2019/09/25
ケニー・バレルが名門ヴィレッジ・ヴァンガードに残したトリオ・ライヴの名盤を聴こう♪
ケニー・バレルが主役の白熱のギター・トリオ作品『A Night At The Vanguard』をご紹介します。
名門ヴィレッジ・ヴァンガードにて収録!
NYの 5番街の南端に位置するグリニッジ・ヴィレッジ地区にジャズの名門ヴィレッジ・ヴァンガードというジャズ・クラブが存在しています。
僕もNY旅行で何度か店の近くを通りました。
1930年代にオープンしたこの店は、当初はジャズではなくカントリーやポップスなどの音楽や演劇、詩の朗読にスタンダップ・コメディを見世物としていました。
それが1957年に入ってから連日ジャズのライヴを目玉とするように変わっていきました。
その中には、ビル・エヴァンスやジョン・コルトレーンのよなビッグネームもいます。
もちろんジョン・コルトレーン好きの僕はコルトレーンの『Live! at the Village Vanguard』や『Live at the Village Vanguard Again!』は何度も聴き返した思い入れのある作品です。
ビル・エヴァンスの方は代表作の『Waltz for Debby』と『Sunday at the Village Vanguard』のアルバムが有名ですね。
コルトレーンの『Live! at the Village Vanguard』やエヴァンスの『Waltz for Debby』なんかは、もはやBGMとしての娯楽作品おジャズではなく芸術の域に達したアート作品だと言えます。
そんなジャズの伝説に残るとような作品を次々と生み出したヴィレッジ・ヴァンガードは、何もアート作品ばかりではなく楽しくスウィングする聴きやすいライヴ盤もいくつか残されています。
そのうちの一つが今回ご紹介するジャズ・ギタリストのケニー・バレルのギター・トリオ作品『A Night At The Vanguard』です。
コルトレーンとビル・エヴァンスが60年代に入ってからそれらの名作を残したのに対して、ケニー・バレルの本作は1959年9月16日のライヴ演奏を収録しています。
残り約3ヵ月ほどでアメリカにとっての激動の時代の幕開け前に、平和だった1950年代の終わりを告げるに相応しいライヴ盤とも言えそうですね。
もちろんそれだけでなく、本作はバレルのキャリアを代表するライヴ盤としての価値も高いです。
これまでに100作以上のリーダー作を残しているバレルには、数多くのライヴ作品があります。
そのどれもがハイレベルの作品ばかりなのですが、個人的にはギターが主役のトリオ編成で録音された本作が一番バレルの本質を知ることができる作品だと思います。
サックスやピアノがいないため、メロディーとハーモニーを一手に担うのがバレルのギターだけになります。
そこにエリック・ドルフィーやマッコイ・タイナーなんかの作品にも参加した経験を持つジャズ・ベーシストのリチャード・デイヴィスのウッドベース、そして現在94歳にして現役(!)の伝説のジャズ・ドラマーのロイ・ヘインズがバックを支えています。
ロイ・ヘインズと言えば、チャーリー・パーカーの時代からジョン・コルトレーンに至るまであらゆるジャズ・セッションを経験してきた大御所ですね!
「パタパタパタ」と千切りするかのような軽やかなドラミングが特徴的な名手です。
驚くことに現在88歳のバレルと、89歳リチャード・デイヴィスも存命中です。
よく「ジャズは死人の音楽」などと揶揄され、多くの名作は過去の偉人達が残した音源でしかありません。
しかし喜ばしいことに、本作『A Night At The Vanguard』を録音したメンバーは全員今も現役なのです!
憧れのジャズマンが今も生きているということは、純粋に嬉しいことじゃないですか!
特にジャズ・ギター好きの僕としては、この15年で何度も何度も繰り返し聴いてきたライヴ盤ですから思い入れもありあります。
それでは今回はケニー・バレルの『A Night At The Vanguard』をご紹介したいと思います。
Kenny Burrell – 『A Night At The Vanguard』
01.All Night Long
02.Will You Still Be Mine
03.I’m A Fool To Want You
04.Trio
05.I Can’t See For Lookin’
06.Cheek To Cheek
07.Broadway
08.Soft Winds
09.Just A-Sittin’ and A-Rockin’
10.Well, You Needn’t
Tracks No.5 & 6 are GD’s Bonus Tracks
Personnel:
Kenny Burrell – Guitar
Richard Davis – Bass
Roy Haynes – Drums
Recorded : Live at Village Vanguard, New York City, September 16, 1959.
アルバムの内容
今回ご紹介するのはCD化に際して2曲のボーナストラックが追加された国内盤『ケニー・バレル / ヴィレッジ・ヴァンガードの夜+2』です。
本作収録の5曲目と6曲目がボーナストラックとして追加収録された音源です。
オリジナル盤は全8曲で、5曲目は”Broadway”が収録されていました。
ボーナストラックが加えられたCD盤では、アルバムの最後ではなく中盤に2曲が追加されています。
当時の原盤で聴いてこられた人にとっては違和感あるかもしれませんが…
最初からCD盤で聴き始めた僕にとってはこちらのバージョンがもはや通常盤になってしまっています。
それに僕としては「原盤以外ダメ!」といった思想はありませんので、現在入手しやすいこちらのCD盤でご紹介します。
まずはバレルの自作曲で始まる1曲目”All Night Long”です。
1956年のアルバム『All Night Long』の1曲目と同じ曲ですが、こちらのライヴ盤では印象がだいぶ変わっています!
まずスタジオ盤にはマル・ウォルドロンのピアノが入っていたのが一番の違いですね。
更にはバレルと何度か共演していたジェローム・リチャードソンのフルートやドナルド・バードのトランペットにハンク・モブレーのサックスなどがスタジオ盤には入っていました。
それぞれの楽器陣のソロ回しがあるため収録時間は17分を超えていました!
しかし本作では楽器陣は3人しかいなく、コード楽器はバレルのみです。
ピアノがいないから音に厚みを出すためなのか?詳しい理由はわかりませんが、本作では珍しくバレルが6弦の音を1音下げたドロップDチューニングで演奏しています。
といっても、イントロ部分と後半に一部6弦が使われるだけで、ほとんどはレギュラ-チューニングの1~5弦を中心に弾いてはいますが。
スタジオ盤よりも少しテンポアップした本作の”All Night Long”は、2人のリズム隊に支えられバレルが思おう存分にギターソロを弾きまくっています!
序盤はシングルノート(単音)でメロディアスなギターソロを弾いているのですが、1分41秒辺りの中盤からバレルの本領発揮です!
ここからコード弾きによるソロを弾いています。
いわゆる「コードソロ」という技です。
バレル以外にもバーニー・ウォーレルやウェス・モンゴメリーも得意とした奏法です。
バッキング使うギターのコードをソロで弾いている…と単純に考えればそういうことなのですが、実際に上手く弾きこなすのは至難の業です!
よほどセンスのあるギタリストじゃないとアドリヴでコードソロを弾きこなすことは出来ません!
しかしこういった他にコード楽器のない場合にはとても効果的な奏法なんです。
全体のサウンドに厚みが出るだけでなく、上手いことリズム隊とアンサンブルを合わすことが出来ればスウィング感が増します!
これによって聴いている人の気分をノラすことが可能になります。
もちろんここでのバレルのコードソロは、抜群のリズム感でスウィングしまくっています♪
この1曲目を聴くだけで本作は名盤であることが予想できます。
ちなみにバレルのギターソロの後にはベースソロもあります。
そして次はマイルス・デイヴィスもカヴァーした2曲目”Will You Still Be Mine”は、トム・アデールが書いた曲で曲作者のマット・デニスの歌で知られる人気のスウィング・ジャズ曲です。
ジャズ・ギタリストでいえば、ハワード・ロバーツの1959年の作品『Good Pickin’s』収録の名演が一番有名ですね。
僕もハワード・ロバーツの作品も好きなのでちょくちょく聴くことはありますが、しかし僕の中ではケニー・バレルの方がより興味をそそられるギタリストです。
ハワード・ロバーツの名演に負けないほど、本作のバレルのギターもスウィングしまくっています!
ここでもシングルノートとコードを上手く交えた演奏でテーマからソロまで弾きこなしています。
4バースのドラムソロもあります。
速いテンポのスウィング・ジャズが2曲続いた後は、3曲目のビリー・ホリディやフランク・シナトラが歌ったバラード曲”I’m a Fool to Want You”のカヴァーです。
彼ら名シンガーに負けず劣らずバレルのギターも「歌って」います!
ボーカリスト顔負けな程に、ギターで歌心を完璧に表現しています。
よく歌心溢れるギタリストとしてはコーネル・デュプリーやデイヴィッド・T・ウォーカー等のソウル系のギタリストの名前が挙げられることが多いかと思います。
ただそういったギタリストの名前を挙げる人の多くがジャズ・ギタリストをあまり聞いていないんじゃないんかな?と思えることが多々あります。
僕も彼らのソウルフルなギター演奏は好きなのですが、しかしケニー・バレルやウェス・モンゴメリーにグラント・グリーンのように、インストで歌メロを弾くのが当たり前だった時代のジャズ・ギタリストの方が歌心の表現力においてはレベルが高いと思います。
ソウル系のギタリストも上手いと思いますが、でもこれまでにしっかりとジャズ・ギタリストを聴いてこなかったのであれば、そちらの方にもちゃんと耳を傾けて欲しいなって思います。
さて、4曲目”Trio”はジャズ・ピアニストのエロール・ガーナーの曲です。
エロール・ガーナーと言えば 、ウェス・モンゴメリーも取り上げた人気曲”Misty”の方がなのですが、バレルは少し地味なこの曲をチョイスしています。
原曲ではピアノが弾いていた「パッパラッパ~♪パッパッパッパッパ~♪」とスウィングする箇所もバレルがイントロからコード弾きで表現しています。
かなり速いテンポで演奏されていますが、それさえも感じさせないような楽しくスウィングする演奏が最高です♪
心地よい雰囲気のメロディアスな演奏なため簡単そうに聞こえてしまうのが恐ろしいところです。
実際に弾いてみるには、とんでもなく難しい演奏です!
次の5曲目は本来なら”Broadway”という曲なのですが、今回は2曲追加盤ということで5曲目は”I Can’t See For Lookin'”です。
この曲はジャズ・ピアニストのレッド・ガーランドが1963年(録音は1958年)のアルバム『Can’t See for Lookin’』に収録していた楽曲です。
レッド・ガーランドがお好きな方には申し訳ないのですが、カクテルミュージック的なガーランドの軽い演奏と違って、バレルの弾くテーマの方がより歌心溢れる演奏に仕上がっています!
こちらのバレルのバージョンの方が出来が良いと思います。
しかし本作リリース当時は省かれていた音源なんですね。
もったいないことです…CD化に際してこうやって日の目を見ることとなった名演です!
次のフランク・シナトラで有名な6曲目の”Cheek To Cheek”もCD化に際しての追加音源です。
この人気曲も名手バレルの手に掛かればシンガー顔負けの名演に仕上がっています!
かなり速いテンポで恐ろしい程にスウィングするギター演奏に脱帽です!
後半には少し長めのロイ・ヘインズのドラムソロもあります。
6分超えの長尺曲だったためオリジナル盤に未収録だったのでしょうか?演奏面に関しては未発表で埋もれたままではあまりにもったいない素晴らしい出来です!
この2曲の追加曲も演奏面ではオマケ以上の高クォリティーなので、ぜひとも本作はボーナストラックありの全10曲バージョンで聴いてもらいたいと思います。
本来は5曲目だったけれど追加曲の影響で順番がズレた7曲目の”Broadway”は、本作随一の出来の必聴の名演です!
オリジナルは、ビリー・バード、テディ・マクレー、ヘンリ・ウードによるミュージカル・ナンバーです。
本曲でバレルは、ジャズ・ギターにおける「ブルース・アプローチ」と「スケール・アプローチ」という主要な弾き方を上手い具合に混ぜ合わせたギターソロを披露しています。
程よいスケール感とブルースのニュアンスを混ぜ合わせたギターソロが絶妙です!
ジャズ・ギタリスト、ケニー・バレルの持ち味を最大限に発揮した名演です♪
8曲目”Soft Winds”は、クラリネット奏者でスウィング・ジャズ時代を代表する人物ベニー・グッドマンの楽曲です。
ジャズ・ギタリストだとバーニー・ケッセルも取り上げた楽曲です。
バレルもお得意のブルース・フィーリング溢れるギターソロを披露しています。
9曲目”Just A-Sittin’ and A-Rockin'”は、ビリー・ストレイホーンとデューク・エリントンの書いた楽曲です。
エラ・フィッツジェラルドの歌唱でも知られるゆったりとした心地よいテンポのスウィング・ジャズです。
エラ・フィッツジェラルドのような名シンガーが不在でもバレルがいれば大丈夫です!
歌メロを弾くのなんてバレルにとっては朝飯前です。
本当にギターが歌っているかのような模範的な演奏ですね♪
最後の10曲目”Well, You Needn’t”は、マイルス・デイヴィスも取り上げたセロニアス・モンクの楽曲です。
不思議なテーマメロディーを持つこの楽曲もバレルの手に掛かればサラッと見事なギター演奏に変換されています。
ライヴの最後を締めくくるのにピッタリの楽曲ですね。
以上、【ケニー・バレルが名門ヴィレッジ・ヴァンガードに残したトリオ・ライヴの名盤を聴こう♪】でした。
ケニー・バレルの本領を発揮したトリオ・ライヴの傑作をぜひ聴いてみてください♪
管楽器などがない分、バレルのギター演奏に集中して聴くことが出来ますよ。
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