2021/03/28
グラント・グリーンも参加したホレス・パーランのブルーノート盤2作品
グラント・グリーンも参加したホレス・パーランのブルーノート盤2作品をご紹介します。
グルーヴィーなジャズ・ピアニスト、ホレス・パーランを聴こう!
前回ご紹介していたオルガン奏者ベイビー・フェイス・ウィレットの時と同じく、グラント・グリーンがサイドマンで参加したブルーノート・レコード盤が2作品存在するミュージシャンがもうひとりいます。
グラント・グリーンも参加したベイビー・フェイス・ウィレットのブルーノート盤2作品
それは、ホレス・パーランというジャズ・ピアニストです。
ホレス・パーランは、1931年1月19日に米国ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれのジャズ・ピアニストで、グルーヴィーなビ・バップ系の演奏を得意とした名手です。
特に1959年のチャールズ・ミンガスの名盤『Mingus Ah Um』に於いての貢献は素晴らしく、ジャズの歴史に於いて重要なジャズ・ピアニストのひとりであることは間違いありません。
ただ、ハービー・ハンコックやシック・コリア等のビッグ・ネームと比べると、やはりよほどジャズ音楽を聴いている人でないとパッと名前が思いつかないであろう知名度の低さは否めません。
何しろ、これを書いている僕も、ミンガスの『Mingus Ah Um』で知ったと言うよりもグラント・グリーン経由でホレス・パーランのことを知ったからです。
僕は自分がギターを弾くため、やはりギターが一番好きな楽器になります。
その中でもブルージーな演奏を得意とするグラント・グリーンとケニー・バレルは、初めて聴いた時から一瞬で好きになりました。
彼ら2人のリーダー作だけでなく、サイドマンとして参加していた作品も、手に入るものはなるべく全て入手するようにしています。
そういった理由から、グラント・グリーンがサイドマンとして参加していた作品を探す過程で、このホレス・パーランを知りました。
ホレス・パーランは、1960年にブルーノート・レコードにて初のリーダー作『Movin’ & Groovin’』をリリース後、当時の未発表アルバムも含めて合計7作品分のリーダー作をブルーノートに吹き込んでいます。
その中でも後期にあたる6作目『Up And Down』と7作目『Happy Frame Of Mind』の2作品には、サイドマンでグラント・グリーンが参加していました。
もちろんジャズ・ギター好きの僕は、その2作品が特に好きなので、今回このブログ記事にてご紹介したいと思いました。
それでは順番に2作品をご紹介したいと思います。
Horace Parlan – 『Up And Down』
1961年6月18日に録音されたホレス・パーランにとって6作目のリーダー作となる『Up And Down』です。
この作品は、ギタリストのグラント・グリーンを始め、テナー・サックス奏者のブッカー・アーヴィンやベース奏者のジョージ・タッカーにドラム奏者のアル・ヘアウッドが参加したクインテット形式で録音されています。
アル・ヘアウッドを除く3名のサイドマンも、皆1曲ずつ本作にオリジナル曲を提供しています。
まず1曲目の”The Book’s Beat”は、。タイトル通りにブッカー・アーヴィンのオリジナル曲になります。
ブッカー・アーヴィンとグラント・グリーンのユニゾンによるキャッチーなイントロから始まり、グルーヴィーなハード・バップ曲が軽快なテンポで展開していきます。
今の時代に聴くと多少の古さは感じはしますが、しかし「これぞ60年代ブルーノートのジャズ!」と言いたくなるような外れのない曲調です。
ファースト・ソロを吹くブッカー・アーヴィンに続いて十分にタメを効かせてソロを弾くグラント・グリーンは、当時デビューしたばかりの新人ギタリストとは思えぬ落ち着き振りです。
ギター・ソロの後に続くホレス・パーランのピアノ・ソロも、先にソロを弾いていたグラント・グリーンのフレーズをなぞるかのようにスタッカートを上手く効かせたグルーヴィーな演奏です。
アルバム・タイトルにも選ばれた2曲目”Up And Down”は、ホレス・パーラン自身のオリジナル曲です。
こちらも時代を感じさせるハード・バップ曲ではありますが、まるで同じファースト・ネームを持つホレス・シルヴァーのようなファンキーなタッチでコンピングを弾くパーランが最高です♪
特に、堂々とサックスで歌い上げるブッカー・アーヴィンのソロのバックで鍵盤の上で指を踊らせる小刻みなパーランのコンピングは、聴くものをジッとさせないようなスリリングな演奏です。
ソロも素晴らしいのですが、パーランのグルーヴィーなコンピングにこそ耳を傾けたい演奏ですね。
CD化の際には別トラックも収録された3曲目”Fugee”は、ベーシストのジョージ・タッカーのオリジナル曲です。
曲のテーマ部分での、ブッカー・アーヴィンのサックスをメインに、ユニゾンで合わせつつ時にタイミングをズラしてオブリ風の合いの手を入れるパーランのピアノ演奏が印象に残ります。
2分57秒で聴くことが出来るグラント・グリーンのギター・フレーズは、何度も出てくる定番の手癖フレーズです。
グラント・グリーンと言えばこのフレーズ!と言えるもので、この1~2弦の4カ所を用いたペンタトニック・スケールのポジションは、B.B.キングもよく用いていたポジションになります。
ていうか、ブルージーな演奏をしようと思うと、大体のギタリストがこのポジションを弾いてしまう定番中の定番でもありますね。
同じ4つの音でも、弾く人のニュアンスや弾く順番、そしてタイミングによって全く異なったフレーズのように聴く得るのが、音楽の不思議でもあり、面白さでもあります。
そういったニュアンスの違いが、ミュージシャンそれぞれの個性に繋がっているんですね。
4曲目”The Other Part Of Town”は、そのグラント・グリーンのオリジナル曲になります。
グラント・グリーン好きであれば、この面子の中でこの曲が一番グラント・グリーンぽい曲だな~と気づいてしまうようなモロなジャズ・ブルース曲です。
頻出パターンのジャズ・ブルース曲ではありますが、やはりグラント・グリーンが一番輝くのは、こういったブルース調の楽曲ですね。
2分43秒から約20秒間、お馴染みのシーケンス・フレーズも登場します。
グラント・グリーンと言えば、このしつこい繰り返しフレーズですからね。
5曲目”Lonely One”は、ジャズ・シンガーのバブス・ゴンザレスがビリー・ホリデイに捧げて書いた美しいバラード曲です。
ブッカー・アーヴィンの哀しみを帯びたサックスのロングトーンが心に染みます…。
アルバム最後の”Light Blue”は、トミー・タレンタインの楽曲です。
弟のスタンリー・タレンタインと同じく、トミー・タレンタインの書く楽曲もやはりブルージーな哀愁を帯びた曲調ですね。
このアルバム参加メンバーも、こういったブルージーなジャズを得意とする者ばかりです。
捨て曲は一切ないものの、逆に目立った名曲が収録されていないため「知る人ぞ知る」存在のアルバムではありますが、60年代ハード・バップの良作のひとつとして聴いてみると良いかと思います。
Horace Parlan – 『Happy Frame Of Mind』
1963年2月15日に録音されておきながら、ブッカー・アーヴィン名義の未発表アルバムとして1976年に陽の目を見るまで世に出回らなかったいわくつきのアルバムです。
ホレス・パーラン名義による現在のジャケット・デザインでリリースされたのは、その後10年が経った1986年になってからです。
とは言ったものの、そういった内容は音楽を聴く上では特に関係のない話題でしかないと僕は考えています。
僕自身は、コレクターではなくリスナーであり、自身でも楽器を演奏するプレイヤーなので、こういったコレクター関連の話題には疎かったりします。
コレクションしても、中身をしっかりと聴いていなければ僕に取っては価値のないことではありますので…。
それに本作『Happy Frame Of Mind』も、今となってはパーラン名義で入手することは比較的容易になっています。
CD盤が手に入らなくっても、デジタル音源で安価で購入することも出来ますからね。
僕のこのブログでは、オリジナルのレコード盤と違い、自分の持っているCD盤やデジタル音源の曲順でご紹介している場合がほとんどなのは、そういった理由からです。
僕に取っては中身の音楽が大事であって、オリジナルの曲順やいつ発売されたのか?などは、そこまで気にならない情報ではありますのであしからず…。
さて、本作『Happy Frame Of Mind』にも引き続きグラント・グリーンが参加しています。
もちろん一時期はブッカー・アーヴィン名義でリリースされていたこともあり、フロントを張るのはそのブッカー・アーヴィンになります。
こちらのアルバムには、更にもう一管、ジョニー・コールズのトランペットも参加しています。
ベースはブッチ・ウォーレンで、ドラムはビリー・ヒギンズと『Up And Down』から大きく参加メンバーが代わっています。
1曲目”Home Is Africa”は、サン・ラ・アーケストラの活躍で知られるロニー・ボイキンスが書いた曲です。
元がベーシストが書いた曲だけあって、ヒプノティックなベースのリフが印象的な楽曲です。
僕の勝手な思い込みかも知れませんが…相変わらずジョニー・コールズは弱々しいトランペット演奏をするな~って…。
なんとなく自信なさそうに吹いているように感じるのがこのジョニー・コールズというトランペッターです。
ジョニー・コールズがその後70年代になってからメイン・ストリーム・レコードで吹き込んだジャズ・ファンク作品なんかも、収録曲の内容は素晴らしいのに、いかんせんリーダーのジョニー・コールズの力量不足をいつも感じてしまいます。
正直、僕はあまり好きなトランペッターではありません。
コールズの後に続く、ブッカー・アーヴィンの堂々としたサックス・ソロの方が聴いていて、より心が躍らされます。
まるでフィリー・ジョー・ジョーンズのようなドラムのイントロで始まる2曲目”A Tune For Richard”は、ブッカー・アーヴィンのオリジナル曲です。
よくあるパターンのハード・バップ曲ではありますが、60年代ブルーノートと言えばまだまだこういったハード・バップがお買った時代でもありますからね。
相変わらずジョニー・コールズが自信なさそうにソロを吹いてはいますが…そのバックでグルーヴィーなコンピングを弾くパーランに助けられています。
グラント・グリーンはというと、こういったアップテンポなハード・バップはお手の物!といった感じで、勢いよくギター・ソロを弾いています。
3曲目”Back From The Gig”は、ホレス・パーランのオリジナル曲で穏やかなテンポが心地良い楽曲です。
ジョニー・コールズはテーマを吹くのみでソロを演奏していません。
なので、この曲は心地良く聴くことが出来ます。(笑)
4曲目”Dexi”は、そのジョニー・コールズが書いたモーダルなジャズ曲です。
演奏はともかく…なかなか良い曲を書くのですね。
しかし開始37秒で聴ける調子を外したトランペットの音色はなんとも不快に感じてしまいます…。
同じようによく調子を外すマイルス・デイヴィスとは違って、ジョニー・コールズの方は自信がなさそうに吹くから、単に下手だと感じてしまうんだと思います。
マイルスは調子外れの時でも堂々としていますからね!
しかし作者のジョニー・コールズ以外の3名のソロイスト、ブッカー・アーヴィンにホレス・パーランにグラント・グリーンのソロは本当に素晴らしいので、そちらに集中して聴くようにしましょう!
5曲目”Kucheza Blues”は、ランディ・ウェストンが作曲した「ウフル・アフリカ組曲」のパート4にあたる楽曲です。
流麗なイントロのピアノから始まり、2管によるユニゾンのテーマ、そしてグルーヴィーなパーランのピアノ・ソロ、堂々とサックスを吹き上げるブッカー・アーヴィンまでは最高の出来です!
ジョニー・コールズの自身なさげなソロが始まると…次の曲にステップしたくなってはしまいますが…。
アルバムの締めくくり6曲目”Happy Frame Of Mind”は、曲名通りにハッピーで明るいテーマ・メロディーを持ったホレス・パーランのオリジナル曲です。
テーマ終わりにさっそく登場するグラント・グリーンのソロが聴きものです。
グラント・グリーンって、それこそB.B.キングのようにいつもワンパターンなフレージングを用いてギター・ソロを弾くのですが、なぜか聴き飽きない魅力を持っています。
B.B.キングも、「それってキーが違うだけで、他の曲でも弾いていたフレーズだよね?」と感じてしまうワンパターンなフレーズばかりなのですが、聴く者を咲きさせない説得力を持っています。
それは、彼らの演奏が、全く同じフレーズでも、彼ら自身にしか出すことが出来ないニュアンスを持っているからです。
例えば同じギター弾きの僕がグラント・グリーンやB.B.キングの手癖フレーズを弾くのは、そこまで難しいことではありません。
しかしこの2人のように、まるで歌手が歌っているかのような歌心溢れるニュアンスを出すのは、不可能に近いです。
僕の場合は、ただフレーズをなぞっているだけになりますが、グラント・グリーンやB.B.キングの場合は、自分たちが歌手になったかのように感情を込めて弾いているからなのですね。
楽譜では表すことが出来ないこういった感情の部分を弾きこなすことが出来るのが、グラント・グリーンというギタリストの一番の魅力であると言えます。
そこにはワンパターンなどという批判を一蹴してしまう説得力があります。
しかしこのアルバムが録音から13年も未発表のままだったのは、ジョニー・コールズのトランペットがいまいちだったから?と勘ぐってしまいそうになります。
多分、もっと違う理由だろうけれども…。(笑)
以上、【グラント・グリーンも参加したホレス・パーランのブルーノート盤2作品】でした。
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