人も少なくはないんじゃないかな?と感じます。
以前のブログ記事でも書きましたが、僕はブレイスの吹く不安定な音色が苦手です。
しかしそれでも今回このブログ記事でご紹介しようと思ったのは、グラント・グリーンが参加していると言うことと…もう1つ!
ミュージシャンに取って最も重要な要素でもある作曲能力に注目しているからです。
どうしてもジョージ・ブレイスの演奏スタイルこそ苦手なままではあるのですが、『Blue John』の冒頭2曲で聴ける”Hot Sauceと”Bermuda Clay House”のように、ブレイスは凄く良い曲を書くんですよ。
今回ご紹介するブレイスのリーダー作に於いても、ブレイス自身が書いた隠れた名曲が多数含まれています。
決してジャズの歴史の最前線に出ることはないけれども、僕のようなマニアックなソウル・ジャス好きの琴線に触れるような隠れた名曲をいくつか書いています。
そういったわけで、僕はブレイスのリーダー作を侮れない存在だと感じています。
演奏スタイルは好き嫌いが分かれる特殊なもので、知名度こそ低いけれども…しかしソウル・ジャズの名作をいくつか残しているジョージ・ブレイスのリーダー作を、今回このブログを通して多くの音楽好きの人たちに知ってもらえれば…と思います。
それでは順番にご紹介していきたいと思います。
George Braith – 『Two Souls In One』
ビッグ・ジョン・パットンの『Blue John』の録音に参加したことでブルーノート・レコードのアルフレッド・ライオンに気に入られたジョージ・ブレイスは、同年の1963年9月4日にブルーノート・レコードにて初リーダー作『Two Souls In One』を制作しました。
メンバーには、ジョン・パットンのセッションからグラント・グリーンを引き連れて、オルガンにはビリー・ガードナー、ドラムにはドナルド・ベイリーという布陣で録音を行っています。
ソウル・ジャズを制作するには最適なバックのメンバーを得て、ブレイス節が炸裂します!
あれ?
炸裂するはずですよね?
いきなり1曲目の冒頭から間の抜けた調子外れの音色が聞こえてきます。
古いカリプソ・ナンバー”Mary Ann”の初っぱなからブレイスの1人ユニゾン演奏が始まります。
ほんと、「何?この奇妙な音は?」って感じですよね。
所々で登場するグラント・グリーンのキレの良いギターリフがないと、なかなかにキツい調子外れっぷりです。
アルバム・タイトルにもある『Two Souls In One』=「ひとつになったふたつのソウル」とは、まさにブレイスの1人2役ユニゾン演奏のことなのでしょう。
2曲目”Home Street”は、ブレイスの自作曲なのですが、ゆる~いリズムが心地良いソウル・ジャズです。
曲調は悪くないんですよね。
問題は、ブレイスの調子の外れた奇妙なユニゾン演奏です。
これこそがブレイスの最大の個性でもあるのですが、しかし1本のサックスでストレートに演奏して欲しかったな…と思ってしまいます。
3曲目”Poinciana”は、マイルス・デイヴィスも憧れたジャズ・ピアニストのアーマッド・ジャマルが演奏したスタンダード曲です。
先ほどまで奇妙なユニゾン演奏を続けていたブレイスが、ここでストレートにテナー・サックス1本を吹いていたりします。
実は面白いことに、テナー・サックスの可能性を限界まで引き出したジョン・コルトレーンがジョージ・ブレイスと親交があったということです。
60年代中頃にロサンゼルスに移り住んだブレイスの演奏を、たまたまサンフランシスコのジャズ・クラブで見かけたコルトレーンは、ブレイスにニューヨークに戻るようにアドバイスをしました。
その後、ブレイスはニューヨークに戻り、コルトレーンが亡くなるまで2人の交流は続いたといいます。
コルトレーンが自宅に招き、2人でセッションまでやっていたのだとか。
この曲では、そんなブレイスのストレートなテナー・サックス演奏も聴くことができます。
4曲目”Mary Had A Little Lamb”は、童謡の「メリーさんの羊」のことです。
あの誰でも知っている「メリーさんの羊」の歌メロを、ブレイスが相変わらずの調子外れなユニゾン演奏で吹いています。
しかしソロが始まると、序盤こそテナー・サックス1本に持ち替えて、意外にもストレートな演奏をしています。
まぁ途中からあの奇妙なユニゾン演奏に変わるのですが…。
曲の方も、「メリーさんの羊」は単なるきっかけなだけで、もはや何の曲だったのか忘れてしまうような激しいジャズに生まれ変わっています。
そうなってくると、こういったアップ・テンポの曲で燃え上がるのがグラント・グリーンです!
いつも以上に、執拗な繰り返しのシーケンス・フレーズを連発して熱いギター・ソロを弾きまくっています!
テーマ・メロディーこそ「メリーさんの羊」ではありますが、本作の一番の聴き所は、この曲の熱いアドリヴ演奏にあります。
そしてアルバム最後の5曲目”Braith-A-Way”は、13分以上にも及ぶブレイスのオリジナル曲です。
本作収録曲は、どれも6分以上を超える長尺曲ばかりになります。
その中でも最後のこの13分にも及ぶ長い演奏は、初のリーダー作で最高のバックのメンバーを迎えられたので、最後にみんなでジャム・セッションをやってみた!と感じられなくもないです。
それに答えるかのように、グラント・グリーンとビリー・ガードナーの2人のアドリヴ・ソロ演奏も気合いが入っています!
どの曲もブレイスの調子外れのテーマ演奏が間が抜けたように聞こえてしまうのですが、しかし参加メンバーたちのソロ演奏も素晴らしく、アルバムとしては悪くない出来です。
僕も曲自体は好きです。
ただ、どうしてもブレイスのユニゾン演奏が苦手なだけです…。
George Braith – 『Soul Stream』
前作『Two Souls In One』の録音から3ヶ月後の1963年12月16日に録音された2作目のリーダー作『Soul Stream』です。
収録メンバーは、ドラムのドナルド・ベイリーがヒュー・ウォーカーに変わった以外は同じです。
アルバム・タイトル通りにソウル・ジャズ系の楽曲を聴くことが出来る隠れた名作です。
ガーシュイン作の1曲目”The Man I Love”からアルバムは始まります。
相変わらずブレイスのテーマ演奏は、奇妙なユニゾン演奏で調子こそ外れてはいますが、オルガン奏者のビリー・ガードナーが良い味を出しています。
グラント・グリーンは珍しくもギターソロやテーマを弾かず、コード弾きによるバッキングのみに徹しています。
2曲目”Outside Around The Corner”は、ブレイス作のモード・ジャズ風の楽曲で、この曲ではグラント・グリーンのキレのあるギターソロを聴くことが出来ます。
先にソロを吹くブレイスがゆったりとしていたのに対して、ジャズ的な素早いスウィープ奏法も交えたキレのあるギターソロをグラント・グリーンが弾いています。
3曲目”Soul Stream”もブレイスのオリジナル曲で、曲名通りにソウル・ミュージックが流れていくかのようなバラード演奏です。
いつになく静謐な雰囲気の曲調で、ブレイスはテナー・サックス1本に絞り、1音1音を噛みしめるかのように丁寧に演奏しています。
これがなかなか悪くないんですよね!
こうなってくると、いつものユニゾン演奏よりもこっちのストレートな演奏の方が良くない?と思うのですが、それだとブレイスの個性は消え去りそうではありますが…。
4曲目”Boop Bop Bing Bash”は、本作にも参加しているオルガン奏者のビリー・ガードナーが書いたハード・バップなジャズ曲です。
ブレイスのテナー・サックスとユニゾンでグラント・グリーンがギターを弾いています。
1人2役でユニゾンを吹くのではなく、サックス+ギターといった、ブルーノート・レコード系のハード・バップのいくつかの作品でも聴くことが出来る王道の演奏スタイルです。
こういった王道のハード・バップ曲になると、グラント・グリーンは手癖のフレーズを用いて、ギターソロを弾くことが多いんです。
この曲でも、他の曲でも聴くことが出来る「いつものフレーズ」ばかり弾いています。
この辺は、ブルースで言うところのB.B.キングに近いものがあります。
B.B.キングも、ニュアンスを醸し出す天才プレイヤーではありますが、実はフレージングはキー違いで同じフレーズを弾いているだけだったりもしますからね…。
5曲目”Billy Told”は、「ウィリアム・テル序曲」をパロディー・アレンジした曲です。
前作の”Mary Had A Little Lamb”同様に、なんともマヌケなテーマ演奏ではありますが、ソロ演奏が始まると、もはや何の曲だったか忘れてしまいそうになるジャズ演奏に変わります。
あれだけマヌケなテーマ・メロディーだったのに、グラント・グリーンのギターソロが始まると、オシャレなジャズ曲になるっていう不思議さです。
アルバム最後の”Jo Anne”もブレイスのオリジナル曲です。
これも曲調は良いのですが…ブレイスの独特なユニゾン演奏で摩訶不思議なテーマ・メロディーに聞こえます。
多分、ストレートに演奏したら、かっこいいジャズ曲だとは思うのですがね。
演奏はともかく、普通に良い曲を書けるのがブレイスの強みのように感じます。
シンプルでかっこいいモノトーンのアルバム・ジャケットのデザイン同様に、落ち着いたソウル・ジャズを聴くことが出来る隠れた名作です。
George Braith – 『Laughing Soul』
ここで一旦、ブルーノート・レコードから離れて…プレスティッジ・レコードからリリースされた『Laughing Soul』のご紹介です。
アルバム・ジャケットで2本のホーンをズボンに入れたマヌケなジョージ・ブレイスの写真が目を引きます。
この写真のイメージ通り(?)に、間の抜けたテーマ・メロディーを持つ1曲目”Hot Sauce”が始まります。
しかしこれがなかなかの良いソウル・ジャズ曲なんですよ!
本作にはオルガンにビッグ・ジョン・パットン、ギターにグラント・グリーン、ドラムにベン・ディクソンという、ルー・ドナルドソン・バンドの面子が顔を揃えています。
まさにソウル・ジャズを得意とする最強の布陣にバックを支えられて、ジョージ・ブレイスが伸び伸びと演奏をしている好盤です。
トム・マッキントッシュの曲”With Malice Toward None”と、ベン・ディクソンのオリジナル曲”Chunky Cheeks”と”Cantelope Woman”以外は、全てブレイスのオリジナル曲になります。
“Cantelope Woman”は、後にグラント・グリーンの名盤『Visions』でも再演されていた楽曲です。
アルバム・ジャケットのデザインこそふざけた感じで、お世辞にもオシャレではないのですが…しかしジャケットの酷さにダマされてはいけません!
実はこのアルバム、捨て曲が一切ないソウル・ジャズの名作なんですよ!
ソウル・ジャズ好き必聴のアルバムです!
George Braith – 『Extension』
1964年3月27日に録音されたブレイスのブルーノート・レコードに於ける最終作となった『Extension』も、かっこいい曲が収録された隠れた名作です。
引き続きグラント・グリーンとビリー・ガードナーが参加しています。
ドラムがクラレンス・ジョンストンに交代しており、より細やかなビートを叩いています。
コール・ポーター作の6曲目”Ev’ry Time We Say Goodbye”以外は、全てジョージ・ブレイスのオリジナル曲になります。
これが良い曲ばかりなのが困っちゃいます!
ただ本作ではいつもの奇妙な1人2役ユニゾン演奏は鳴りを潜め、ストレートな演奏を中心にしてくれているのが多少聴きやすい部分でもあります。
ポップなソウル・ジャズ中心だった『Laughing Soul』から一転、”Nut City”や”Out Here”に”Extension”といった楽曲は、テーマ・メロディーが渋くかっこいいハード・バップ曲です。
“Mary Had A Little Lamb”や”Billy Told”で、間の抜けた調子外れのテーマを吹いていたブレイスはどこへやら…こんなかっこいい演奏も出来るんだ!と良い意味で期待を裏切られます。
コール・ポーター作の”Ev’ry Time We Say Goodbye”が蛇足に感じられるぐらいに、ブレイスの自作曲の出来が良いです。
この人、変な演奏スタイルを売りにはしていますが、実はかっこいい曲を書く才能を持っているんだなった僕は見直したアルバムです。
以上、【グラント・グリーンも参加したジョージ・ブレイスのおすすめのソウル・ジャズ作品まとめ】でした。
1人2役の二丁拳銃スタイルの演奏こそ好き嫌いが分かれるとは思いますが、オリジナル曲のクォリティーは高いと言った異色のミュージシャン、ジョージ・ブレイスをぜひ聴いてみて下さい♪
ソウル・ジャズ好きの方は、まずは『Laughing Soul』から!
ハード・バップ系のジャズがお好きな方は、『Extension』から!
奇想天外なジャズを聴きたい方は、『Two Souls In One』から聴いてみて下さい。
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