
2019/10/19
ジョンスコがレイ・チャールズをトリビュートした企画盤『That’s What I Say』を聴こう♪
ジャズギタリストのジョン・スコフィールドがレイ・チャールズを追悼して制作した企画盤『That’s What I Say』をご紹介します。
ジョン・スコフィールドというギタリスト
このブログでも何度か登場しているジョン・スコフィールド(以降:ジョンスコ)は、僕のお気に入りのギタリストのひとりです。
70年代末頃にデビューしたジョンスコは、80年代にマイルス・デイヴィスのバンドに、マイク・スターンの後任ギタリストとして加入しました。
その間にもフュージョン系のリーダー作を数多く制作した天才ギタリストです。
そのプレイスタイルは、ジム・ホールから大きな影響を受けていて……ギターソロではホールトーン・スケールを上手く使ったアウトフレーズや、バッキングにおいてはコードチェンジをスライドで滑らかに繋いで旋律的なアプローチをよく使用しています。
またエフェクターも積極的に使っていて、アイバニーズ社の紫色のコーラスを使った浮遊感あるサウンドは特徴的です。
同じくギターもアイバニーズ社のセミアコギターを使っていて、ジャズギタリストには珍しくリアピックアップの尖ったトーンで歪ませて弾くことが多いです。
(※このセッティングは絶対ではなく、フロントを使用してノンエフェクターでスタンダードなジャズを弾いていることもあります。)
こういったフュージョン/ジャムバンド系のプレイスタイルを得意とはしていますが、本人曰くB.B.キングや60年代のR&Bなどからも多大な影響を受けているようです。
全編レイ・チャールズの曲をカヴァーした楽しいジャズファンク系のアルバム♪
2004年に「ソウル・ミュージックの父」とも言える偉大なる天才レイ・チャールズが亡くなったのは今でも記憶に新しいと思います。
でも実際には、もう15年も前なんですね……。
2004年に公開されたレイ・チャールズのヒストリーを描いた伝記映画『レイ』は僕も観ました。
当時英語の学校に通っていたのですが、その授業の一環としてこの映画を観ました。
残念ながら僕には英語の勉強よりも、音楽の勉強になってしまったのですが……。(笑)
そんなレイ・チャールズを音楽界全体が追悼している中、まさかのジョンスコがトリビュート作品をリリースするという情報が音楽雑誌に掲載されていました。
当時の僕はジョンスコのことを「アウトフレーズばかり弾くフュージョン系のギタリスト」と勝手にカテゴライズしていたのですが……この辺からジョンスコに対する偏見がなくなり見方が変わっていきました。
90年代以降のジャズファンク系の作品や、その後発売されるニューオーリンズやカントリーを題材にしたアルバムを聴けばわかることなのですが……ジョンスコって歌メロをギターで弾くのがとっても上手なんですよね♪
まぁジャズギタリストが歌メロを上手く弾きこなせることは「当たり前」のことなんですが……僕はてっきりジョンスコってメロディーを崩して弾くギタリストだとばかり思っていました。
僕のそういった考えが変わったのがこのレイ・チャールズ・トリビュート盤を聴いてからになります。
それでは今回は、僕の中でのジョンスコのイメージが変わった好企画盤『That’s What I Say: John Scofield Plays The Music of Ray Charles』をご紹介したいと思います。
John Scofield – 『That’s What I Say: John Scofield Plays The Music of Ray Charles』
01.Busted
02.What’d I Say
03.Sticks And Stones
04.I Don’t Need No Doctor
05.Cryin’ Time
06.I Can’t Stop Loving You
07.Hit The Road Jack
08.Talkin’ About You / I Got A Woman
09.Unchain My Heart (Part 1)
10.Let’s Go Get Stoned
11.Night Time Is The Right Time
12.You Don’t Know Me
13.Georgia On My Mind [with Hidden Track – Unchain My Heart (Part 2)]
アルバムの内容
2005年にリリースされたジョンスコによるレイ・チャールズ・トリビュート盤『That’s What I Say』には、数多くのゲスト・ミュージシャンが参加しています。
しかし基本となるバンド編成は、ジョンスコのギターにラリー・ゴールディングスのオルガン、ウィリー・ウィークスのベースにスティーヴ・ジョーダンのドラムという4人になります。
このメンバーだけ見ても鉄壁のソウル/ファンク・バンドが完成しそうなのですが……思惑通りに本作はジャズファンク仕立てでレイ・チャールズの楽曲を料理しています。
1曲目”Busted”から質の高いジャズファンク・アレンジを聴くことが出来ます。
まずはジョンスコのギターとラリー・ゴールディングスのオルガンにスティーヴ・ジョーダンのドラムという「オルガン・トリオ」による演奏で始まります。
ジョンスコがレイ・チャールズの歌メロ部分をギターで弾いているのですが、この演奏を聴いてわかる通り、ジョンスコの「ギターが歌っている」んです!
ボーカリストがいなくっても、ギターが歌メロを奏でることで退屈することはありません。
ギターソロではチョーキングやオクターヴ奏法も上手く使い、メロディアスな演奏を披露しています。

次の2曲目”What’d I Say”は、レイ・チャールズの楽曲の中でも特に有名で数多くのミュージシャンがカヴァーした曲ですね。
そのためなのか、この曲には数多くのゲスト・ミュージシャンが登場します。
まずはジョンスコのギターのイントロに続いて登場するサックスは、レイ・チャールズに所縁のあるデイヴィッド・”ファットヘッド”・ニューマンです。
1曲目はギター・インストでしたが、この曲は歌ありで取り上げられています。
もちろんジョンスコは歌いませんが、その代わりに豪華なボーカル陣が参加しています。
ドクター・ジョンを始め、アーロン・ネヴィルにジョン・メイヤーやウォーレン・ヘインズ、そして大御所メイビス・ステイプルまでもが参加しています。
この5人がリードボーカルを交代で歌っています。
全員個性が強すぎるので直ぐに聞き分けることができます。
特にクセの凄いドクター・ジョンと、強面な見た目に反してエンジェル・ボイスなアーロン・ネヴィルの存在感が凄いです!(笑)
またボーカル陣だけでなく、ギターソロではジョンスコがオクターヴ奏法の1音を敢えて半音上げて不協和音弾く手癖フレーズ登場します。

直ぐに思います。(笑)
理論的には簡単な奏法ですが、なかなか使いどころの難しい特徴あるサウンドを出すことが出来ます。
3曲目”Sticks And Stones”は、ジャズファンク好きの僕にとってのベストトラックです♪
1曲目のオルガン・トリオに、ウィリー・ウィークスのベースを加えて更にリズム面を強化したオルガン系ジャズファンクのアレンジでカヴァーしています。
4曲目”I Don’t Need No Doctor”は、当時まだ駆け出しの新人だったジョン・メイヤーを主役に抜擢してリードボーカルを歌ってもらっています。
もちろんジョン・メイヤーの魅力は歌だけでなく卓越したギター演奏にもあります。
ジョン・メイヤーは、アコギにエレキギターに歌に……と大活躍です。
ジョン・メイヤーはアコギを弾きながら歌っていて、その間はジョンスコがギターでリフを奏でています。
最初にソロを弾くのはジョンスコで、3分42秒からジョン・メイヤーのエレキギターのソロが登場します。
しかもジョンスコとユニゾンでリフを弾いたりしています。
左チャンネルから聞こえる少し籠った音のギターがジョンスコで、右チャンネルから聞こえてくるハイが効いたギターがジョン・メイヤーです。
途中で両者のギターが、左→右、右→左と交差したりといった録音テクニックも使っていてなかなか面白いです♪
5曲目”Cryin’ Time”は、なんとジョンスコがオルガンのロングトーンをバックに独奏するゴスペル風のアレンジです。
これがなんとも感動的で……ジョンスコのギターの音色が微妙にユレていて、ヴィブラートの掛かった歌声の様でもあります。
たった1分33秒の演奏ですが、名演です!
そのまま6曲目”I Can’t Stop Loving You”に繋がります。
レイ・チャールズの熱唱で知られるこの名バラード曲を、大御所メイビス・ステイプルが歌いあげます!
さすがに本職だけあって、本作に参加しているボーカリストの中では一番の歌唱力です!
レイ・チャールズのイギリスでの最初のヒット曲でもある7曲目の”Hit The Road Jack”は、あのスパイ映画のようなイントロのピアノ部分をウィリー・ウィークスのベースに代えてアレンジしています。
ブラス陣も参加して豪華なアレンジが施されています。
ジョンスコは、トロンボーンとユニゾンでメロディーを弾いたりもしています。
ソロでは矢継ぎ早に繰り出されるレガートフレーズ等、聴きどころも満載です!
8曲目は”Talkin’ About You”と”I Got A Woman”のメドレー形式です。
ピアノを弾いているのはドクター・ジョンなのですが、リズムの取り方が独特なので直ぐに「あ、ドクター・ジョンだ!」とわかるぐらいです。(笑)
イントロは”Talkin’ About You”で始まって”I Got A Woman”に繋がってからは、もちろんドクター・ジョンが歌も歌います。
終盤にはジョンスコのオクターヴ奏法とデイヴィッド・ニューマンのサックスソロが上手い具合に絡み合います♪
9曲目”Unchain My Heart (Part 1)”は、4曲目の”Sticks And Stones”と同じく「オルガン・トリオ+ベース」の4人でジャズファンク風に演奏しています。
イントロからウィリー・ウィークスのベースが目立つアレンジです。
10曲目”Let’s Go Get Stoned”もギターインストによる演奏なのですが、オルガンが抜けてその代わりにホーン隊が加わっています。
ジョンスコの1995年のアルバム『Groove Elation』に収録されていても違和感なさそうなジャズファンク・アレンジですね。
11曲目”Night Time Is The Right Time”は、オールマン・ブラザーズ・バンドやガバメント・ミュールで活動するウォーレン・ヘインズがリードボーカルを務めています。
もちろんウォーレン・ヘインズと言えば「レギュラー・チューニングで流麗に弾くスライドギター!」なので、ここでもお得意のスライドプレイを披露しています。
ジョンスコはコーラスエフェクターを使って浮遊感あるサウンドで弾いています。
ちなみにこの2人は何度の共演しています。
ウォーレン・ヘインズのバンド、ガバメント・ミュールのライヴにジョンスコがゲストで登場することは数多く、その演奏をまとめた『Sco-Mule』というアルバムがリリースされているぐらいです!
ジャズとロックが基礎にある2人なのですが、同じジャムバンドにもカテゴライズされることもあるので、相性が良いのでしょう。
そろそろアルバムも終盤になってきて、ここで泣かせようと企んでいるようです!(笑)
12曲目”You Don’t Know Me”を歌うのは、エンジェル・ボイスのアーロン・ネヴィルです。
ネヴィル・ブラザーズの”A Change Is Gonna Come”なんかでもそうなのですが……この人のバラード曲でのファルセット声を聴いて感動しないなんて無理ですよね。
本当に「人を感動させられる歌声」を持った人です。
ダンプスタファンクで活躍する息子のイヴァン・ネヴィルは見た目通りのガラ声なのに、なぜ同じ強面の親父はこんなにも美しい『天使の声』を持っているのでしょうか?(笑)

あまりにも感動的過ぎます……。(涙)
アルバム最後の13曲目”Georgia On My Mind”は、レイ・チャールズの最高の名演で知られるバラード曲ですよね。
なんとこの名曲を、ジョンスコがアコギで独奏しています。
言うまでもなく、エレキだけでなくアコギの腕も一流です!
そもそも1996年に全編アコギアルバム『Quiet』をリリースしているぐらいですからね。
ちなみに”Georgia On My Mind”の後に隠しトラックがあって、2分51秒から「オルガン・トリオ+ベース」で演奏される”Unchain My Heart (Part 2)”が収録されています。

以上、【ジョンスコがレイ・チャールズをトリビュートした企画盤『That’s What I Say』を聴こう♪】でした。
まさかのジョンスコによる多彩なゲストを迎えたレイ・チャールズのトリビュート・アルバムは、ジョンスコが単なる奇抜な演奏をするだけのギタリストではないことを示したかのような名作です。
レイ・チャールズがお好きな人も、ソウルジャズやジャズファンクがお好きな方にもおすすめできる名作です♪
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