2019/09/07
【ファンクおすすめの名盤シリーズ⑦】ナイル・ロジャースのギター・カッティングを聴こう♪NYを代表するファンク・バンド『シック』の名盤3作品‼
【ファンクおすすめの名盤シリーズ⑦】
シリーズ第7弾はNY発のオシャレ・ファンク・バンド『シック』の初期の名盤3作品をご紹介します。
珍しく短いスパンでの更新ですが、まだまだ続く【ファンクおすすめの名盤シリーズ】です。
前回は僕の好きなNY発のファンク・バンド『ファットバック・バンド』をご紹介しました。
【ファンクおすすめの名盤シリーズ⑥】ワウギターがかっこいいファットバック・バンドのパーセプション・レコード時代の3作品を1つにまとめた『Fatbackin’』がおすすめ!
今回は同じNY発のファンク・バンド『シック』をご紹介したいと思います。
ファットバック・バンドがヘヴィなファンク・バンドだったのに対して、こちらのシックの方はそのバンド名通りにオシャレなファンク・バンドになります。
“chic”とはフランス語で「上品[シック]な、あか抜けした」という意味の単語です。
ファットバック・バンドが70年代初頭に結成されたのに対して、シックは1976 年のディスコ・ブーム期に結成されています。
そのため女性ボーカルを前面に出したディスコ・ファンク調の軽めの楽曲が多いのも特徴です。
簡単にですがシックの演奏面を支える主要メンバーの3人をご紹介したいと思います。
シックのバンド・メンバー
まずシックのメンバーの中心となるのがギタリストのナイル・ロジャースという人物です。
ギタープレイだけでなく曲作りやプロデュース業もこなす才能溢れた人物です。
シックの活動だけに留まらずプロデューサーとしても数多くの作品を手掛けています。
フィラデルフィア出身のジョセイコーラス・グループのシスター・スレッジやダイアナ・ロスにデヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガーにジェフ・ベック、アル・ジャーロウまでもかなり幅広く手掛けていたりします。
そんなナイル・ロジャースは、幼少の頃からクラシックやジャズ・ギターのレッスンを受けていたようです。
所々で、ジャズっぽいコードワークや音使いをするのはそのためです。
おそらくこういった要素が『シック=オシャレなサウンド』に繋がっている要因だと思われます。
ナイル・ロジャース自身がインタビューなどで語っているのですが、ギターをプレイする上でピアノのコード演奏を参考に弾いているようです。
それもジョン・コルトレーンのカルテットで活躍したジャズ・ピアニストのマッコイ・タイナーのようなハーモニーを意識しているようです。
1つの曲でカッティングを弾く際にも、同じフレーズをジャカジャカと弾くのではなく、テンションノートを入れたりして細かく音色を変化させているのもピアノからの影響です。
彼のコード・ワークでのモットーは”Less Is More(最小の音数で最大の効果)“といい、ギターの6本の弦をフルで弾くことは、ほぼありません。
ほとんどの場合が3つの弦で3つの音によるショート・コードで音を鳴らしています。
あくまでもシャープでタイトな演奏に徹しているようです。
またギターの音作りにもこだわりがあるようです。
使用ギターはフェンダー社のストラトキャスターという、ギター弾きにはスタンダードにして「普通でベタ」なギターを使用しています。
通常のエレキギターであれば、音を出力するピックアップ(PU)を選んで弾くことが出来ます。
まろやかな音の「フロントPU」、キレのある音の「リアPU」、そしてその中間の「センターPU」の3つです。
しかしストラトキャスターは設計時に大きなミスがあり、「フロントとセンターの中間」と「センターとリアの中間」がセレクトできてしまいます。
本来であれば設計ミスなのですが、面白いことにこの「ハーフ・トーン」と呼ばれるストラトキャスター独特のサウンドは今日ではこのギターの持つ個性にまでなってしまいました。
このハーフ・トーンを一番最初に有名にしたのは、デレク&ザ・ドミノス時代のエリック・クラプトンだったのですが、僕の様なファンク・ギター好きの人だとこのナイル・ロジャースの名前が真っ先に挙げられると思います。
ナイル・ロジャースは、だいたいの場合「フロントとセンターの中間」のハーフ・トーンでギターを弾いています。
このサウンドは「ファンク・ミュージックていうのは、あまり大きな音は鳴らさない。」という彼のもう一つのモットーとも合致しています。
ハーフ・トーンは、激しい自己主張はしないけれどもちゃんと存在感のある独特のサウンドを出すことが出来ます。
ちなみにナイル・ロジャース風のアンプのセッティングは、ドライヴのツマミを0にして、一旦イコライザー(トレブル、ミドル、ベース)をフラット(同じ値)にします。
そしてその後ベースのツマミを他のツマミの半分の値にして低音を大幅にカットします。
これでフラット&トップのトーンが完成します。
これはストラト使いが陥りがちなトレブリーでギンギンな音を出して他の楽器陣の邪魔にならないようなフラットなセッティングです。
カッティング中心のファンク・ギターを弾いてみたい人は、このサウンド作りを参考にしてみるのも良いと思います。
僕もギター弾きなのでついついナイル・ロジャースのご紹介が長くなってしまいましたが…
残りの2人は、ベースのバーナード・エドワーズとドラムのトニー・トンプソンです。
ナイル・ロジャースは、今も現役で表舞台に立っていますが、この2人は既に故人です。
しかし2人ともシックのサウンドを構成する重要なリズム隊でした。
モータウンを代表するベーシストのジェームス・ジェマーソンと並列で語られることもある存在感抜群のベースを弾いていたのがバーナード・エドワーズです。
面白いのが、もともとバーナードはギターを弾いていたようで……それまでジャズを演奏していたナイルをファンク・ギターの世界にシフトさせたのがバーナードの助言だったとナイルが語っています。
ナイル・ロジャースをファンク・ギター界のスターにしたきっかけが相棒のバーナード・エドワーズだったとは!
さて、この2人のコンビネーションをバックで支えるのがドラムのトニー・トンプソンです。
とっても不思議なタイミングでフィルインする独特のタイム感を持った叩き方をします。
良く言えば「個性的」ですが、悪く言えば「ヘタウマ」にも聴こえてしまいます。
しかしこれは狙って演奏していたようで、トニーはどんなタイミングでも自在にフィルイン出来たようです。
各人とも個性的なのに、この3人が集まると独特のグルーヴ感を醸し出すことが出来る、これがシックというバンドがヒットした要素のひとつだと言えそうです。
それでは今回はシックを聴くなら絶対に外せない初期の名作3枚をご紹介したいと思います。
※「ファンク曲」を中心にご紹介してます。バラード曲に関しては感想を省います。
Chic – 『Chic』
1977年にリリースされたシックのデビュー作『Chic(ダンス・ダンス・ダンス)』です。
デビュー曲となった1曲目”Dance, Dance, Dance (Yowsah, Yowsah, Yowsah)”が全米6位といきなりの大ヒットを記録しています!
今聴くと時代を感じさせるディスコ・ファンクではありますが、シャープでタイトなナイルのギター・カッティングは他のギタリストとは一線を画するものです。
ギターの6弦を人差し指で全て押さえるセーハ・フォームを維持したまま、実際に弾くのは高音弦となる1~3弦のみで、他の3本の弦は手を添えるだけで鳴らしていません。
基本となるFm7とB♭7(13th)のコードを3音ずつしか弾いていないので、一見すると簡単そうに思えるのですが、実際に余分な音が鳴らないようにミュートしながら1~3弦をしっかり鳴らすのはとても難しかったりします。
ただ鳴らすだけではないんですよ、余計なノイズが鳴らないようにしっかりと鳴らすのはかなりの腕前がないと難しいです。
これだけでもナイル・ロジャースのカッティング・テクニックのレベルの高さが感じられます。
しかもしっかりと鳴らすのは、適当なリズムで鳴らすのではなくパーカッシヴなブラッシング音を交えた16分のリズムで弾かなくてはいけません。
こういったシンプルなコード進行の曲で、ノイズを鳴らさずクリアーな音のみで16分のリズムをキープしてギター・カッティングが出来るかよどうか?でそのギター弾きが「本当に上手いのか?どうか?」を知ることが出来ます。
16分のファンキー・カッティングって聴く分にはとっても心地良いですが、実際に演奏するのはとても難しいです。
ギタリストの上手さは派手なソロが弾けるだけではありません。
むしろこういったギター・カッティングが弾けない人は「派手さで誤魔化そうとしているヘタなギタリスト」と言ってしまっても良いのかもしれませんね⁉
まぁ極論かもしれませんが…。
でも派手なギターソロを弾いた後でそのギタリストがリズム感ぐちゃぐちゃのリズムギターを弾いてるのを観てしまった時の「残念さ」はかなりのものです。
B♭7に13th(6度音程)のテンションを入れて弾いているのもオシャレな要素です♪
どうしてもディスコテックな歌部分やストリングスのサウンドが僕も少し苦手だったりはするのですが、しかしナイル・ロジャースのギターは「ファンクそのもの!」です。
次の2曲目”São Paulo”は、フルートの音色がボビー・ハンフリーっぽいフュージョン風のインスト曲です。
そして3曲目”You Can Get By”で再びナイル・ロジャースのギター・カッティングがオシャレに暴れまわります!
特に2分55秒から始まるギター・カッティングによるソロが聴き所です!
たかがカッティング!されどカッティング!しかしシンプルな音色のギター・カッティングだけでここまで言いたいことを表現できるギタリストは、世界広し言えどもほとんどいません!
イントロからバーナードのベースが存在感抜群な4曲目の”Everybody Dance”は、モロにディスコ・ファンクです!
先の”You Can Get By”をB面に収録して本作からの2枚目のシングルカット曲となりました。
全米38位とそこそこのヒットを記録しています。
同じディスコ・ファンク路線の6曲目”Est-Ce Que C’est Chic”を挟んで、7曲目はスウィートなバラード曲”Falling in Love with You”も収録されています。
そして最後に華やかなホーンのイントロで始まる8曲目”Strike Up the Band”でアルバムは締めくくられています。
Chic – 『C’est Chic』
おそらくシックの作品群の中で最も有名だと思われる1978年の2ndアルバム『C’est Chic』です。
僕が初めて聴いたシックのアルバムは作品です。
きっかけは、ある海外のギター教則本の課題曲として本作収録の”Le Freak(おしゃれフリーク)“のギター・リフが掲載されていたからです。
Am7とD7を行ったり来たりするシンプルな進行なのですが、5フレットと7フレットの4弦と3弦のダブルストップを中心に、ハンマリングを上手く使ったリフ作りは一筆です!
一応Bパート部分はパターンが変えられていますが、歌部分では基本のパターンを延々と繰り返しています。
と言っても、少しずつ弾き方は変えていたりもします。
ナイル・ロジャース曰く、この楽曲のギターがよりファンキーに聴こえる秘訣は、ふたつのギター演奏を左チャンネルと右チャンネルにミックスするのではなく、1本のギターに聴こえるようにセンター定位にミックスしたらしいです。
ちなみに1stシングルに選ばれたこの曲は、全米チャートこそ24位止まりでしたが、世界中でヒットを記録しています。
本作はどうしてもこの”Le Freak(おしゃれフリーク)“ばかりが目立ちますが、他にも聴くべき曲は多くあります。
3rdシングルにもなった1曲目の”Chic Cheer”もシック印のオシャレ・ファンクです。
3曲目の”Savoir Faire”は、ストリングスが美しいバラード調の曲なのですが、ナイル・ロジャースのジャズ・ギター風のコード・ソロやシングル・ノートのソロを聴くことが出来ます。
しかしあくまでも「ジャズ風」ですのであしからず。
ジャズそのものではないです。
4曲目”Happy Man”は、ベースが目立つ曲でバーナード自身が歌も披露しています。
5曲目”I Want Your Love”は、2ndシングルにもなった人気曲のひとつです。
6曲目のスウィートなバラード曲”At Last I Am Free”を挟んで、7曲目”Sometimes You Win”は再びバーナードが歌も歌っています。
最後の8曲目”(Funny) Bone”は、話し声こそ入っていますが基本はインストのファンク曲です。
前作のデビュー・アルバムよりも各楽曲の質が上がっているので、シック最初の1枚としては本作が一番適していると思います。
有名曲の”Le Freak(おしゃれフリーク)“も収録されていますからね♪
Chic – 『Risqué』
最後にご紹介するのは1979年にリリースされた3rdアルバム『Risqué (危険な関係)』です。
本作は何と言っても全米No.1の大ヒットを記録した1曲目”Good Times”です!
“Le Freak(おしゃれフリーク)“と同じようにナイル・ロジャースを代表するギター演奏がここでも聴くことが出来ます。
この曲もファンク・ギターの教則本では登場頻度の高い人気曲です。
11thや13thのテンションを入れたオシャレな音使いのみならず、マイルス・デイヴィスの”So What”を思わせるモード・ジャズ御用達の「4度積み(sus4))」のコード・フォームまで登場するオシャレさん具合です!
基本は”Le Freak(おしゃれフリーク)“のように、Em7とA7を繰り返しているのみです。
しかし弾き方によってここまでオシャレになるんだなぁ~というナイル・ロジャースのアレンジ力に驚かされます。
次の2曲目”A Warm Summer Night”は、少しジャジーでアンニュイなバラード曲です。
そして3曲目”My Feet Keep Dancing”は、本作からの3rdシングルにも選ばれた「ダンシング!ダンシング!」というキャッチーな歌メロが耳に残る歌モノ曲です。
4曲目”My Forbidden Lover”は、2ndシングルに選ばれたシック印のディスコ・ファンク曲です。
5曲目”Can’t Stand to Love You”は、珍しく歪んだ音色のロックなギターのイントロから始まります。
曲自体はロックってでもないのですが…。
6曲目にメロウなバラード曲”Will You Cry (When You Hear This Song)”を挟み、最後の7曲目”What About Me”は再びシックらしいディスコ・ファンク曲で締めくくられています。
どうしても1曲目”Good Times”のクオリティーが高すぎて他の楽曲が霞んでしまいそうですが、それは前作よりも「ファンク度」が減退したのも原因かと思われます。
少し大人しくなった3作目だと感じます。
以上、【【ファンクおすすめの名盤シリーズ⑦】ナイル・ロジャースのギター・カッティングを聴こう♪NYを代表するファンク・バンド『シック』の名盤3作品‼】でした。
ぜひ今後もこのシリーズともども、こちらのブログも読みに来てください。
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