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カテゴリー:Music

2021/12/14

ジョン・コルトレーン生誕95周年記念上映 映画『チェイシング・トレーン』を観に行きました。

ジョン・コルトレーンの生誕95周年を記念して遂に日本での上映が実現した2016年の映画『チェイシング・トレーン』を観てきた感想を書いたブログ記事のタイトル画像です。

ジョン・コルトレーンの最新映画『チェイシング・トレーン』

生誕95周年を記念して遂に日本での上映が実現!

先日、ジョン・コルトレーンの最新映画『チェイシング・トレーン』を観てきました。

 

最新とはいっても米国での公開は2016年なのですが、今年2021年にジョン・コルトレーンの生誕95周年を記念して遂に日本での上映が実現しました。

 

もちろん日本語字幕での上映です。

 

音声の吹き替えはありません。

 

今年はジョン・コルトレーンの生誕95周年と共に、僕がコルトレーンを聴き始めて25年になります。

 

四半世紀に渡りコルトレーンをず~っと好きで聴いてきた今の僕だからこそこの映画を見て思うことも色々とありました。

ジョン・コルトレーンの生誕95周年を記念して遂に日本での上映が実現した2016年の映画『チェイシング・トレーン』を観てきた感想を書いたブログ記事の写真1枚目

 

それでは今回は映画『チェイシング・トレーン』を観た感想を書いてみたいと思います。

 

 

コルトレーンの音楽に関してではなくその人生を読み解く映画

この映画はコルトレーンの音楽性について探っていく内容ではなく、家族や関係者の証言や資料を元にコルトレーンの人生をサラッと紐解く映画でした。

 

これまでに書籍化されているコルトレーンの本の内容を映画にした様な作品でもありますが、しかし内容の濃さはそれらの本には及びません。

 

どちらかというと、初めてジョン・コルトレーンの人物像に触れる人向けの映画に感じられます。

 

入門編としては最適かもしれませんが、マニア向けではないです。

 

コルトレーンを25年以上聴いてきた僕自身もこの映画から新たに得た内容はほとんどありませんでした。

 

より詳しくコルトレーンのことを知りたいのであれば、『ジョン・コルトレーン 私は聖者になりたい』という本や

 


 

『コルトレーン――ジャズの殉教者』といった本を読んだ方が良いかと思います。

 


 

それでもそういった本よりもこの映画の方が初心者向けには良いと感じました。

 

というのも、やはり活字で読むよりも映像作品の方がわかりやすいですからね。

 

それにこの映画では、声のみの出演ではありますがデンゼル・ワシントンがコルトレーン役を務めており、まるでコルトレーン自身が自分の人生を語っている様な演出がなされています。

 

また多彩な出演者が魅力の映画でもあります。

 

まずはこの映画に登場するコルトレーンの家族からご紹介します。

 

この映画に登場するコルトレーンの家族たち

残念ながらコルトレーンの最後の妻アリス・コルトレーンは、2007年に亡くなっているのでインタビューをすることができないのですが、代わりに2人の子供のラヴィ・コルトレーン(次男)とオラン・コルトレーン(三男)が出演しています。

 

この2人には3人の息子がいたのですが、残念ながら長男のジョン・ジュニアは1982年に交通事故で亡くなっています。

 

ジョン・コルトレーンと血の繋がりはないのですが、アリスの連れ後だった娘ミシェルも本映画に出演しています。

 

もう1人、ジョン・コルトレーンには血縁関係のない娘がいるのですが、それはアリスと出会う前の最初の妻だったナイーマの連れ子サイーダことアントニアも出演しています。

 

ちなみにサイーダは1960年の名盤『Giant Steps』に収録されている”Syeeda’s Song Flute”でその名前が登場しています。

 

 

コルトレーンとナイーマが結婚した当時のサイーダは、まだ5歳の少女でした。

 

そして同じく『Giant Steps』に収録されている名バラード曲の”Naima”は、このナイーマに捧げられたラブ・ソングです。

 

コルトレーンは、ナイーマと別れた後も終生この名曲を演奏し続けました。

 

それは2番目の妻アリスがコルトレーン・バンドの正式なピアニストの座についてからもです。

 

前妻に捧げられた愛の曲アリスはどういった気持ちで演奏していたのでしょうか…。

 

しかしこの映画ではこのようなコルトレーンの人生の矛盾は語られていませんでした。

 

『聖人』ではないコルトレーンという『1人の人間』

この映画ではコルトレーンはまるで『聖人』のように扱われている気がしました。

 

そういったパブリック・イメージは昔からコルトレーンに付きまとうものではありますが、これまでに色んなコルトレーン本を読んだ僕としてはコルトレーンは『聖人』ではなく『1人の矛盾を抱えた人間』と感じています。

 

確かに音楽的才能や天才的な閃き、そして常人の限界を超える練習量等は、もはや超人レベルではありますが…そういった音楽面でのコルトレーンとは別に私生活では様々な悩みや問題を抱えていたと思います。

 

大人になったサイーダが映画内で語っていたのですが、コルトレーンとナイーマは別れる直前に激しい口論をしていたようです。

 

お互い口論を好まない性格のこの2人が、激しい口論をしたのであれば、それは相当な理由があったのでしょう。

 

この日以来、2人は別々の人生を歩むことになります。

 

またこの映画内では、コルトレーンが幼少期に人種差別が酷い米国南部のノース・カロライナ州ハムレットで過ごしたことが語られています。(後にペンシルベニア州フィラデルフィアに移住)

 

そして1964年にアラバマ州の教会爆破事件『バーミンガムの悲劇』による犠牲者に捧げられた鎮魂歌”Alabama”を書いたことが映画では紹介されています。

 

“Alabama”は、アルバム『Live at Birdland』に収録されています。

 

 

その際にマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)の映像が使われているのですが…コルトレーンは平和的思想を持ったキング牧師よりも過激派のマルコムXの思想に賛同していました。

 

マルコムXの集会に出席していたこともあるようです。

 

この映画ではこの辺の内容は触れられていませんでした。

 

争いを好まないコルトレーンが、過激で攻撃的な黒人解放指導者だったマルコムXに心酔していたのは矛盾ですよね。

 

ちなみに余談なのですが、1992年にスパイク・リー監督が制作した映画『マルコムX』で主演を務めていたのは、この映画でコルトレーンの声を演じているデンゼル・ワシントンでした。

 

 

これは単なる偶然ですね。(笑)

 

そして他にもコルトレーンの人生における矛盾がこの映画では取り上げられていませんでした。

 

この映画では息子のラヴィやオランの父への思い出話しと共に、貴重なホーム・ビデオの映像がいくつも使われています。

 

なんとも微笑ましい家族の映像で、ラヴィやオランも父コルトレーンと母アリスの間には「真実の愛」があったと語っています。

 

しかし実はこの時期にコルトレーンは、若い白人女性と浮気をしています。

 

この映画では全く触れられていませんが黒人女性ではなく白人女性と浮気していました。

 

これも矛盾ですよね。

 

音楽的には人種差別問題に向き合っていながら白人女性と浮気をしていたのですから。

 

また家族を裏切ってもいます。

 

ただこういった私生活での問題はあくまでもコルトレーンの「個人」としての問題であって、その事実があったからと言って僕がコルトレーンの音楽を嫌いになることなどありません。

 

私生活の内容だけでミュージシャンの良し悪しを決めるのはあまりにも薄っぺらく感じます。

 

とは言ったものの、さすがにこういった映画で赤裸々にコルトレーンの私生活の乱れを描くわけにもいかないというのは納得できます。

 

だから映画でこれらの内容が取り上げられていないのは仕方ないことではありますね。

 

でも、コルトレーンは『聖人』ではなく『1人の人間』として様々な悩みを抱えて生きていたんだってことをこのブログを読んで知って頂ければ…と思います。

 

今回この映画を観て初めてコルトレーンの人生に触れたという方に、こういった人間味あるコルトレーンの姿も知ってもらいたいと思いました。

 

さて、映画内ではアリスと結婚してからコルトレーンが歴史的名盤『至上の愛(A Love Supreme)』を制作している時のことにも触れられていました。

 

コルトレーンはこの大作を制作するに辺りおよそ2週間、自宅の部屋にこもって制作をしています。

 

アリスは毎日の食事を用意してコルトレーンを支えていたとこれまでにも様々な本で語られているのですが、今回この映画でアリスがコルトレーンが創り出そうとしていたものに理解を示していたことが語られていました。

 

アリスの娘ミシェルによると、コルトレーンが『至上の愛』の作曲を終えて部屋から出てきた時に大喜びしたと言っています。

 

同じミュージシャンのアリスだからこそ、コルトレーンが成し遂げようとしていたことを理解できたのでしょう。

 

おそらく一般の女性であれば旦那が2週間も部屋にこもっているのを許せるはずがありません。

 

この話を聞けたことは僕にとって今回この映画を観て良かったな~と感じさせる事柄でした。

 

次にコルトレーンの家族以外の主な出演者をご紹介します。

 

この映画に登場する様々な出演者たち

この映画にはコルトレーンの家族だけでなく、コルトレーンに所縁のある人々や影響を受けた人々も登場します。

 

さすがにチャーリー・パーカーにディジー・ガレスピー、マイルス・デイヴィスにセロニアス・モンク等の既に亡くなっているジャズの巨人たちは登場しませんが、彼らと肩を並べる存在であるソニー・ロリンズは登場します。

 

この映画公開時は86歳で、2021年現在は91歳にもなる高齢のロリンズではありますが、今も健在です。

 

かつてはお互いを意識しあったライバルでもあり友人でもあったコルトレーンについて予期想い出と共に語っています。

 

またロリンズと同じサックス奏者の友人としてウェイン・ショーターも登場します。

 

ウェイン・ショーターはコルトレーンのカルテットとはある意味ではライバル関係にあったマイルス・デイヴィスのクインテットのメンバーでしたが、コルトレーンとは友人関係にありました。

 

よくコルトレーンの自宅で2人がサックスの練習を一緒にしていた様です。

 

コルトレーンの方が7歳年上なので、仲の良い先輩後輩といった関係性だったのでしょう。

 

そして全盛期のコルトレーンのバンド『黄金のカルテット』の一員だったピアノ奏者のマッコイ・タイナーも登場します。

 

コルトレーン・カルテットの最後の生き残りとして貴重な出演ではありますが、この映画が公開されてから約4年後の昨年2020年3月に惜しくも還らぬ人となりました…。

 

そう考えるとこの映画の出演は大変貴重なことですね。

 

他にもコルトレーンと共演した経験のあるベーシストのレジー・ワークマンやサックス奏者のジミー・ヒースにベニー・ゴルソンも登場します。

 

残念ながらジミー・ヒースは2020年1月に亡くなりましたが、現在92歳のゴルソンや84歳のレジー・ワークマンは健在です。

 

ジミー・ヒースとベニー・ゴルソンは共にペンシルベニア州フィラデルフィア出身のサックス奏者です。

 

コルトレーンがフィラデルフィアに引っ越してきた時のことを回想していました。

 

物静かな田舎者だったらしいです。

 

またジミー・ヒースはコルトレーンの名盤『至上の愛』2曲目に収録されている”Resolution(決意)“のテーマ・メロディーを初めて聴いた時に感銘を受けた様で、映画内で「この世を去る時に最後に聴きたいメロディー」だと語っていました。

 

昨年1月に亡くなった時にジミー・ヒースの頭の中で”Resolution”のテーマ・メロディーは流れていたのでしょうか。

 

コルトレーンと同時代を生きたミュージシャン達だけでなく、影響を受けた若い世代からもウィントン・マルサリスとカマシ・ワシントンが出演していました。

 

しかしジョシュア・レッドマンが登場しなかったのは意外でした。

 

てっきり出演しているもんだと思っていたんですがね…。

 

同じジャズ・ミュージシャンだけでなく、ロック界からはサンタナとジョン・デンスモア(ザ・ドアーズのドラム奏者)、ヒップホップ界からはコモンが出演しています。

 

ザ・ドアーズのファンの人には有名な話ですが、この映画で本人が語っている様にジョン・デンスモアはジャズ・マニアなんです。

 

コルトレーンのある日のライブを観に行った際にトイレで遭遇したらしいのですが、コルトレーンのオーラの強さに畏れ多くなって声を掛けられなかったことを映画で語っていました。

 

ザ・ドアーズやグレイトフル・デッドもそうなのですが、60年代のサイケデリック・ブーム時代に活躍したロック・バンドの多くがライブで即興による長尺演奏を行っていました。

 

ジョン・コルトレーンの研究家であるアシュリー・カーン著『ジョン・コルトレーン「至上の愛」の真実』にも書かれていたのですが、当時のサイケデリック・ロック・バンドの多くがコルトレーンの長尺演奏からヒントを受けていたようです。

 

 

その中でもグレイトフル・デッドのベーシストだったフィル・レッシュが言うには、当時の音楽好きのヒッピー達は薬物でトリップする際にコルトレーンの『至上の愛』を聴いていた様です。

 

こういった証言を過去にしていたフィル・レッシュにもせっかくだからこの映画に出てほしかったな~と思いました。

 

ちなみにアシュリー・カーン本人もこの映画に出演していました。

 

サンタナもコルトレーン好きで有名ですね。

 

1973年にジャズ・ギタリストのジョン・マクラフリンと共に『Love Devotion Surrender(魂の兄弟たち)』というアルバムで、コルトレーンの曲を取り上げていました。

 

 

そのサンタナが『至上の愛』を聴いた時のことを映画内でこう表現していました。

 

“Like a vortex!”

 

“vortex”=ボルテックスとは「渦」を意味します。

 

周囲を巻き込む旋風の意味もあります。

 

おそらく『至上の愛』を聴いた当時のサンタナは、このアルバムの壮大なテーマに一瞬にして飲み込まれてしまった(=夢中になる)ことを言いたかったのでしょう。

 

彼らの出演によって、ジャズの世界だけにとどまらずロックやヒップホップにまで影響を与えたコルトレーンの偉大さを感じられますね。

 

『コルトレーン――ジャズの殉教者』の著者であり世界最大のコルトレーンのコレクターでもある藤岡靖洋も出演しています。

 

1966年にコルトレーンが来日した唯一の公演についても取り上げられていました。

 

この時の音源は『Live In Japan』としてまとめられているので必聴です!

 

 

コルトレーンが平和への願いを込めて演奏した”Peace On Earth”が特に素晴らしい出来です!

 

ここまででもかなり多くの関係者が出演しているのですが、もう1人大物が出演しています。

 

それはミュージシャンや本の著者ではなく、何ならこの映画内に登場する人物で最も世界的に有名な人物です。

 

ていうかもはや歴史上の人物になることは間違いのないこの人です。

 

そう、第42代アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンです。

 

なんと、米国元大統領まで出演しちゃいました!

 

1993年から2001年に至る2期8年間の任期を務めあげた民主党の大統領です。

 

といっても全く無関係でこの映画に出ているわけではありません。

 

僕がまだ子供だった頃にクリントンは大統領を務めていたのですが、その当時から「趣味でサックスを吹いている」というイメージ作りはプロパガンダのように出回っていました。

 

当時はクリントンがサックスを吹いているイメージ写真をTVでもよく見かけました。

 

その趣味は現職を終えた後も続き、近年でも米国のTV番組で演奏している姿を観ることができます。

 

それではせっかくなのでCNNの公式チャンネルからクリントンがサックスを演奏している動画をご覧ください。

 

子供の頃の僕のイメージとしては、「暑いところ(米国南部)出身でサックスも吹いてチーズバーガーが大好きな大統領」といった印象でした。

 

そこに最終的に「浮気もした大統領」とも負のイメージが付きまといましたが…。(笑)

 

といったわけで、クリントン元大統領がこの映画に出演しているのも全くの無関係というわけではありません。

 

趣味とは言えどもやはりサックス吹きとしてコルトレーンの存在は大きかったのでしょう。

 

以上がこの映画に出演する人々でした。

 

サラりとジョン・コルトレーンを知ることができるコルトレーン入門に最適な映画

ここまでに書いた様にこの映画ではマニアックな内容を知ることはできませんが、「最近ジョン・コルトレーンを聴き始めたからその人となりも知りたいな~」とお考えの方にはとても良い映画だと思います。

 

映画では十分に語られていないことも多々ありますが、そういったディープな内容はこのブログ記事内でもご紹介しましたコルトレーン本を後々読んで頂ければ…と思います。

 

この映画ではコルトレーンの薬物中毒が酷かったことは取り上げていましたが、「あまり知られていないかも知れないがコルトレーンの酒の量も半端ではなかった。」みたいなことも語られています。

 

しかし様々なコルトレーン本で「全盛期のコルトレーンは、ライブ演奏の度に毎晩ウィスキーをボトルのまま飲んでいた。」様なことが記載されています。

 

まるで破滅に向かってひた走るかのようにアルコールを摂取していた様です。

 

といったわけで、この映画の内容だけに留まらず、これからコルトレーンをもっと知りたいという方はそういった本も読んでみてください。

 

ジョン・コルトレーン入門としてこの映画は観ましょう!

 

 

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