2024/09/10
エディー・ロバーツが2011年にリリースしたハードバップ風ジャズ・ファンク作品『Burn!』を聴こう♪
ザ・ニュー・マスターサウンズのリーダー、エディー・ロバーツのソロ名義作品のご紹介!
エディー・ロバーツが”Eddie Roberts & The Fire Eaters”名義でリリースしたアルバム『Burn!』
今回は、ザ・ニュー・マスターサウンズ(以降:ニューマスター)のギタリストにしてリーダーのエディー・ロバーツが2011年にソロ名義の4作目として(ライブ盤を含むと通算5作目)リリースしたアルバム『Burn!』についてご紹介します。
Eddie Roberts & The Fire Eaters – 『Burn!』
01.Gutterball
02.Lope Song
03.Lonely For You Baby
04.Workout
05.Eazy Rider
06.Cigar Eddie
07.The Skunk
08.Booga Lou
09.Take Some Time For Yourself
10.Latona
11.Biskit
12.I Believe In Miracles
– Japanese Bonus Track –
13.Eazy Rider (Chip Wickham Remix)
14.The Skunk (Chip Wickham Remix)
Personnel:
Eddie Roberts – Guitar, Tambourine
Chip Wickham – Baritone Saxophone, Flute, Tenor Saxophone
Taz Modi – Organ
Santi “Sweetfingers” Martin – Bass
Javi “Skunk” Gomez – Drums
Released : 2011
エディー・ロバーツが自身のルーツに回帰した?ハードバップ風ジャズ・ファンク作品
本作『Burn!』が制作されることとなった経緯として、まずエディー・ロバーツとサックス&フルート奏者チップ・ウィッカムとの共演から始まっています。
エディー・ロバーツは英国北部の都市リーズ出身なのですが、英国ブライトン出身のウィッカムがリーズに移り住んだことから交友関係にありました。
本作リリース当時でも既に15年来の親友だったようですが、ウィッカムはこの当時にスペインのマドリードに移住しています。
本作制作の3年ほど前にニューマスターがマドリードでライブを行った際に旧友のウィッカムがゲストで参加しており、その際にエディーにいかにマドリードの音楽シーンが素晴らしいかを教えています。
その際に「ザ・ファイア・イーターズというブーガルー・バンドが君と共演したがっているよ。」とウィッカムに紹介されたエディーは、さっそくザ・ファイア・イーターズをバックに従えたソロ名義「エディー・ロバーツ&ザ・ファイア・イーターズ」としてマドリードやグラナダで7日間のライブを敢行しています。
ちなみにザ・ファイア・イーターズとは、ジャズ・ファンクやニューマスター好きの方ならお気づきかと思いますが…サックス奏者のラスティ・ブライアントが1971年にリリースしたアルバム『Fire Eater』から付けられています。
この曲はジャズ・ファンク系の定番曲で、ニューマスターもよくカヴァーしており、初の公式ライブ盤『Live at La Cova』にもアルバム最後に収録されています。
またエディーに大きな影響を与えたジャズ・ファンク系ギタリストのメルヴィン・スパークスも得意とした曲で、2017年にリリースされたライブ盤『Live at Nectar’s』で取り上げていました。
さて、話しを戻しますと…エディー率いる5人のメンバーは、スペインでの好評だったライブの勢いのまま本作に収録されることになる4曲を録音して、更にこのバンドでの手応えを感じています。
そこからアルバムを制作しよう!となり、本作が完成しました。
エディーとウィッカム以外のメンバーは、オルガンのタズ・モディにべースのサンディ・”スウィートフィンガーズ”・マーティン、そしてドラムのジャヴィ・”スカンク”・ゴメスという布陣です。
このクインテット編成にて、本格的なジャズ・アルバムの制作に挑みました。
この前年にリリースされたリアーナ・ケニーをフィーチャーしたアシッドジャズ風ボーカル・アルバムの『Move』とは打って変わって本作はハードバップ系のジャズを演奏しています。
アルバム・ジャケットのアートワークも、まるで1950年代後半~1960年代半ばまでのブルー・ノート・レコードの作品群のようなデザインが施されています。
葉巻に火を付けるエディーの正面写真を撮ったのは、当時19歳だったエディーの息子ベニーが撮影した写真が使われています。
この当時で19歳だったということは、現在では32歳になっているんですね!
まだまだ若く見えるエディー・ロバーツですが、既に孫がいる年なのでしょうか!?
ちなみにエディーはヘヴィ・スモーカーではなく、1日1本の葉巻を「1日仕事を頑張った」自分へのご褒美として吸っているだけのようです。
それはさておき、本作にはエディー・ロバーツが大きな影響を受けたジャズ・ギタリストのグラント・グリーンがサイドマンとして参加した曲”Workout”や”Latona”といったハードバップ系のジャズ曲のカヴァーが収録されています。
ニューマスターでのファンク色が濃いジャズ・ファンク系のスタイルとはまた違った「正統派ジャズ」系の作風ですが、エディーは若い頃にジャズを学んでいます。
ニューマスター結成前は、地元のジャズ・バンドでギタリストとして活動していたぐらいです。
そもそもザ・ニュー・マスターサウンズというバンド名も、敬愛するジャズ・ギタリストのウェス・モンゴメリーの兄弟が組んでいたバンド「マスターサウンズ」からあやかったものですからね。
このようにエディー・ロバーツにとって「ジャズ」とはルーツのようなもので、本作は原点回帰とでもいうべき作品です。
とはいっても50~60年代風の正統派なハードバップをそのまま演奏するのではなく、現代風のファンク・ビートにアレンジしたあくまでも「ジャズ・ファンク」のアルバムとして仕上がっているのは、エディー・ロバーツの「ジャズ」以外のルーツ「ファンク」の要素が現れていると感じられます。
それではアルバムの中身についても簡単にご紹介します。
アルバムの内容
本作はハードバップ風のアルバムで、中にはエディー・ロバーツが大きな影響を受けたグラント・グリーンが過去に参加した曲のカヴァーも含んでいますが、オリジナル曲も5曲収録されています。
まずはファンキーなベースのイントロから始まる1曲目の”Gutterball”は、ウィッカム作で本人によるバリトンサックスでメインテーマが演奏されています。
エディーもワウギターを使ってユニゾンでテーマを弾いており、最初のソロもギターから始まります。
その後、バリトン・サックスのソロ、オルガンのソロへと続きます。
挨拶代わりのオリジナル曲ですが、バリトン・サックスがメインのオルガン・ジャズは、まるでジョージ・ベンソンの初期のアルバム『It’s Uptown』や『The George Benson Cookbook』におけるロニー・キューバのバリトン・サックスとロニー・スミスのオルガンとの関係性のようです。
過去にエディーは『The George Benson Cookbook』を好きなアルバムの1つに挙げていたので、少なからずの影響は受けているはずです。
続く2曲目”Lope Song”は、米国ペンシルベニア州ピッツバーグ出身のキーボード奏者エディ・ラスが書いた曲のカヴァーです。
オリジナルは、1974年にリリースされたデビュー作の『Fresh Out』に収録されています。
オリジナルのタイトルには”The”が付いていて”The Lope Song”でした。
エディ・ラスのバージョンでは マーヴィン・ゲイの”What’s Going On”参加で有名なサックス/フルート奏者ラリー・ノゼロがメロウなトーンでフルートを吹いていました。
本作ではウィッカムがフルートを吹いており、エディーのギター・ソロにタズのオルガン・ソロと続きます。
3曲目”Lonely For You Baby”は、R&Bシンガーのサム・ディーズが1968年に歌った曲のカヴァーです。
この歌もの曲をウェス・モンゴメリー風のオクターブ奏法を活かしてエディーが歌メロをギターで弾いています。
ハードバップ風のアルバムと先にご紹介してはいましたが、実はここまで3曲は、ジャズ・ファンクやソウル・ジャズ系の曲が並びます。
そういったこともあって、「ハードバップ風ジャズ・ファンク作品」とタイトルに付けています。
あくまでも本作の主体はジャズ・ファンクになります。
ようやく次の曲でハードバップと言える曲が登場します。
4曲目”Workout”は、ブルー・ノート・レコードに数多くの名作を残したサックス奏者のハンク・モブレーが1961年にリリースしたアルバム『Workout』に収録されていたハードバップの名曲です。
このアルバムにはグラント・グリーンがサイドマンとして参加しており、若い頃のエディーもこのアルバムを何度も聴いていたことでしょう。
10分を超えるモブレーのオリジナル・バージョンは、フィリー・ジョー・ジョーンズのド派手なドタバタ・ドラムで始まるスウィング・ビートの曲でしたが、本作では4分45秒に抑えた8ビートのファンク風にアレンジされています。
さすがにオリジナルのフィリー・ジョー・ジョーンズ程のインパクト大なドラミングには劣りますが、ジャヴィ・ゴメスのファンキーなドラムも悪くはないです。
オリジナルではモブレーのサックス・ソロに引き続きグラント・グリーンのギター・ソロ、ウィントン・ケリーのピアノ・ソロと続いていました。
本作ではリーダーのエディーが真っ先にギター・ソロを弾き、次にウィッカムのサックス・ソロ、タズのオルガン・ソロと続きます。
またグラント・グリーンは、自身も管楽器のようなリード奏者と捉えていたため、こういったハードバップ曲ではバッキングを弾かないことがあったのですが、ここでのエディーはサックスやオルガンのソロの間はファンキーなバッキングを弾いています。
本作の目玉曲は何と言ってもこの”Workout”をエディー・ロバーツが現代風にアレンジしてカヴァーしたということでしょう。
まず最初に注目したい曲です。
5曲目”Eazy Rider”は、ウィッカム作のオリジナル曲です。
元はラテン調の曲だったようですが、このバンドでアレンジを練った結果、ジャズ・ファンクに仕上がっています。
6曲目”Cigar Eddie”は、まるで本作のアートワークで葉巻を吸うエディー・ロバーツを表したような曲名ですが、この曲はサックス奏者のハドリー・カリマンのカヴァー曲になります。
ハドリー・カリマンは、レア・グルーヴ系でも語られることがあるメインストリーム・レコードにスピリチュアルな作品をいくつか残しているジャズマンですが、この曲は1971年のアルバム『Hadley Caliman』に収録されていました。
このアルバムもメインストリーム・レコードからリリースされています。
オリジナルでは以前このブログでもご紹介したことがあるジョン・ホワイトがギターを担当していました。
謎のファンク・ロック系ギタリスト ジョン・ホワイト唯一の作品『John White』を聴こう♪
ジョン・ホワイトは、作品数も少なく知名度も低いギタリストですが、この曲のプレイを聴く限りではなかなか個性的で悪くないギタリストです。
本作では、かなりオリジナルに近い形でカヴァーしており、ウィッカムのサックスの上手さが目立ちます。
エディーのギター・ソロもジョン・ホワイトとは全く違ったスタイルですが、流石の腕前です!
ちなみにこの曲のエディーのギターには、トレモロが掛かっているのですが、おそらくコンパクト・エフェクターではなくエディーお気に入りのフェンダー・アンプに内蔵されているヴィブラート(アンプでの表記は”vibrato”なのですが、あれは実はトレモロ効果です。)を使用しているものと考えられます。
こういったオールド・スタイルの曲には、トレモロを使ったギターの音色が合いますからね♪
7曲目”The Skunk”は、本作参加のメンバーで作ったオリジナル曲です。
曲名の「スカンク」とは、本作にドラムで参加しているジャヴィ・ゴメスのニックネームです。
タズの過激なオルガンのイントロから始まり、エディーもリバーブを深めに掛け少し歪ませたワウギターで、ウィッカムのバリトン・サックスとユニゾンで過激なテーマを弾いています。
ソロは最後にギターが弾いているのみですが、いかにも現代風なスペーシーなジャズ・ファンク曲といった感じです。
もしかしたらブルー・ノート・レコード風のアートワークに惹かれて本作を聴いてみた人からしたら…ちょっと違和感を持ってしまう曲かもしれません!?
8曲目”Booga Lou”は、ここに来てようやくエディー・ロバーツ単独のペンによるオリジナル曲です。
エディーのオリジナルとはいっても、まるでソウル・ジャズ期のルー・ドナルドソンや、グラント・グリーンの相棒とでもいうべきオルガン奏者の”ビッグ”・ジョン・パットンが演奏していそうなブーガルー調のオルガン・ジャズ曲です。
ウィッカムのサックスもどことなくルー・ドナルドソンのような呑気なメロディーを奏でており、エディーのギターはまさに「現代版グラント・グリーン」といった様子です。
本作に収録されているオリジナル曲の中では、この曲が一番このバンドの良さが感じられるベスト・トラックになります。
9曲目”Take Some Time For Yourself”もエディーのオリジナル曲です。
こちらの曲はミドル・テンポの渋めのジャズ・ナンバーで、それこそ初期のグラント・グリーンが演奏していそうな曲調です。
そして10曲目には、”ビッグ”・ジョン・パットンの”Latona”のカヴァーが収録されています。
この曲のオリジナルは、1965年にリリースされた 『Let ‘Em Roll』に収録されており、グラント・グリーンがサイドマンで参加していました。
「ジャズで踊ろう」を掲げたアシッドジャズ・ムーヴメントの時代にイギリスのDJはこぞってこの曲をプレイしたと言われる人気曲の1つです。
オリジナルにはボビー・ハッチャーソンの美しいヴィブラフォンが加わっていたのですが、本作ではウィッカムのフルートが加わっています。
エディーのギター・ソロはかなりグラント・グリーンを意識したものです。
この曲と”Workout”が収録されているため、本作のことを「ハードバップ風ジャズ・ファンク作品」と表現しました。
どちらのカヴァーも、エディー・ロバーツのルーツと言えるグラント・グリーン参加曲なのが興味深いところです。
11曲目”Biskit”は、サックス奏者クリフォード・ジョーダンが1974年にスピリチュアル・ジャズを得意とするレーベル「ストラタ・イースト(Strata-East)」からリリースした『Glass Bead Games』に収録されていた曲のカヴァーです。
作曲者は、『Glass Bead Games』に参加しているベース奏者のビル・リーで、自らのウッド・ベースのイントロで始まっていた曲でした。
本作ではオルガンを活かしたブーガルー調にアレンジされており、オリジナルの録音には参加していなかったグラント・グリーンがまるでこの曲で演奏していたかのような錯覚に陥るアレンジが施されています。
上手い具合にオルガン・ジャズに昇華されています。
12曲目の”I Believe In Miracles”は、イタリア系と日系のハーフでもあるアメリカ人歌手マーク・カパーニが作曲したR&Bの名曲です。
マーク・カパーニ自身によるEPは、1974年にリリースされています。
しかしそのオリジナルよりも有名なのは、1973年にジャクソン・シスターズが歌ったバージョンでしょう。
どう考えてもこちらのバージョンの方がクオリティーは高いです。
本作ではウィッカムのフルートが歌メロを吹いています。
ジャクソン・シスターズのオリジナルではゴージャスなホーン・アレンジが施されていましたが、本作ではゆったりとしたオルガン系ソウル・ジャズにアレンジされています。
ギター・ソロやオルガン・ソロはなく、ウィッカムのフルートが最後までリードしています。
ここで本編は終了なのですが、日本盤にはチップ・ウィッカム自らがリミックスを施した”Eazy Rider “と”The Skunk”のクラブ向けのダンサンブルなバージョンがボーナス・トラックとして収録されています。
ニューマスターにも2007年にリリースされたミックス・アルバム『Re::Mixed』というものがありました。
また過去には『Trenta』にも”Giorgios Brother”のリミックス・バージョンが収録されていました。
こういったジャズ・ファンク系の楽曲には。クラブ向けのダンサンブルなリミックスもあっており、ボーナス・トラックとしてではなく、別でリミックス・アルバムをリリースして欲しいと思える良い出来です。
1曲辺り10分のループにして、5曲を収録したオマケCDとして初回限定盤のみに付属する形リリースして欲しいところです。
以上、【エディー・ロバーツが2011年にリリースしたハードバップ風ジャズ・ファンク作品『Burn!』を聴こう♪】でした。
残念ながらこれ以降は「エディー・ロバーツ&ザ・ファイア・イーターズ」名義での活動は行っておらず、アルバムもこれ1枚に終わっています。
しかしエディー・ロバーツのルーツでもあるグラント・グリーン参加曲”Workout”や”Latona”のカヴァーを聴ける貴重なアルバムとしては十分に価値があります。
ザ・ニュー・マスターサウンズのファンはもちろん、エディー・ロバーツのファンに、グラント・グリーンのファン、更にはハードバップ系のジャズやジャズ・ファンクがお好きな方におすすめのアルバムです♪
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