2019/09/15
テナー・サックスのボスがジャズ・ファンクに挑戦!ジーン・アモンズの『Brasswind』を聴こう♪
テナー・サックスのボスことジーン・アモンズが1974年にリリースしたジャズ・ファンク作品『Brasswind』をご紹介します。
ソウル・ジャズ系の名手ジーン・アモンズがジャズ・ファンクに挑戦!
今回は、前回ご紹介していたアーネット・コブと同じように豪快なテナー・サックス奏者ジーン・アモンズの作品をご紹介します。
テキサスが生んだワイルド・マン!アーネット・コブの『Chittlin’ Shout』を聴こう♪
そのアーネット・コブの時と同じように、敢えて僕の好きな70年代ジャズ・ファンク期の作品をご紹介したいと思います。
ミズーリ州出身のジーン・アモンズ
前回ご紹介していたコブはテキサス出身のテナー・サックス奏者でしたが、こちらのジーン・アモンズはミズーリ州カンザスシティ出身のミュージシャンです。
アラスカ州を除くと全米No.1の広さを誇ったのがテキサスだったのに対して、こちらのミズーリ州は開拓者達の一大拠点となった「西部の母」と呼ばれる州です。
ミズーリ州を代表する2大都市がありまして、1つは東端のセントルイス、もう1つが裂い西端のカンザスシティです。
この2大都市の周辺に州の人口の60%が暮らしていると言われています。
開拓時代には、多くの人々がセントルイスから西部へと旅立ったことからこの州が「西部の母」と呼ばれるようになりました。
ちなみに1904年にアメリカ初の万国博覧会が開催された際に世界で初めてコーンの上にアイスを乗せた商品は売り出されました。
(※ミズーリ州には「全米とうもろこし生産協会」の本部があります。)
さてセントルイスと対になるミズーリ州のカンザスシティは、カンザス川とミズーリ川の合流地点にあり、対岸にあるカンザス州の同名都市カンザスシティとは双子都市を形成しています。
そのミズーリ州カンザスシティにて1925年4月14日にユージン・アモンズは生まれています。
「ユージン(Eugene)」のニックネームが「ジーン(Gene)」であるためジーン・アモンズと呼ばれています。
またジーン・アモンズには「テナー・サックス界のボス」や「ジャグ(Jug)」といった異名もあります。
「テナー・サックス界のボス」は、読んで字の如くそのままテナー・サックス奏者として素晴らしい演奏家だからです。
もうひとつの「ジャグ」というのは、スウィング・ジャズ全盛期の1944年に当時の人気ポップシンガーであったビリー・エクスタインの楽団に入団した際に付けられたあだ名です。
ビリー・エクスタインが楽団のメンバー用に麦わら帽子(straw hats:ストローハットのこと)を買い与えたところ、頭の大きかったジーン・アモンズはサイズが合わず、1人だけ帽子が小さく見えました。
その姿がアーチー・コミック社の「ジャグヘッド・ジョーンズ(Jughead Jones)」という小さめの王冠を斜めに被っている漫画のキャラクターにそっくりだったことに由来しています。
ちなみに”jughead”には、「飲んだくれ、アルコール依存症の人」という意味もあります。
そのためなのかジーン・アモンズの作品の多くに”jug”というタイトルが付けられていたりもします。
さて、今回はそんなジーン・アモンズが1974年にリリースしたジャズ・ファンク作品『Brasswind』をご紹介します。
Gene Ammons – 『Brasswind』
01.Cántaro
02.Brasswind
03.Solitario
04.Cariba
05.Once I Loved
06.’Round Midnight
07.Rozzie
アルバムの内容
本作の制作は、1973年10月30日と1974年2月13日の2回の録音で行われています。
エレピを弾くジョージ・デュークやギターを弾くマイケル・ハウエル等、両日共に録音に参加しているメンバーもいますが、ベースとドラムのリズム隊は録音日によって違います。
また2曲目”Brasswind”と3曲目”Solitario”にはプリンス・ラシャによるフルートの音も1974年4月に追加録音されています
アレンジャーにロサンゼルス出身のデヴィッド・アクセルロッドを迎えて制作されています。
黒人居住区で生まれ育ったデヴィッド・アクセルロッドではありますが、彼自身は白人のため知的でクールなビートの作品を多く残しています。
そのため本作のどの曲もドス黒くってイナタいジャズ・ファンクというよりも、フュージョン/クロスオーバー期の軽めのリズムが印象的です。
といっても、どの楽曲もクールで完成度の高い仕上がりですので中身の音楽性までが軽いわけではありません。
そんなデヴィッド・アクセルロッドが書いた1曲目”Cántaro”からアルバムは始まります。
トランペット、トロンボーン、アルト・サックスの華やかなブラス・アンサンブルのイントロから始まり、バックではギターやベースにドラムがミドルテンポのファンキーなリズムを奏でています。
一旦ブレイクして、主役のジーン・アモンズのテナー・サックスが曲のテーマを吹き始めます。
軽めのリズムに乗って豪快なテナーがゆったりと入ります。
マイケル・ハウエルの弾くスウィープ奏法を使った短めのギターフレージングを挟みつつ、楽曲は終始ジーン・アモンズ主導で進められていきます。
キレの良いリズムギターを弾いているのはL.A.のスタジオミュージシャンのドン・ピークです。
ビーチ・ボーイズやサイモン&ガーファンクルにカーペンターズ、更にはフランク・シナトラまでも数多くの録音に参加した知られざる名手です。
2曲目のタイトルトラックとなる”Brasswind”も1曲目と同じ路線の楽曲ですが、こちらはジーン・アモンズが書いた曲になります。
おそらく大まかなテーマメロディーやコード進行をジーン・アモンズが書いて、デヴィッド・アクセルロッドがバックのリズムや他の楽器陣のアンサンブルなどのアレンジ部分を手伝ったと思われます。
ジーン・アモンズのテナーソロの次にジョージ・デュークのエレピソロ、マイケル・ハウエルのギターソロも聴くことが出来ます。
マイケル・ハウエルのギターは「コリコリ」とした独特の音色も印象的なのですが、1回のピッキングで素早く3~4音を鳴らすスウィープ奏法が一番の特徴です。
そのギターソロの後に追加録音されたプリンス・ラシャのフルートの音も聴こえてきます。
ボサノバ風の3曲目”Solitario”は、再びデヴィッド・アクセルロッドによる楽曲です。
ここではマイケル・ハウエルがアコースティック・ギターに持ち替えて爽やかにボサノバを弾いています。
こういった爽やかなバックを背にソロを吹くには、ちょっとジーン・アモンズでは豪快過ぎる……気もしますね。
もっとスタン・ゲッツのようなクールなトーンのテナー・サックスの音の方が合っているでしょう。
テナーの後にジョージ・デュークによるエレピソロが入るのですが、そこに変な間が合ったためなのか?ここでもフルートの音が重ねられています。
曲の最後にはマイケル・ハウエルがアコースティック・ギターでもソロを弾いています。
4曲目”Cariba”は、ウェス・モンゴメリー作の名盤『Full House』に収録されていた楽曲です。
ここでもボサノバ風に演奏しています。
ただどうしてもジーン・アモンズには、ボサノバよりもっとイナタいソウル・アレンジの方が良かったのでは?とも感じます。
マイケル・ハウエルが再びエレキギターに持ち替えてソロも弾いています。
5曲目”Once I Loved”は、これまたアントニオ・カルロス・ジョビン作のボサノバ曲のカヴァーです。
こちらでもマイケル・ハウエルがアコースティック・ギターでバッキングを弾いていますが、ギターソロはなしです。
ジーン・アモンズのテナーとジョージ・デュークのエレピがソロを弾いています。
6曲目”‘Round Midnight”は、言わずと知れたセロニアス・モンクの名曲のカヴァーです。
変わったフルートによるイントロからジーン・アモンズの吹くテーマが始まります。
マイケル・ハウエルはアコースティック・ギターに持ち替え、最初の方はリズム隊も極力小音でテナーの音を引き立てるように演奏しています。
ジーン・アモンズのソロの調子に合わせてホーン隊やドラムのバック陣が少し盛り上がりを見せます。
最後の7曲目”Rozzie”は、ジーン・アモンズ作の軽快なジャズ・ファンク曲です。
といっても、これまでのようなイナタいオルガンを主体としたジャズ・ファンク系ではなく、ジョージ・デュークのエレピ(クラヴィネット)が主体のフュージョン系のジャズ・ファンク曲になります。
まるでスティーヴィー・ワンダーの”Superstition”かのようなファンキーにワウワウなるクラヴィネットが印象的な曲です。
ジーン・アモンズのテナーソロの後には、ジョージ・デュークのファンキーすぎるクラヴィネットソロもあります。
キャロル・ケイによるちょっとしたベースソロも挟んでジーン・アモンズの吹くテーマに戻って曲はフェイドアウトして終わります。
全7曲、それぞれが作者の違う楽曲が収録されていますが、デヴィッド・アクセルロッドのアレンジの下、どんなサウンドのアルバムにしたいのか?といったコンセプトがはっきりとわかる統一感のある作品に仕上がっています。

以上、【テナー・サックスのボスがジャズ・ファンクに挑戦!ジーン・アモンズの『Brasswind』を聴こう♪】でした。
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