2019/01/04
コーネル・デュプリー本人の模範演奏も収録したギター教則本『Rhytmn & Blues Guitar』をご紹介します。
名セッション・ギタリストのコーネル・デュプリー本人が模範演奏を収録したギター教則本『Rhytmn & Blues Guitar』
前回のブログ記事で少しだけご紹介していたコーネル・デュプリーのギター教則本をご紹介したいと思います。
初版の発売は2001年8月10日と、少し古い本にはなりますが掲載されているギターフレーズなどは普遍的なものですので、今から学んでも十分に使えるフレーズばかりです。
それではさっそくご紹介したいと思います。
Cornell Dupree -『Rhytmn & Blues Guitar』
この教則本の最大の特徴
まずこの本の最大の魅力として、コーネル自身がギターを弾いた模範演奏が収録されたCDが付属していることです。
どのトラックも、コーネル以外はベースとドラムだけのシンプルな編成で演奏されています。
基本的に左CHにコーネルが弾くリードパートのギターが収録されていて、右CHにコーネルが弾くリズムパートのギターがオーバーダブされています。
そして本の中に、それらの両方のパートのタブ譜が掲載されています。
タブ譜に関しては、海外の教則本に多く見られる「いい加減」な採譜が掲載されています。(笑)
必ずしも完璧な譜面が必要なのか?について
ただ、僕個人としては完璧な譜面が掲載されている教則本だけが一概に良いとは言えないと思います。
完璧が求められるクラシック音楽でしたら、そういった一切間違いのない完璧な譜面が不可欠だとは思うのですが……
譜面では表現できない絶妙なリズムや自由度の高いアドリヴ演奏が求められるジャズやブルースなんかのブラック・ミュージック系だと「耳コピ」をしてニュアンスを学ぶことの方が重要になってきます。
たまに「海外の譜面はいい加減だからな~。」と理由もなく言う人を見かけるのですが、僕が思うに物は考えようで一概に「これはダメであれはダメ!」と否定だけするのは良くない考え方だと思います。
完璧な譜面はクラシック音楽などのジャンルには不可欠だと思いますが、今回のようなブルースやR&Bのようなニュアンスを大事にするような音楽ジャンルの場合は、譜面も「なんとなく」で良いと僕は思います。
それよりも付属のCDをしっかりと聞いてニュアンスを学ぶことの方が遙かに重要です。
僕のこの教則本の使い方もそういった感じです。
最初こそ譜面を見てタブ譜をなぞって練習しましたが、そのうちCDを「耳コピ」して真似するようになりました。
そして慣れてくると譜面に頼らずに、自分で考えたフレージングをCDのバッキングに合わせて弾いてみる練習になっていきました。
ブルースやR&Bのようなニュアンスが大事なジャンルでは、教則本に記載されたフレーズを完コピするだけではダメだと思います。
こういったジャンルの音楽を演奏するからには、特にギタリストはアドリヴ演奏を求められます。
ブルースやR&Bを演奏するようなセッションに行って、譜面通りの完璧な演奏が出来ることはまずないと思います。
しかも教則本通りのフレーズを演奏しても、セッションで咄嗟に使える可能性は極めて低いです。
それにそういったフレーズはすぐに引き出しがなくなってしまいますし、フレーズ同士の繋がりのないぎこちないギターソロになりがちです。
「それなら教則本なんていらないじゃん?」……となりそうですが、それは生まれつき才能がある一部の方だけだと思います。
この教則本の効果的な使い方
例えば僕自身の例で言いますと、僕には生まれついて備わっていた「ギター演奏の才能」は全くありませんでした。
いきなりアドリヴでギターソロを弾けるような突出したメロディ・センスなんて全くありませんでした。
「耳コピ」出来るようになるまで、かなりの年数が掛かりました……。
しかしこの「耳コピ」や「相対音感」を鍛えれたのは、こういった教則本を使って自分なりにアイデアを練っていったからです。
色んな教則本を学んでいくと、「パターン」が見えてきます。
ジャズにしてもブルースにしてもR&Bにしても、元を辿れば同じブラック・ミュージックなのです。
ずっとやっていくうちに必ず同じような「パターン」が登場します。
そうなってくると「耳コピ」する際にも、「あ!これってもしかしてあの教則本に載っていたあのフレーズを少し変えると弾けるんじゃないかな?」ということに気がつきます。
僕の場合はそうやってフレージングを「パターン」化して身につけていきました。
こうやって「パターン」を学んで、更に自分自身のアイデアも混ぜ込んで自分のフレーズに昇華していくのは、完コピするよりも大事なことだと思います。
完コピしたフレーズって、それって「誰かのフレーズ」だと思うのです。
「自分のフレーズ」ではない「誰かのフレーズ」をセッションでアドリヴ演奏するなんて、よっぽど才能のある天才ミュージシャン以外は難しいと思います……。
しかし僕のような才能のないギタリストでも、「自分のフレーズ」に昇華したものはアドリヴで弾けるようになっていきます。
もちろんこの「自分のフレーズ」というのは、元を辿れば「誰かのフレーズ」なのですが、ここで言うのは「誰かのフレーズ」を何も変えずに「そのまま」弾くことではいけないということです。
必ずこういった教則本で、コーネル・デュプリーのフレージングやニュアンスを学び、それだけでなく他の教則本で学んだフレーズや自分で考えたフレーズを混ぜて、「自分のフレーズ」に昇華することが大事だと思います。
その「自分のフレーズ」に昇華するためには、こういった教則本を多く学ぶ必要があるということです。
そういったわけで「完璧な譜面」の必要性はあまりないと思います。
「耳コピ」で迷った時に譜面を確認して「あぁ、こういう弾き方もあるんだな~」程度で良いと思います。
何もその弾き方だけが正解ってわけではないですからね。
ギターという楽器はオクターヴ違いの音色を簡単に弾ける便利な楽器です。
なので、もっと柔軟な考え方をして「譜面にはこう記載されているけれども、自分ならこう弾いた方が弾きやすい、もっとかっこよく弾けるんじゃないかな!」というやり方が良いと僕は思います。
と言ったわけで、こういう模範演奏が収録されたCD付きの教則本は特におすすめです!
コーネルのフレーズを完コピするだけじゃなくって、コーネルのバッキングに合わせて自分なりのギターソロを弾いてみたり、もしセッションで複数人ギタリストがいた場合を仮定して、メインのリズムギターと被らないリズムパートを考えてみたり、コーネルのリードギターの隙間にオブリガート・フレーズを弾いてみたり……アイデアは使う人次第でいくらでも広がっていくと思いますよ♪
本に掲載された内容
さて、この本にはコーネル自身の解説による様々な内容が掲載されています。
まずはコーネル本人が語ったバイオグラフィーが掲載されています。
ギターを始めたきっかけや、ビリー・バトラーからの影響、そしてキング・カーティスのバンドに参加するに至った経緯など、とても興味深い内容ばかりで、もはやコーネルの自伝といったところでしょうか。
その章が終わると、早速ギターの教則に移ります。
Playing the Blues
まずはコーネルのギターのルーツとでも言うべきブルースの模範演奏が4曲収録されています。
それに伴い、コーネル自身が弾いているブルース・コードの押さえ方や、ブルース・スケールのポジションも掲載されています。
まずは模範演奏のCDに併せて、これらのコードとスケールを使って弾いてみると良いです。
ちなみにブルースの4曲は下記のタイトルで収録されています。
●J.R.Shuffle
●Plain Ole’ Blues
●Swing Shuffle
●Minor Blues
“J.R.Shuffle”は、ジミー・リード風のブギー・シャッフルです。
コーネルの弾き方を聴いていると、彼の特徴的な「リードを弾きながらリズムも同時に弾く」感じが伝わってきます。
バッキングを無視してスケール音を弾きまくるのではなくって、ちゃんとバックのリズムに合わせてコード音を弾くことで、リードギターなのにリズムギターと呼応した演奏が出来ています。
こういう弾き方をすることによって、もし最悪リズムパートの演奏がなくなっても「リードギターだけでも音楽として成立」させることが出来ます。
コーネル自身も本書で語っているのですが、コーネルが名セッションマンに慣れたのは、こういった「リードを弾きながらリズムも同時に弾く」ことが出来たからのようです。
やはりバックの演奏を無視した独りよがりの演奏は良くないですよね……。
“Plain Ole’ Blues”の方は、T-ボーン・ウォーカーの定番曲”Stormy Monday”風のスロー・ブルースです。
前回ご紹介していたコーネルの最期の作品『Doin’ Alright』の11曲目に収録されていた”CL Blues”とほぼ同じ演奏です。
ギターソロの弾き方も似ているので、これがコーネルにとっての「パターン」なのだと思います。
“Swing Shuffle”は、テキサス出身のブルースマンが得意とするスウィング・シャッフル系の楽曲です。
どことなく、スティーヴィー・レイ・ヴォーンのようなスタッカート気味のリズムギターが印象的です。
コーネルのリズム感の良さが見事に表現された模範演奏です♪
“Minor Blues”は、アルバート・キング風のマイナー・スロー・ブルースです。
ギターをシンガーのように歌わせるような表現力が重要となる曲調ですね。
Rhythm & Blues Guitar
ブルース4曲が終わると、次はR&B系の模範演奏が2曲収録されています。
R&Bで使用するコードや、コーネルお得意の6度音程のダブルストップのポジションも、コーネル自身の解説付きで掲載されています。
●Soul Dance
●Soul Lullaby
このR&Bパートの2曲はどちらもキング・カーティスのバンドでコーネルが弾いていた曲調です。
“Soul Dance”の方は、まるでブッカー・T&ザ・MG’sのギタリストだったスティーヴ・クロッパーも弾きそうな感じの曲調です。
この曲ではリードパートの音は入っていなくって、ギターの音は右CHのリズムパートのみです。
しかし単に同じパターンを延々と弾いているだけではなくって、小節が変わるごとに弾き方を変えています。
こういったコーネルのリズムギター時のニュアンスを学ぶのに最適な模範演奏だと思います。
次の”Soul Lullaby”は、コーネルお得意の曲ですね。
元はアレサ・フランクリンのバックやガッド・ギャングでも演奏していた”Soul Serenade”という曲です。
コーネルの特徴的な6度音程のダブルストップの使い方を学べる曲です。
Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ Changes
R&Bパートの次に1曲だけ掲載されている模範演奏がこの「Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ Changes」パートです。
俗に言う「イチロクニーゴー」という定番のコード進行のことです。
ダイアトニック・コードの1番目のトニックとなるコードから始まって、次に6度上のコードに行き、ジャズでお馴染みの2度→5度という「ツー・ファイヴ」のサブ・ドミナント→ドミナント・コードを経由してまたトニックに戻るお決まりのパターンです。
日本では「イチロクニーゴー」という呼び方で有名です。
コード進行に著作権はありませんので、世界中のあらゆるポップソングやR&B系の曲でこのコード進行が見られます。
コーネルの書いている本書によると……アメリカのミュージシャン達の間ではこの「イチロクニーゴー」のことを「アイスクリーム・チェンジ」と呼ぶらしいです。
これは僕も本書を読むまで知りませんでした……。
なのでこの曲のことも”Ice Cream”という曲名で収録されています。
ポップミュージックやフュージョン系の曲でどのようなギターを弾くべきか?が学べるトラックになっています。
ここでの収録曲はキーCで演奏されています。
なので、ギターソロはCメジャー・スケール=「ドレミファソラシド」だけで弾くことが可能です!
難しい「なんちゃらかんちゃらドミナント・スケール」とか一切必要ありません!(笑)
最もシンプルな「ドレミファソラシド」だけを使って、自分の好きなようにギターを歌わせましょう♪
Funk Part
そして最後にファンクの模範演奏が3曲収録されています。
●Funk #1
●Funk #2
●Funk #3
どれも曲名がシンプル過ぎますが(笑)……模範演奏の方は素晴らしいものばかりです。
Funk #2以外は、ギターはリズムパートのみです。
Funk #2だけギターソロも収録されています。
どのトラックも完コピするのはリズムがかなり難しいです……。
ニュアンスを学ぶ使い方が良いかと思われます。
そもそもそのままの演奏をバンドやセッションで活かせるものではないとも思いますので……自分なりの演奏に昇華しましょう!
Cornell Remembers …
ギター教則の章が終わると、コーネル自身による共演者などの回想が掲載されています。
キング・カーティスやビリー・バトラーなどの、コーネルに影響を与えた人物についてや、興味深いところではジミ・ヘンドリックスとキング・カーティス・バンドで共演したお話などが掲載されています。
様々なミュージシャン達と共演したコーネルだからこそ色んな登場人物がいて、とても面白い内容です。
この回想の後に、コーネルの使用機材の解説や、2,500を超えるサイドマンとして参加した作品の一部がご紹介されています。
僕自身、かなりのコーネル好きでして……レア・グルーヴ系も含む数多くのコーネル参加作品を聴いてきたのですが……
残念ながら本書のリストは、不完全なディスコグラフィーとなっています……。
特にレア・グルーヴ系は弱いようで……”The Nineteenth Whole”などは掲載されておりません。
出来れば今後、このブログを通して僕が聴いてきた数多くのコーネルがサイドマンで参加した作品をご紹介していけたら……と思っておりますので、またこちらのブログを読みに来てもらえると嬉しいです。
それでは、今回はコーネル・デュプリー本人が書いたギター教則本『Rhytmn & Blues Guitar』のご紹介でした。
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