
2019/02/10
デイヴィッド・T.・ウォーカーの最高傑作⁉1973年の名盤『Press On』を聴こう♪
数多くのセッションでギターを弾いた名セッションギタリストのデイヴィッド・T.・ウォーカー
デイヴィッド・T.・ウォーカーの歌も聴ける最高傑作⁉1973年リリースの『Press On』
前回ご紹介していた1971年の名作『David T. Walker』の次のアルバムである1973年のリーダー作5作目『Press On』を今回はご紹介します。
ソウルフルギタリスト,デイヴィッド・T.・ウォーカーの1971年の名作『David T. Walker』を聴こう♪
本作は収録曲の選曲の良さのみならず絶頂期のデイヴィッド・T.・ウォーカー(以下:デビT)の演奏が聴ける最高傑作だとも言えます。
カヴァー曲がほとんどのアルバムですが、選曲の方もアイズレー・ブラザーズやスティーヴィー・ワンダーのファンキーなカヴァー曲だけでなく、あのビートルズの名曲までファンキーにアレンジしていたりと多彩です。
またストリングスを多用した前作の『David T. Walker』の音作りとは打って変わって、よりファンキーなホーン隊が参加しているところも見逃せません!
『David T. Walker』よりもこの『Press On』の方がファンク系の楽曲が多いのも特徴です。
もちろんゲスト・ミュージシャンの方も、前作同様に華やかなメンバーが参加しています。
更にデビTのボーカル曲まで聴ける豪華さ(?)です!(笑)
それではさっそく『Press On』をご紹介したいと思います。
David T. Walker – 『Press On』
01.I Got Work To Do
02.Brother, Brother
03.Press On
04.Didn’t I Blow Your Mind ThisTime
05.With A Little Help From My Friends
06.Superstition
07.I Who Have Nothing
08.If That’s The Way You Feel
09.Save Your Love For Me
10.If You Let Me
Personnel:
David T. Walker – Lead Guitar, Rhythm Guitar
Charles Larkey – Bass
Harvey Mason – Drums
Ms. Bobbye Hall – Congas, Tambourine, Bongos, Percussion [Quica]
With many guest musicians.
Recorded: at A&M Recording Studios.
Released: 1973.
アルバムの内容
1曲目の”I Got Work To Do”は、アイズレー・ブラザーズの1972年の有名曲のカヴァーです。
1974年にアヴェレージ・ホワイト・バンドがカヴァーしたことでも有名ですね。
そんな爽やかな歌もののファンキーな楽曲を、デビTがギターインストで演奏しています。
クラレンス・マクドナルドのピアノのイントロから、トム・スコットのフルートやトロンボーンにトランペットなどのホーン隊が盛り上げます。
そして原曲のボーカル部分をデビTが、まるでギターで歌うかのように丁寧にフレーズを弾いています。
本来ならボーカルが中心の曲なのに、歌なしなのを感じさせないほどの表現力ですね♪
歌メロ部分のギターも素晴らしいのですが、聴きどころはギターソロの終盤2分59秒辺りからのコードのテンションの音をハープ奏法で「ピロリロリン♪ポロリロリン♪」と弾くところです。

後続のR&B系のギタリストに多大なる影響を与えたギター奏法です!
このギターソロの後は、ジョージ・ボハノンのトロンボーン→トム・スコットのサックス→オスカー・ブラシアーのトランペットと管楽器隊のソロが続きます。
デビTはトランペットの音色が好きだったのか?これ以降もデビTのソロ作品の多くにトランペットが参加しています。

アイズレー・ブラザーズもカヴァーした楽曲です。
当時のデビTは、キャロル・キングのアルバムにギタリストとして参加していたのでこういった選曲も想定内と言ったところでしょうか。
ジェリー・ピータースの弾くエレピの優しい音色をバックにデビTが歌メロ部分をギターで弾きます!
ホーン隊や女性コーラス隊もバックで盛り上げてくれています。
こういった歌ものを弾かせたらデビTの右に出る者はいない!といった感じですね。
アルバムのタイトルにもなっている3曲目”Press On”は、なんとデビT自身が歌う自作曲です!
歌の方は……お世辞にも上手いとは言えませんが……。(笑)
ヒューバート・サムリンと同じく、僕の好きなギタリスト達は、歌は下手ですね。(笑)
【#自分を作り上げたギタリスト4選】影響を受けたギタリストを4人選んでみました。
しかし曲の良さとギターの腕前は文句なしの出来です!
この曲のイントロのフレーズは、1989年にリリースされるデビTの8作目『With A Smile』の1曲目”Watts At Sunrise”でもセルフオマージュとして弾いていたりもします。
まさにデビT印のファンキーなイントロ・フレーズです!
デビTの歌はアレですが……(笑)”Press On”の曲のかっこよさは、デビTの作った楽曲の中でもベストと言って良い出来です!
ギターソロもワウペダルをONにしてファンキーに弾いています♪
4曲目”Didn’t I Blow Your Mind This Time”は、デルフォニックスの1970年のバラード曲です。
なんとこの曲でピアノを弾いているのはキャロル・キングです!
キャロルの弾く美しいピアノの音色をバックに、デビTがR&Bシンガーになったかのように感情を込めてギターで歌メロを弾いていきます!
泣けるような名バラード曲のお次は、本作の一番の聴きどころとでも言うべき、ビートルズのカヴァー曲が始まります!
5曲目”With A Little Help From My Friends”は、ポール・マッカートニーが1967年に書いた曲で、ビートルズの8作目の歴史的名盤『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』の2曲目に収録されていました。
この曲を歌うのは、ポール自身ではなくリンゴ・スターでした。
あのリンゴが、のほほんと歌う曲を1968年にジョー・コッカーがゴスペル風のアレンジでカヴァーして更に有名になった楽曲です。
そのバージョンでは、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがギターを弾いたことも話題となりました。
さて、おそらくビートルズではなくジョー・コッカーのバージョンを意識してデビTは本作でこの曲を取り上げています。
イントロから最初の歌メロこそ、ミドルテンポでメロウに弾いているのですが……聴きどころはそこではないです!
このメロウな演奏だけならそこまで驚きはありませんが、1分54秒を過ぎるまで待ちましょう。

「ジャジャッジャ~~~ン♪」というコード音の後、「ンッチャチャラララ♪ゥンチャカチャラララん♪」とキレッキレのファンク・ギターが始まります!
ここからデビTのハープ奏法も交えた怒涛のギター・カッティングが続きます!
終盤にギターソロが始まる前の、サックスやトランペットにトロンボーンがソロを吹いている間にもの凄くファンキーなギター・カッティングをしています!

やはりデビTは、ギターソロよりもバッキング名人ですね!
ギターって、ソロだけが大事なわけではありませんからね。
しっかりとしたバッキングが弾けるようになって、初めて上手いギタリストになれるんだと僕は思います。
『ギターバッキングの技』ジャンル別でギターバッキングのパターンを学べるおすすめの教則本
ちなみに曲のエンディングに、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの”Sing A Simple Song”のあのリフを一回弾いて終わるという遊びもあります。
この”With A Little Help From My Friends”もすごかったのですが、本作の聴きどころはまだ続きます!
次のスティーヴィー・ワンダーの代表曲でもある6曲目”Superstition”は、デビTのキャリアの中でもベストと言えるワウギターが聴けます!
本来この曲をギターありで演奏するのであれば、原曲のあの印象的なリフ部分はギターが弾くべきなのですが、ここではホーン隊に任せています。
デビTは、初っ端からワウペダルをONにしてファンキーに歌メロ部分を弾き始めます。
先ほど、”With A Little Help From My Friends”で「やはりデビTは、ギターソロよりもバッキング名人ですね!」なんて書いていたのですが、さっそく自分の発言を取り消したいと思います。(笑)
この”Superstition”は、デビTのワウギターのソロが聴きどころです!
とにかくファンキーにワウを「ワカチョコ♪ワカチョコ♪」と小刻みに踏んでソロを弾いています。
この名演を聴くと、最近のデビTがワウペダルを使わなくなったのをとても残念に感じますね……。
2曲の名演が続いた後は、少しクールダウンです。
7曲目”I Who Have Nothing”は、1963年にベン・E・キングがヒットさせた曲です。
この曲を書いたのは、そのベン・E・キングの代表曲でもある”Stand By Me”やエルヴィス・プレスリーの”Jailhouse Rock”に、デビTの前作にも収録されていた”On Broadway”を書いたジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのソングライター・チームです。
この曲は後にダニー・ハサウェイがロバータ・フラックと共演した際にも取り上げられていた悲しみのバラード曲です。
先のファンキーな2曲だけでなく、こういったスロー・バラードもデビTの得意な楽曲です。
歌メロを丁寧に弾いています。
3分26秒辺りから、オクターヴ奏法を弾いていますね。
おそらく通常のウェス・モンゴメリーのようなオクターヴ奏法ではなく、5弦の音とそこから2フレット下がった2弦の音で弾いていると思われます。
デビTは、この特殊なオクターヴ奏法を”Lovin’ You”などでよく弾いています。
その際は、ピックは使わずに5弦を親指で、2弦を中指で摘まむように弾いています。
こうすることで、通常のパワフルなオクターヴ奏法とは違ったメロウなオクターヴ奏法を弾くことが出来るんです。

ちなみにこの曲と次の8曲目”If That’s The Way You Feel”の2曲でもキャロル・キングがピアノで参加しています。
“If That’s The Way You Feel”は、トロンボーン奏者のケグ・ジョンソンの書いた楽曲です。
キャロル・キングが参加しているとクレジットにはありますが……どちらかっていうとジョー・サンプルの弾くキーボードの音の方が目立っていますね。
デビTは、最初の方ではクリーントーンでギターを弾いていますが、2分9秒からワウペダルをONにしてファンキーに弾き始めます。

9曲目”Save Your Love For Me”は、ピアニストのバディ・ジョンソンが書いた曲です。
1961年にサックス奏者のキャノンボール・アダレイと女性ジャズ歌手のナンシー・ウィルソンが共演した名作『Nancy Wilson/Cannonball Adderley』の1曲目に収録されていました。
原曲は、ナンシーの美しい歌声を静かにサポートするキャノンボール・アダレイが印象的でしたが……デビTはソウルフルに演奏しています。
ジョー・サンプルのピアノのイントロで始まる序盤こそゆったりとギターを奏でていますがソロになると、ストリングスが盛り上げてくれる中バリバリとギターを弾いています!
そして本作の最後の収録曲となる10曲目”If You Let Me”は、フランク・ウィルソンが書いた曲でエディ・ケンドリックが1972年にヒットさせました。
エディ・ケンドリックの少し甲高い声で歌われる歌メロ部分を、デビTがギターで丹念に弾いています。
アルバムの締めくくりに最適な、少しメロウなR&B曲ですね♪

以上、【デイヴィッド・T.・ウォーカーの最高傑作⁉1973年の名盤『Press On』を聴こう♪】のご紹介でした。
デビTの書いた最高傑作とも言えそうな”Press On”や、ファンキーな”With A Little Help From My Friends”や”Superstition”に、爽やかな”I Got Work To Do”と”Brother, Brother”んど、聴きどころも多いアルバムです。
個人的には前作『David T. Walker』の方が自分がギターをプレイする上で大きな影響を受けたのですが……普段よく聴く方はこの『Press On』の方です。
おそらくデビTの作品の中で僕が一番聴いたのはこの作品だと思います。
『David T. Walker』は、「ギタープレイの研究」として聴いていて、この『Press On』の方は純粋に「自分が好きな音楽」として聴いています。
どちらにしろ、この2作品はデビTのキャリアの中でも絶頂期の名演を収録した外せない名盤だと思います♪
R&Bやファンク好きの方だけでなく、ジャズ・ファンク好きの方にもおすすめです!
たまには歌もの曲ではなくって、メロウでファンキーなギター・インストものを聴いてみてはいかがでしょうか?