2018/11/12
グラント・グリーンのジャズファンク期の名盤『Green Is Beautiful』を聴こう♪
後期グラント・グリーンのジャズファンク期を代表するアルバム
ブルーノート・レーベル復帰第二弾『Green Is Beautiful』
前回のブルーノート・レーベル復帰第一弾となった1969年リリースの『Carryin’ On』に引き続き、今回は1970年にリリースされた復帰リーダー作第二弾の『Green Is Beautiful』をご紹介します。
ブルーノート・レーベル復帰までの道のりは、前回のブログ記事【後期グラント・グリーンのジャズファンク道はここから始まった!『Carryin’ On』のご紹介です♪】をご覧になって下さい。
後期グラント・グリーンのジャズファンク道はここから始まった!『Carryin’ On』のご紹介です♪
このアルバムにはオルガン系ジャズファンクを代表するような名曲”Windjammer”のオリジナルスタジオ録音が収録されているので、同ジャンルの音楽が好きな方は必聴のアルバムとなっています!
それではさっそくご紹介したいと思います。
Grant Green – 『Green Is Beautiful』
01.Ain’t It Funky Now
02.A Day In The Life
03.The Windjammer
04.I’ll Never Fall In Love Again
05.Dracula
Personnel:
Grant Green – Guitar
Claude Bartee – Tenor Saxophone
Blue Mitchell – Trumpet
Emanuel Riggins – Organ
Earl Neal Creque – Organ on Track 03
Jimmy Lewis – Bass
Leo Morris (a.k.a Idris Muhammad) – Drums
Richard Lendrum – Bongos
Candido Camero* – Congas
Recorded January 30, 1970.
Blue Note:4342
名盤『Green Is Beautiful』について
僕はこのアルバムの収録曲のみならずタイトルからジャケットデザインまで全てが好きなので紙ジャケCDで購入しました。
とても大切にしています。
それぐらいジャズファンクの名盤として素晴らしい作品だと思うからです。
1969年にブルーノート・レーベルに復帰してからのグラント・グリーンは、それまでのようにチャーリー・パーカーやジョン・コルトレーンなどが書いたストレートなジャズ曲をカヴァーすることがなくなりました。
復帰一作目の『Carryin’ On』からミーターズやジェイムス・ブラウンなんかのR&Bやファンク系の曲を多く取り上げるようになりました。
この時期はビートルズやローリング・ストーンズなどの台頭でジャズよりもロックが音楽シーンの主流となったことに関係があります。
そういった時代背景もあってそれまでのようにストレートアヘッド名ジャズを演奏しても作品が売れなくなっていました。
ジャズマン達は、こぞって当時のヒットチャートを賑わした曲をカヴァーするようになりました。
例えばルー・ドナルドソンなんかは、この時期にこういったR&Bやファンク系の曲を演奏していたのはレコード会社の意向で仕方なくやっていた……と後に語っていました。
多くのジャズマンは、本来やりたいはずのジャズの曲を録音できずやきもきしていたことでしょう。
しかし家では普段からジャズ以外のブラックミュージックを進んで聴いていたという息子の証言があるように、グラント・グリーンはおそらくこういったR&Bやファンク系の曲を喜んで演奏していたんじゃないのかな?と想像に難くありません。
というのも、完全にそういった曲をモノにしているからです。
無理矢理やらされてる感を全く感じません。
もし元ネタの原曲を知らなかったとして、初めてこのアルバムを聴いたとしたら「全曲グラント・グリーンの曲?」と感じるかも知れません。
それぐらいグラント・グリーンは、ジャズだけに留まらない幅広い音楽性に対応できる柔軟なギタリストであったと言えます。
また自作曲にも変化が起きていて、過去のジャズブルースやモードジャズ系の曲と違い、前作『Carryin’ On』収録の”Upshot”のようにジャズファンク系の曲を書くようになっています。
しかし残念ながら復帰第二弾の『Green Is Beautiful』には、実はグラントの自作曲は1曲も収録されていません。
全5曲中、プーチョ&ラテン・ソウル・ブラザーズの音楽監督でもあったキーボード奏者のニール・クリーキーの曲が2曲……残り3曲は有名曲のカヴァーになります。
なのに、先ほども書きましたが完全にグラント・グリーンの作品としてなりたっています!
まるでブルースで言うところのマジック・サム の『West Side Soul』みたいですね。
あのアルバムもマジック・サムの自作曲は1曲も収録されていないのに、完全にマジック・サム印のアルバムに仕上がっていますからね!
カヴァー曲でも自分色に染め上げて演奏できるミュージシャンを僕は尊敬しています。
ちなみにアルバムタイトルの『Green Is Beautiful』なのですが、昨年発売されたばかりのザ・ニュー・マスターサウンズの新譜『Renewable Energy』に収録されていたかっこいい新曲 “Green Was Beautiful”の元ネタになりますね。
グラント・グリーンの楽曲の中に”Green Is Beautiful”という曲は存在しないのですが、ザ・ニュー・マスターサウンズが新曲“Green Was Beautiful”で本作のアルバムタイトルから名付けたであろう事は容易に想像できます。
実は2016年辺りから毎年恒例で、ザ・ニュー・マスターサウンズのギタリストのエディー・ロバーツとソウライヴのドラム、アラン・エヴァンスが中心となってジャズファンク期のグラント・グリーンの曲を演奏する《Green Is Beautiful》というライヴイベントがアメリカでは行われています。
もちろんこのイベント名もアルバムタイトルの『Green Is Beautiful』から名付けられています。
残念ながらこのイベントはアメリカでのみ行われていますが、ぜひとも日本でも開催して欲しいですね!
僕にそんな力はないのですが……もしこのブログを見て下さったやり手のプロモーターの方がいらっしゃいましたら、エディー・ロバーツかアラン・エヴァンスにコンタクトを取って「日本の音楽ファンもこのブログ書いてる暇人みたいにグラント・グリーン好きがいるんですよ!」と伝えて《Green Is Beautiful》の開催を促してみて下さい。(笑)
そして本作収録の名曲”Windjammer”や”Dracula”を生で演奏しているところを観てみたいです!
さて、そんな冗談半分の僕のわがままな希望はほっといて(?)アルバムの曲紹介にいきましょう。
アルバムの内容
全5曲と収録曲の数は少ないですが、それぞれ5分を超える長めの楽曲ばかりです。
特に冒頭2曲は、どちらも約9分ある長尺曲になっています。
しかし聴く者を退屈させない素晴らしい演奏が聴けます♪
まず1曲目の”Ain’t It Funky Now”は、ジェイムス・ブラウンのアルバム『Ain’t It Funky』に収録されていた名インストファンク曲です。
ジェイムス・ブラウンのように”Ain’t It Funky Now♪”という掛け声こそありませんが、グラント・グリーンのバージョンもほぼオリジナル通りにカヴァーしています。
その代わりギターソロを弾きまくっています!
マイナーペンタトニック・スケールを中心に、ブルージーな♭5th音を交えてシンプルでメロディアスなギターソロを展開しています。
またこれまでのグラント・グリーンであれば、他の楽器陣がアドリヴソロを弾いている間はバッキングをせずに無音状態で待機していました。
これには訳があって、グラント・グリーンは自身をサックスやトランペットのようなリード楽器と捉えていたようです。
なのでホーンライク(サックスのような)なシングルノート(単音)のみでギターソロを弾くことがほとんどでした。
そういったことを知らない人によっては、「グラント・グリーンはバッキングを弾けない!」と勘違いされたりするかもしれませんが、グラントはバッキングもちゃんと出来ます!
ていうか、コード理論に強くなかったら”Jean De Fleur”みたいに難解な曲が書けませんからね。
実は過去にもオルガンジャズ系の作品に客演する場合はバッキングを弾いていました。
そういったわけで、ちゃんとバッキングも弾けるグラントなのですが、確かに自身のリーダー作ではあまりバッキングを弾くことはほとんどありませんでした。
復帰後に演奏スタイルが変化したグラントは今まで以上にバッキングでコードをかき鳴らすようになりました。
この”Ain’t It Funky Now”でもギターソロの後に続くサックスやトランペット、オルガンソロのバックでいつも以上に大きな音でコードカッティングを弾いていたりします。
またこれまでのシングルノート一辺倒から、よりR&B的なダブルストップ(複音フレーズ)のフレーズも多用するようになりました。
そのお陰でよりブラックな感触でアドリヴを弾くようになっています。
ちなみにこのアルバムでグラント・グリーンが”Ain’t It Funky Now”を取り上げたことで、同曲はジャズファンク系の定番曲になりました。
例えば、ザ・ニュー・マスターサウンズのエディー・ロバーツもソロ活動のライヴとかでこの曲をカヴァーしていたりします。
本当にジャズファンクにピッタリの曲です。
グラント・グリーンの選曲のセンスの高さが窺えます。
さて2曲目はウェス・モンゴメリーがカヴァーしたことでも有名なビートルズの名曲”A Day In The Life”です。
原曲もウェスのバージョンも壮大なオーケストラ仕様でしたが、グラントのバージョンはオルガンが奥行きを表現するのみでシンプルにアレンジされています。
歌メロ部分のテーマを弾き終えるとギターソロに突入するのですが、この時期のジャズファンク期にありがちな「ソロが始まるともはや何の曲だったのかわからなくなっちゃう?」「テーマはゆったり弾いてるのにアドリヴソロが始まると一気にジャズファンク!」系です。(笑)
ギターソロを弾き始めると、もはや”A Day In The Life”というよりもグラント・グリーン節のジャズファンクに一気に変化します!
こういったところがカヴァー曲ばかりでもグラント・グリーン印の作品に仕上がる理由なんでしょうね。
とにかく”A Day In The Life”を取り上げたことよりも、アドリヴソロのテンションの高さの方が目立っています!
曲のテーマは単なる象徴であって、この時期のグラントからしたら好きな曲で思う存分ファンキーなギターソロを弾いてやろう!って意気込みだったんじゃないのかな?と思われます。
次の3曲目”The Windjammer”は、このアルバムの目玉曲です。
ニール・クリーキーが書いた曲で、この曲のみニール本人がオルガンも弾いています。
後に白熱のライヴ盤『Live at The Lighthouse』に収録されることになるのですが、そのバージョンとは少しアレンジも違います。
『Live at The Lighthouse』では、テンポも速めで演奏されていますが、『Green Is Beautiful』収録のこのオリジナルバージョンではゆったりとしたテンポで演奏されています。
またテーマ部分の回数も違います。
『Live at The Lighthouse』ではB♭7コードのAパート部分もF7コードのBパート部分もそれぞれ16小節ずつ演奏していますがオリジナルバージョンではその半分の8小節のみです。
ライヴバージョンほどの勢いはありませんが、しかしオルガン系ジャズファンクの名曲であることは間違いありません!
“Jan Jan”と並ぶジャズファンクセッションでの定番曲でもありますね。
曲構成がシンプルなので演奏しやすいんです。
ソロ部分はB♭7一発なので、ギターでもサックスでも、実力さえあればアドリヴソロが延々と弾けます。
誰にでもわかりやすい曲調のジャズファンク名曲ですね♪
次の4曲目の”I’ll Never Fall In Love Again(恋よさようなら)“はバート・バカラックの曲です。
映画『オースティン・パワーズ』でエルヴィス・コステロがカヴァーしていたのが懐かしいですね。
グラントもこの美しいメロディーのバラード曲では、しっかりと歌メロ部分を弾き上げることに徹しています。
先ほどの”A Day In The Life”ほどはジャズファンク化せずに優しい音色で弾き終えています。
最後の5曲目”Dracula”もニール・クリーキーが書いた曲です。
“Windjammer”ほどは知名度のない曲ではありますが、ホーン隊の絡みなどがかっこいいジャズファンクの名曲のひとつでもあります。
おそらくギターだけでも演奏できなくはない”Windjammer”と違って、この曲はホーン隊必須なのでセッションでは取り上げにくい曲なのかも知れませんね。
この曲のみテーマもグラントが弾かずにホーン隊が吹いています。
ソロの順番も、最初にトランペットが吹いて次はサックスがソロを吹きます。
グラントはその間ずっとバッキングに徹しています。
そして3番手でようやくグラントが弾き始めます。
キーD(Bm)の曲で、基本的にはB♭マイナーペンタトニック・スケール+♭5thを用いてシンプルにソロを展開しています。
ちなみに2017年12月の《Green Is Beautiful》イベントでは2曲目に”Dracula”を演奏していました。
その際もテーマを弾くのはエディー・ロバーツではなく、サックス奏者でした。
ギターでテーマ弾いてもおかしくはないのですが、どうしてもこのアルバム収録のオリジナルバージョンのイメージが強いので管楽器が吹いた方が盛り上がる曲ではありますね。
以上、グラント・グリーンのブルーノート・レーベル復帰第二作目の『Green Is Beautiful』でした。
グラントの自作曲こそ1曲も収録されていませんが、捨て曲一切なしの全5曲はジャズファンク好きなら必聴ですよ♪
僕も大好きな作品ですので何度も何度も繰り返し聴いています。
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