2022/03/08
ロバート・グラスパー・エクスペリメントの10年振りの続編『BLACK RADIO III』を聴いて思うこと
ロバート・グラスパー・エクスペリメントの最新作『BLACK RADIO III』を聴いて思うこと
前作からおよそ10年の時を経てリリースしたロバート・グラスパー・エクスペリメントの『BLACK RADIO』シリーズの三作目
昨年末にロバート・グラスパー(以降:ロバグラ)の名作『Black Radio』シリーズの続編が2022年にリリースされるというニュースが大手の音楽情報サイトで大々的に発信されていました。
そのニュースを受けて僕は直ぐにネットで予約注文をしていたのですが、今になってようやくこのアルバムをゆっくりと聴くことが出来ました。
僕の感想は…
「良い」か「悪い」かで言うと「良い」アルバムで、「新しい」か「古い」かで言うと「少し古い」アルバムに感じました。
悪くはないけれども古くは感じるアルバム
2012年に『Black Radio』の第一弾がリリースされた時には「最新」だったロバート・グラスパー・エクスペリメントも、やはり10年経てば「古く」感じられるものだな…と思いました。
まぁ続編なのでそこまで大幅に音楽ジャンルを変えることは出来ないので仕方ない面もありますが、しかし10年も経てば世の音楽の流行も変わるもんですよね。
音楽ジャンルに関しては2000年代になるまでにはもはや出尽くした感はありますが、しかしその中でも既存の音楽ジャンルを混ぜ合わせた新たなスタイルが2000年代以降にも4〜5年の周期で出てきていると僕は感じています。
近年の音楽の流行りのスタイル
近年の流行のスタイルはもっぱらチルホップ(=Lo-fiヒップホップ)やネクスト世代のネオ・ソウルにシティ・ソウルらへんだと思います。
シティ・ソウルに関してはジャンル区分がかなりあいまいで80年代のAORから2010年代のEDMまでも含んだリバイバル・ブームだと感じるのですが、チルホップや近年のネオ・ソウルに関しては共通点があります。
J.ディラやヌジャベスが90年代〜2005年辺りに築き上げたクールなヒップホップのビートに乗せてちょっぴりジャジーなコード進行を持った上物を乗せるといった具合です。
そういった共通点がありますが、この2つは以下のような違いもあります。
チルホップの方は基本インスト物で終始クールなままループを続けるスタイル
ネオ・ソウルの方はあくまでもボーカルが主体でブーンバップなビートに乗せてR&Bなサビを持つ歌物が混ざったスタイル
それこそ後者の新世代ネオ・ソウルに関しては10年前にロバグラが『Black Radio』で示した新たなスタイルだったのですが…この10年でもう一つ、既存の音楽性が新世代のネオ・ソウルには加わっています。
それがアンビエント(環境音楽)なサウンドです。
流行りのスタイルにアンビエントな要素は欠かせない!?
アンビエントと言えばU2好きの僕ならブライアン・イーノが真っ先に思いつくのですが、おそらくそれも古い考えで…近年活躍する若手ミュージシャン達は、エイフェックス・ツインや『SELECTED AMBIENT WORKS 85-92』やKLFの『Chill Out』のような90年代以降のアンビエント作品から影響を受けているんじゃないかな?と思います。
そういったサウンドがチルホップ系やトム・ミッシュにFKJのような最新のネオ・ソウル勢に見られるからです。
しかしロバグラにないのはこのアンビエントなサウンドです。
そこが僕が「少し古い」と感じた部分です。
ロバグラの『Black Radio』から少なからず何かしらの影響を受けているであろうトム・ミッシュやFKJの方が今では先に行っていると僕には感じられます。
だからといってこの『Black Radio III』が「悪い」アルバムではないです。
ただ昨年リリースされたトム・ミッシュとユセフ・デイズの共演作『What Kinda Music』と比べると「少し古い」サウンドに聴こえてしまいます。
音楽ジャンル自体はもう何年も前から出尽くしてはいますが、そのスタイルは今も混じり合いながら進化していってるんだな〜と上記の2作品を聴き比べてみて感じました。
ちなみに『Black Radio II』がリリースされた2013年と同じ年に近年のチルホップ・ブームのきっかけとなったChillhop MusicがYouTubeに登場しているんです。
その始まりはオランダの田舎町の小さなベッドルームからというんだから驚きです。
10年経ってロバグラ以上のブームになってしまうとは…。
音楽ジャンルだけでなくギターも進化している!
さて「内容が出尽くしてはいるけれども進化し続けている」と言えばそれこそギターの演奏スタイルにも言えることです。
ここでネオ・ソウル・ギターについて簡単に書いてみたいと思います。
ネオ・ソウル・ギターの誕生について
近年流行りのネオ・ソウル・ギターも奏法に関してはディヴィッド・T・ウォーカー(以降:デビT)やカーティス・メイフィールドにティーニー・ホッジス(Hi-リズム)なんかが半世紀も前から弾いていました。
その奏法を今から20年前近く前に頭角を現したブーンバップのビートに乗せた最新のR&B曲(=初期のネオ・ソウル)で弾いたのがスパンキー・アルフォードでした。
これがネオ・ソウル・ギターの誕生でした。
奏法が新しいのではなくそのスタイルが新しいのです。
今の音楽に欠かせないネオ・ソウル・ギターという最新のスタイル
しかしその後すぐにはこのスタイルは流行らずに忘れ去られていたのですが、2010年代に入りスパンキーから影響を受けたアイザイア・シャーキーやケリー・2スムース等が登場し一気にメインストリームへと駆け上がっていきました。
前2作の『Black Radio』にはギターが登場していなくって当時の僕は「もはやギターは最新の音楽にとって不要な楽器なのかな…。」と落胆していたのですが、あれからネオ・ソウル・ギターのスタイルは進化して…ついには最新の音楽には欠かせないサウンドへと変化しました!
『Black Radio III』にはアイザイア・シャーキーが数曲で参加しています。
特にエスペランザが歌う”Why We Speak”ではデビT風のハープ奏法が印象的なネオ・ソウル・ギターを聴くことができます。
50年以上前から存在していた古いギターの奏法もスタイルを変えることでこんなにもオシャレになります!
ちなみにこの曲にはア・トライブ・コールド・クエストのQティップが参加してラップを披露しています。
『Black Radio』シリーズが始まって10年が経ってようやくギターもその進化に追い付いたんだな〜と感慨深く思います。
今やチルホップでもネオ・ソウル系のギターが主役の曲ばかりですからね!
実際に僕はネオ・ソウル・ギターに関して「あれってデビTが何十年も前から弾いていた奏法でしょ?何も真新しいことはないですよね。」と仰る方に何人か出会ったことがあるのですが…大事なのはそこじゃないです。
そういった奏法を最新の音楽に当てはめたというそのスタイルが大事なのです。
と言ったわけでネオ・ソウル・ギター好きの僕としては、この『Black Radio III』にアイザイア・シャーキーが参加していることが一番喜ばしいことでした。
10年前にロバグラの来日公演を観て、ギターが必要ない音楽性だと落胆していたんですが、今度はこの最新作を引っ提げてアイザイア・シャーキーを含むクインテット編成で来日公演をしてくれたらな〜と願います。
音楽は常に進化している!?今後の流行りのスタイルはどんなものになるのか?
しかしここまで書いてみて改めて感じたことがあります。
それは、今のぼくの耳にはロバグラでさえ古く感じるということは…逆に喜ぶべきことなのかもしれません。
それだけ近年の若手ミュージシャンが新しいことをやっているからこそそう感じられるということですからね。
ちなみに近年は何かとアンビエントなビート・ミュージックが流行ってはいますが、僕がフォローしている海外のあるチルホップ系のミュージシャンがこんな二択をフォロワーに委ねていました。
make more
“jazzy feel good beats”
“ambient melencholy beats”
次に新曲を作るとしたら「ジャジーでゴキゲンなビートの曲」がいいか?それとも「アンビエントでメランコリックなビートの曲」がいいのか?フォロワーにアンケートを採っていたんです。
僕は流行りに乗ってアンビエントでメランコリックなビートの方に投票したのですが…結果は僅差ではありますがジャジーなビートの曲の方が求められていました。
もしかしたらアンビエントのブームも近々終わりを迎えるのかも知れませんね。
みんなシンプルなコード進行のループに飽きちゃっていて、これからはジャジーで複雑なハーモニーの楽曲が復活するのかも知れません。
そうなってくるとまたロバグラの天下ですね!
以上、【ロバート・グラスパー・エクスペリメントの最新作『BLACK RADIO III』を聴いて思うこと】でした。
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