
2023/04/30
グラント・グリーンがゲスト参加したアート・ブレイキーのマニアックなリーダー作『Hold On, I’m Coming』を聴こう♪
アート・ブレイキーが1966年にリリースしたリーダー作『Hold On, I’m Coming』をご紹介します。
グラント・グリーンがゲストで参加したマニアックなアルバム
グラント・グリーンとアート・ブレイキーは、1962年に録音されたアルバム『Nigeria』で共演していたことがあります。
そのセッションでは、ソニー・ロリンズの”Airegin”やチャーリー・パーカーの”The Song Is You”にジョージ・ガーシュウィン”It Ain’t Necessarily So”といったジャズの定番曲を演奏していました。
初期のグラント・グリーンの演奏を聴くことが出来るなかなかの名作だったのですが、リアルタイムではリリースされずに1980年になるまでお蔵入りとなっていました。
なので、今回ご紹介するアート・ブレイキーが1966年にリリースしたリーダー作『Hold On, I’m Coming』にグラント・グリーンが参加していたことは、当時のジャズ・ファンからしたら初共演だと感じたのかも知れませんね。
でも今ではグラント・グリーンの『Nigeria』の方が有名になりました。
グラント・グリーンの多くのファンは、『Nigeria』のことは聴いたことがあるかと思います。
しかし今回ご紹介する『Hold On, I’m Coming』のことは知らなかったというジャズ・ファンは、そこそこいるんじゃないかな~?と思い、このブログでご紹介しようと思いました。
Art Blakey – 『Hold On, I’m Coming』
本作『Hold On, I’m Coming』は、マーキュリー・レコードの子会社にあたるライムライトというレーベルから1966年9月にリリースされました。
全11曲が収録されたアルバムです。
録音は1965年5月12日と1966年5月27日に行われています。
1年の間が空いていますが、アルバム最後の11曲目のみが1965年のセッションで、残りは1966年のセッションで録音されています。
1965年のセッションにはグラント・グリーンは参加していませんが、それ以外の10曲には全て参加しています。
ただグラント・グリーンは、あくまでもサイドマンでリーダーではないので長尺のギターソロは弾いていないです。
ほとんどの曲でちょっとだけギターソロを弾いている程度で、なんならギターソロを弾いていない曲もあります。
あくまでバッキング要員としての参加です。
むしろ自身のリーダー作ではほとんどバッキングをすることがないので、本作でのグラント・グリーンのバッキングを聴けることは珍しいことでもあります。
そもそもこのアルバムの存在自体が「知る人ぞ知る」レベルのマニアックなアルバムなのですがね…。
グラント・グリーンを特集した雑誌でも取り扱ってるのは目にしたことがほぼない程です。
その理由の1つとして、本作は60年代のR&Bやロックのヒット曲を取り上げたアルバムだからというのがあるでしょう。
純粋なジャズ・ファンからしたら「軽い作品」と感じるのかも知れません。
アート・ブレイキーに求めているのは、もっと激しいバップか曲なのでしょう。
しかしそもそもジャズは、昔から流行り歌や映画音楽を演奏するジャンルでした。
それなのにR&Bやロックのヒット曲を取り上げるのは「軽い」と判断することこそ、その歴史を軽視した「軽々しい物の見方」だと言えなくもないでしょうか!?
良い音楽なら題材なんて、何でもいいでしょう!
そういったわけで、本作は決して悪い作ではありません。
むしろグラント・グリーンにはこういったキャッチーな楽曲の方が合っている気もします。
だからこそ本作の録音にあたってグラント・グリーンを起用したのでしょう。
ちなみに前半4曲にはチャック・マンジョーネも参加しています。
とは言っても、数いるホーン隊の一員としてですが…。
1曲目は、フォーク・ロック・バンドのラヴィン・スプーンフルの曲”Daydream”で始まります。
メインの歌メロはトロンボーン奏者のガーネット・ブラウンが吹いています。
ホーン隊が豪華なのでグラント・グリーンのバッキングは音が小さくって聞こえづらいですが、短いながらもギターソロは弾いています。
タイトル・トラックの2曲目” Hold On, I’m Coming”は、アイザック・ヘイズ作のサム&デイヴの有名曲です。
メインのテーマは、チャック・マンジョーネとテナーサックス奏者のフランク・ミッチェルがユニゾンで吹いています。
グラント・グリーンは、サビ部分ではちょっとしたオブリガード(合いの手)を弾いていますが、基本はコード・バッキングに徹しています。
3曲目”Secret Agent Man”は、ジョニー・リヴァースが歌ったスパイ系のTVドラマ『デンジャー・マン(米国ではシークレット・エージェント)』のテーマ曲です。
本作リリース時の1966年に全米3位を記録したヒット曲でもありました。
お馴染みの「あのイントロ」を弾くグラント・グリーンのギターが聴けます。
テーマはトランペットとサックスのユニゾンによるものですが、バッキングでノリに乗っているグラント・グリーンはどこか楽しげに聞こえます。
ギターソロも「こういったマイナー調の曲のソロ演奏は大の得意!」と言わんばかりにブルージーに弾きこなしています。
アート・ブレイキーはこういったキャッチーなドラミングも出来るんだな!って驚きます。
4曲目”I Can’t Grow Peaches On A Cherry Tree”は、チップ・ティラーとアル・ゴーゴニによるデュオ、ジャスト・アスの1966年のヒット曲「桜の木に桃はならない」のカバーです。
チャック・マンジョーネがメインのテーマを吹いており、グラント・グリーンのギターソロも登場します。
ちなみにこの曲は、ナンシー・シナトラも歌っていました。
5曲目”Walking My Cat Named Dog”は、パナマ人とフィリピン人のハーフの女性シンガーソングライターのノーマ・タネガが1966年にヒットさせた曲です。
当時流行りのフォーク・ソングのカバーが多いのも本作の特徴です。
この曲では、メインの歌メロ部分をグラント・グリーンがギターで演奏しています。
6曲目”Sakeena”は、本作唯一のアート・ブレイキーの自作曲です。
そのためイントロはドラムのソロ演奏で始まります。
曲が始まってしまえば、当時流行りのオルガン系ソウル・ジャズでした。
これまたグラント・グリーンのお得意な曲調なので、ギターソロも長めに弾いています。
グラント・グリーン・ファンとしては、この曲が一番の聴き所です♪
7曲目”Got My Mojo Working”は、マディ・ウォーターズの代表曲にしてブルースの定番曲です。
この曲もジミー・スミスが取り上げていたり、ジャズでも演奏される名曲です。
実はアート・ブレイキーもモジョ・ワーキンをやっていた!というのを知っている人は少ないかも⁉
先にも書きましたが、「純粋なジャズ・ファン」を気取る人こそ、こういったポップな作品を知らなかったりしますからね。
変な偏見を捨てて何でも聴くに越したことはないです。
得意のブルース曲で活き活きとしたグラント・グリーンのブルージーなギターソロも聴けます♪
8曲目” Mame”は、ルイ・アームストロング(サッチモ)の「ハロー・ドーリー!」でも知られる作曲家ジェリー・ハーマンが書いたブロードウェイの曲です。
本作ではサッチモ役をチャック・マンジョーネがこなしています。
グラント・グリーンのギターソロも登場するのですが、なぜか音が小さいです。
ちなみにサッチモとは、”satchel mouth(サッチェル・マウス)“=「口の大きな人」から付けられたルイ・アームストロングの呼び名です。
9曲目”She Blew A Good Thing”は、ソウル・バンドのザ・ポエッツの1966年のヒット曲です。
アート・ブレイキーが「ダダダダダダッ!」と60年代ソウル風のドラミングをしている珍しい演奏を聴くことが出来ます。
10曲目”Monday, Monday”は、ママス&パパスの1966年のヒット曲です。
残念ながらこの曲では、ホーン隊がメインの歌メロを吹いていてグラント・グリーンはバッキングに徹しています。
最後の方でギターソロがちょっとだけ登場するのですが、そのままフェードアウトしてしまいます。
11曲目”Slowly But Surely”は、ジャズ・ピアニストのジョン・ヒックスが書いた曲です。
この曲のみ1965年に録音されており、作曲者のジョン・ヒックスとアルトサックス奏者のゲイリー・バーツとトランペットのフレディ・ハバードとリー・モーガンが参加しています。
これは当時のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのメンバーで、ゲイリー・バーツの録音デビュー作ともなった1965年のアルバム『Soul Finger』のセッションで録音された曲です。
アルバム最後は、ジャズらしい曲で締めています。
以上、【グラント・グリーンがゲスト参加したアート・ブレイキーのマニアックなリーダー作『Hold On, I’m Coming』を聴こう♪】でした。
グラント・グリーンがゲスト参加したアート・ブレイキーの珍しいアルバムということで、気になる方はぜひ聴いてみて下さい♪
当時のヒット曲をインストでカバーした好盤です。
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