2021/01/18
アフロブルーにフォクシー・レディに紫のけむり・・・ロニー・スミスがジョン・アバークロンビーと組んだトリオ三部作
ファンキーなオルガン奏者ロニー・スミスがトリオで制作したトリビュート三部作をご紹介します。
ジャズにいち早くロックギターの要素を取り入れた革新的ギタリストとの共演作!
オルガン奏者のロニー・スミスは、このブログでも何度となくご紹介しているミュージシャンになります。
昨年末にご紹介していたロニー・リストン・スミスとは全くの別人で、こちらのロニー・スミスの方が先にミュージシャンとしてデビューを飾っています。
ロニー・リストン・スミスのコズミックジャズファンク5作品+αを聴こう♪
ロニー・リストン・スミスとの差別化を図るためにドクター・ロニー・スミスと名乗っていることもありますが、本記事ではロニー・スミス呼びで進めていきたいと思います。
今回はオルガン奏者のロニー・スミスが90年代にギタリストのジョン・アバークロンビーとドラムのマーヴィン・”スミッティ”・スミスのトリオ編成で、ジョン・コルトレーンとジミ・ヘンドリックスをトリビュートして制作したおすすめの3作品をまとめてご紹介したいと思います。
ロニー・スミスと言えば、過去にはジョージ・ベンソンやメルヴィン・スパークスと、近年ではロドニー・ジョーンズやピーター・バーンシュタインにジョナサン・クライスバーグといった凄腕ジャズギタリスト達と共演してきた名オルガン奏者です。
そんなロニー・スミスが90年代に、ジャズギターに革命をもたらした人物のひとり、ジョン・アバークロンビーと共演していました。
2017年に惜しくも亡くなってしまったジョン・アバークロンビーは、早い時期からジャズギターとロックギターを融合したような演奏をしていた人物です。
1967年にバークリー音楽大学を卒業後は、来るクロスオーバー/フュージョン時代に向けたロックの奏法を取り入れた革新的なジャズギターを弾いていました。
それまで直アンのクリーントーン一辺倒だったジャズギター界に、エフェクターのサウンドを大胆に取り入れた最初期のギタリストでもあります。
そんな革新的なギタリストが、ロニー・スミスと共に音楽の歴史に革命をもたらせたジョン・コルトレーンとジミ・ヘンドリックスをトリビュートした作品を90年代に3作品残しています。
今回はその三部作を順にご紹介したいと思います。
The Lonnie Smith=John Abercrombie Trio – 『Afro Blue』
ロニー・スミスが、ジョン・アバークロンビーとマーヴィン・”スミッティ”・スミスのトリオ編成で1993年6月17日にNYにあるサウンド・デザイナー・スタジオで録音した1作目がこの『Afro Blue』です。
モンゴ・サンタマリアの”Afro Blue”の名を冠したアルバム名からして、ジャズ好きの人なら「あ!ジョン・コルトレーンの『Live At Birdland』だな!」と気づきそうですよね。
もちろんそこからのチョイスです。
最近ではロバート・グラスパーがエリカ・バドゥと共演したボーカルバージョンも有名ですが…
古くはディー・ディー・ブリッジウォーターが歌っていた曲です。
本作収録のバージョンはコルトレーンと同じくインストバージョンになります。
フリーな演奏による2分近いイントロは、まるで後期ジョン・コルトレーンのような演奏です。
スミッティ・スミスがドタドタドタッ!と荘厳なアフリカン・ビートを叩く様は、まるでコルトレーンの黄金のカルテット時代のドラム奏者エルヴィン・ジョーンズのようでもあります。
テーマを弾くのはジョン・アバークロンビーのギターで、ユニヴァイヴ系のコーラスがかかったオーバードライヴサウンドで弾いています。
曲の終盤でロニー・スミスがテーマ部分をロングトーンで盛り上げていたり、フリーなスタイルを基調としつつもオルガンも活躍するアレンジです。
2曲目”Impressions”は、コルトレーンがマイルス・デイヴィスの”So Waht”から影響を受けて書いたモードジャズの名曲です。
ジャズギタリストだとウェス・モンゴメリーのカヴァーが有名ですね。
いまだ未発表となっておりますが、ジョン・コルトレーンとウェス・モンゴメリーは生前に共演して録音していたと噂が残っています。
その際にウェスがコルトレーンから”Impressions”を教えてもらったのでしょうか!?
その昔はヴィレッジ・バンガードやその他のライヴ録音しか残されていないと思っていたこの楽曲も、近年では1962年のセルフタイトル作『Coltrane』のデラックス・エディションのボーナス音源や…
『Both Directions At Once: The Lost Album 』に何テイクものスタジオ録音バージョンが収録されています。
本作ではジョン・アバークロンビーがウェス・モンゴメリーになったかのようにギターでテーマメロディーを弾いています。
その後はバラードが2曲続きます。
3曲目にコルトレーンが最初の妻ナイーマに捧げたバラードの名曲”Naima”や、『Africa/Brass』に収録されていた英国トラディショナルの”Greensleeves”とバラード曲が続きます。
バラード2曲の次には興味深い曲が更に2曲続きます。
“Bessie’s Blues”と”Lonnie’s Lament”は、コルトレーンの1961年作品『Crescent』に同じ順番で収録されていた2曲です。
コルトレーンの作品群の中ではあまり目立たない『Crescent』ですが、実はこの2曲のように良い曲が収録されたアルバムでもありました。
その2曲を同じ順番で収録しているのはとても興味深いですね。
特にスローバラードの”Lonnie’s Lament”は、曲名通りにロニー・スミスが「嘆き悲しむ」かのようなオルガンの哀しい演奏を聴かせてくれています。
アルバム最後の”Traces Of Trane (I Bring Love)”のみロニー・スミスのオリジナル曲で、コルトレーンに捧げられたトリビュート曲となっています。
まるでコルトレーンの往時を偲ばせるような作風です。
1960年に録音された『Coltrane’s Sound』に収録されていそうな曲調ですね。
ジョン・アバークロンビーを含むロニー・スミス・トリオの第一作目は、ジャズサックスの巨人ジョン・コルトレーンへのトリビュート作品でした。
次の2作品はロックギターの神様ジミ・ヘンドリックスに捧げられたアルバムになります。
この2作品は、本来なら2枚組アルバムなどで合わせて発売されるべき内容だったとは思うのですが、それぞれ個別でリリースされています。
それではまず最初は先に発売されていた『Foxy Lady: Tribute to Hendrix』の方から…
The Lonnie Smith=John Abercrombie Trio – 『Foxy Lady: Tribute to Hendrix』
『フォクシー・レディ:~ジミ・ヘンドリックスに捧ぐ~』と題名が付けられた本作は、その名の通りジミ・ヘンドリックスの楽曲をカヴァーしたアルバムになります。
1曲目はジミヘンの代名詞でもある”Foxy Lady”から始まります。
といってもミドルテンポで豪快なジミヘンのバージョンとは違って、軽快なシャッフル調で演奏されています。
何も知らずに聴いたら、全くの別の曲のような気もします。
ジョン・アバークロンビーは、本作録音のために新しいギターを購入してエフェクターの構成もおの録音のために新たに組み上げ、念入りにフィードバック奏法のチェックもしていたそうです。
しかしワウペダルにファズやユニヴァイヴのサウンドが印象的なジミヘンとは遠くかけ離れたようなフュージョン系の音作りであります。
ジミヘンというよりも、ジョン・スコフィールドやマイク・スターンのトーンに近いです。
…ていうか、彼らよりも先にこういう音作りをしていたのがジョン・スコフィールド自身なので、いつもの自分のスタイルでジミヘンを演奏しただけなのじゃ…?と聞くものからしたらそう感じてしまいます。
本人は相当こだわって音作りをしたのでしょうが…。
2曲目”Castles Made Of Sand – Star Spangled Banner”は、ジミヘンの2ndアルバム『Axis: Bold As Love』収録の有名曲にジミヘン式アメリカ国家の演奏を組み合わせた楽曲です。
…が、しかしこれがやたらと長くって23分37秒もあります!
正直、そこまで長尺にする必要があったのだろうか…といった感じなのですが、途中で聴く方がダレてしまいます。
この演奏をもっとコンパクトにしていたら、アルバム2枚に分けなくってもよかったんじゃないだろうか?と思ってしまう無駄な長尺っぷりです。
次の”Third Stone From The Sun”は、ジミヘン好きギタリストがこぞってカヴァーしたがる1stアルバム『Are You Experienced』収録の定番曲です。
こちらの曲の序盤は少しジャジーにスウィングする落ち着いたアレンジで演奏しています。
しかし後半に進むにつれ、テンポが上がりフリーな演奏に移っていきます。
メタリックな音質のギターは、もはやジミヘンを感じさせません。
この部分は必要だったのかな?とこの曲でも感じてしまいます。
小粋にジャジーなスウィングのアレンジで短めに演奏するだけでも十分よかったと思います。
そして2枚に分かれているアルバムを1枚に…ムニャムニャ…
最後の4曲目”Jimi Meets Miles”は、先ほどのコルトレーンの時の”Traces Of Trane (I Bring Love)”と同じくロニー・スミスがジミヘンに捧げたオリジナル曲になります。
ジミヘンっぽいのかな…?と。
むしろジョン・アバークロンビーのギターがジョン・マクラフリンのように聞こえて、マハヴィシュヌ・オーケストラっぽいです。
悪くない曲ですが、ジミヘンぽさはあまりない気がします…。
それでは引き続きジミヘン・トリビュートの2作目をご紹介します。
The Lonnie Smith=John Abercrombie Trio – 『Purple Haze – Tribute To Jimi Hendrix』
前作と同じように『紫のけむり:~ジミ・ヘンドリックスに捧ぐ~』と題名が付けられた本作も、同じジミヘン・トリビュート作品です。
ジミヘンの代名詞でもある”Voodoo Chile”から始まります。
あの有名なギターリフを、ワウペダルなしで弾いています。
代わりにフィードバック奏法を大胆に取り入れてサイケデリックさを増してカヴァーしています。
続く2曲目”Up From The Skies”は、オリジナルの小粋な演奏ではなく、激しくシャッフルしています。
1曲目がサイケデリックだったのに対して、この曲はジャズファンクしていますね♪
3曲目”Gypsy Eyes”は、”Voodoo Chile”と同じくジミヘンの3rdアルバム『Electric Ladyland』に収録されていた曲です。
オリジナルのファンク・ロックな曲調とは違って、怪しげなサイケデリック・ロック風にアレンジされています。
アレンジする必要あったのかな?といったところですね。
オリジナル通りにファンキーな演奏でよかったと思います。
そしてジミヘン・トリビュートの最後を飾るのは、ジミヘンの最も有名な曲”Purple Haze”です。
こちらもアメリカ国家を挟む形です。
まるでウッドストック・フェスティバルのジミヘンですね。
…と言いたいところなのですが、この曲もメロディーだけ残してスローにアレンジされています。
最期にアメリカ国家に移るのですが、その際はオルガンも含めフリージャズ風にドタバタ演奏が繰り広げられます。
全体的にオリジナル通りにはカヴァーしないぞ!という気概こそ感じさせつつも、必ずしもその目論見が当たっているとは言えないようなアレンジに長尺曲が続く構成が聴く者をダレさせます。
またジョン・アバークロンビーが、本作レコーディングのために機材を用意したらしいのですが、ジミヘンをカヴァーするのにワウペダルを使わないってどういうこと?…と疑問に感じてはしまいます。
トリビュートというには『実験的』すぎたアルバムですね。
またコルトレーン・トリビュートも含むこれら三部作にオルガン系ジャズファンクを期待して聴いてみるとガッカリすると思いますので注意が必要です!
ギターの音はフュージョン系で、ジャズファンクというよりもサイケデリックなスピリチュアル・ジャズといった印象です。
それこそマハヴィシュヌ・オーケストラがお好きな方におすすめのアルバムのように感じます。
コルトレーン・ファンやジミヘン・ファンが聴くにしても少し違うかもしれませんね⁉
なかなかおすすめが難しい作品でした。
まぁだから知る人ぞ知る作品になてしまっているのでしょう…。
とにかくロニー・スミスが好き!、実はジョン・アバークロンビーのギタープレイに憧れている!といった人が聴くべきアルバムなのではないでしょうか。
僕自身もロニー・スミスが好きだから聴くことになったアルバムです。
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