
2018/11/15
ロイ・ハーグローヴの絶対に聴くべき名盤3選
ジャズトランペッターのロイ・ハーグローヴが生前に残した名盤3選
今回ご紹介するのは、僕の尊敬するジャズトランペッターのロイ・ハーグローヴの作品についてです。
ロイ・ハーグローヴについてはこのブログでも何度か登場しています。
近年のトランぺッターで特に好きなミュージシャン10選
ちょうど2年前に僕がNYCに行った日に、ロイのライヴを観れるチャンスを逃した……なんて後悔もありました。
そんなロイ・ハーグローヴのJazzy Hip-HopユニットのRHファクターについてご紹介して2週間もしないうちにまさかの訃報が届きました。
ロイが長年、腎臓を悪くしており長年透析治療を受けている話を知ってはいましたが……まさかの訃報にショックを受けました。
しかしロイ・ハーグローヴがこれまでに残したアルバムは、ジャズ史に永久に残り続けます。
そんなわけで今回はRHファクター名義以外で、僕がおすすめするロイ・ハーグローヴの名盤を3枚ご紹介したいと思います。
ロイ・ハーグローヴの絶対に聴くべき名盤3枚はこれ!
今回僕がご紹介したいのは、2000年の『Moment To Moment』と2006年の『Nothing Serious』と2008年の『Earfood』です。
それではさっそく1枚ずつリリースされた順番に見ていきましょう!
Roy Hargrove – 『Moment To Moment』
2000年にリリースされた優雅なストリングスが印象的な穏やかで優しいアルバム『Moment To Moment』です。
「その瞬間その瞬間で」というアルバムタイトルのように1曲1曲が一瞬一瞬の輝きを放っているかのように美しい楽曲ばかりです。
1曲目の”You Go To My Head(忘れられぬ君)“は、ジョン・フレデリック・クーツが1938年に作曲した古き良き時代のスタンダードナンバーです。
ビリー・ホリディが歌ったりしています。
原曲のメロディー通りにロイがフリューゲルホンで優しい音色を奏でます。
バックの静謐なストリングスとピアノの音色がとても優雅で、まるで貴族の晩餐会で流れていそうな気がします。
2曲目のパット・メセニーの曲”Always And Forever”やタイトルトラックにもなったヘンリー・マンシーニの曲”Moment To Moment”にフランク・シナトラの”I’m A Fool To Want You”にエラ・フィッツジェラルドが歌った”I’m Glad There Is You”などポピュラーなカヴァー曲が多く収録されています。
そのどれもがストリングスとピアノの優しい音色に包み込まれるかのようなアレンジが施されています。
アルバム全体を通してクラシック音楽にも通じるような優雅な曲調で統一されているので、コンセプトアルバムとして聴き通すことが出来ます。
散漫な印象はなく統一感こそありますが、強いて難点を挙げるなら、せっかくの有名曲に変化がなく全て同じような曲に聴こえてしまう感は否めません……。
そんな中で僕が一番好きな収録曲は6曲目の”How Insensitive”です。
アストラッド・ジルベルトが歌ったアントニオ・カルロス・ジョビン作のボサノヴァ・スタンダード曲なので誰もが知るような有名曲であると思います。
おそらく本作収録曲の中で最も有名な曲だとも思います。
あの印象的な哀愁漂うメロディーラインをロイのフリューゲルホンが物悲しく奏でます。まるでマイルスのように卵の殻の上を歩くようなバラード演奏です。
ロイが亡くなったことで、今聴くと更に悲しくも聞こえてしまいます……。
派手な曲や勢いのある曲は皆無ですが、全編静謐な雰囲気が味わえる作品となっております。
就寝前に聴くと良い夢が見れるかも知れませんね♪静かに聴きたい作品です。

Roy Hargrove – 『Nothing Serious』
先ほどの『Moment To Moment』とは打って変わってジャズ・クインテットのバンド形式のアルバムです。
参加メンバーもロイ以外はドラムのウィリー・ジョンズ3世のみ『Moment To Moment』と同じメンバーです。
2006年にリリースされた本作『Nothing Serious』はまるで1950年代中期~後期のハード・バップを彷彿させる熱い演奏が繰り広げられています。
アルバムは、タイトルトラックでもあるギタリストのレオ・クインテロが2005年に発表したラテン調の曲”Nothing Serious”から始まります。
ロイのバージョンは、まるでリー・モーガン辺りがハンク・モブレーを連れてブルーノート・レーベルで吹き込んだかのようなハード・バップ作品のようにアレンジされています。
この1曲目のかっこよさでこのアルバムの良し悪しの全てが決まったようなもんです!
2曲目”A Day In Vienna”は作曲者のスライド・ハンプトン自身がスライド・トロンボーンで参加したミドルテンポのオシャレなジャズです。
3曲目のロイが書いた美しいバラード曲”Trust”とスウィングするジャズナンバーの”Camaraderie”を挟み、聴き所となるジャズベーシストのドウェイン・バーノ作の難曲”Devil Eyes”が始まります。
再びロイの自作ジャズナンバー”The Gift”が続き、その次にまるでマッコイ・タイナーが演奏しそうなスピリチュアル・ジャズナンバーの”Salima’s Dance”が始まります。
この曲はジャズピアニストのロニー・マシューズの作品です。
そして最後にジャズスタンダード曲の”Invitation”でアルバムは締めくくられています。
どれも難し目のジャズの曲をレベルの高い演奏陣が最高峰の演奏力で聴かせてくれる名作となっています。
ハード・バップ好きの方はもちろん、最近ジャズを聴き始めたけれども、古い音源よりも最近の”音”でジャズナンバーを楽しみたい!という方にもおすすめです♪
ロイ・ハーグローヴが制作した純粋なジャズアルバムとしてはこの作品が一番だと思います。

Roy Hargrove – 『Earfood』
3枚目にご紹介するこの『Earfood』は、ロイ・ハーグローヴの作品で一番有名かもしれませんね。
2008年にリリースされた当時、僕は発売日に仕事帰りにわざわざタワレコまで行って買いました。
一応買う前に試聴してみたのですが……1曲目、ジャズピアニストのシダー・ウォルトンのカヴァー曲”I’m Not So Sure”の現代的なアレンジを聴いて「これは絶対に買わないと!」と即決しました。
シダー・ウォルトンには申し訳ないですがこの曲、僕はロイ・ハーグローヴのこのバージョンの方が原曲よりもかっこいいと思います。
なんていうかリズムのキレが洗練されているんですよね!
原曲はどこかモッチャリしてたような……。
次の2曲目”Brown”はロイの渋い自作曲です。
“Brown”もなかなか良い曲なのですが、しかしなんといってもロイの自作曲なら次の3曲目”Strasbourg / St. Denis”が一番の聴きどころです。
ちなみにこの曲名にある「ストラスブール」と「サン=ドニ」は、どちらもフランスの地名です。
その後キャンディー・ダルファーがライヴでカヴァーしたりもしています。
僕も当時初めてこの作品を聴いた際にこの曲が一番好きになりました!文句なしにかっこいい曲です。
ウッドベースのイントロからトランペットとサックスの掛け合いのようなかっこいいテーマメロディー、そしてジェラルド・クレイトンのリズムカルなピアノコンピング……どこか悪い箇所が1つでもありますか?と言いたくなるような名曲中の名曲です。
今ではジャズ系やジャズファンク系のセッションでも定番曲になっています。
僕もセッションでこの曲を演奏したことがあります。ギターソロを3コーラス分弾かせてもらったんですが、その際にジェラルド・クレイトンのピアノのフレージングを拝借させてもらってアドリヴソロを弾きました。
そんなジェラルド・クレイトンもこのアルバムとツアー後に独立して2009年に初リーダー作を出しています。
ロイの名曲ってだけでなく、ジェラルド・クレイトンの名演が聴ける素晴らしい曲となりました。
ロイが亡くなって残念ではありますが、今後も”Strasbourg / St. Denis”は新たなジャズスタンダード曲として、世界中様々なジャズセッションやジャズバンドで演奏され続ける事でしょう!
セッション等で”Strasbourg / St. Denis”を聴いて気に入ったから原曲が聴きたくなってこのアルバムを買ってみるといった感じでもOKだと思います。
やはりロイ自身が演奏しているオリジナルバージョンの”Strasbourg / St. Denis”が一番最高ですからね♪
この曲以外にもアルバム全体を通して現代風のジャズが聴ける素晴らしい作品です。
収録曲のほとんどはロイの自作曲ですが、中にはカヴァー曲もあります。4曲目の”Starmaker”は映画『ブルースブラザーズ』でサックスを吹いていたルー・マリーニ作の渋い曲です。
そして8曲目の”Mr.Clean”は悲劇のジャズピアニストであるウェルドン・アーヴィンの曲です。
11曲目の”To Wisdom The Prize”は70年代にジャズファンクアルバムなんかもリリースしていたジャズピアニストのラリー・ウィリスの曲です。
12曲目の”Speak Low”はドイツの作曲家クルト・ヴァイル作の有名ジャズスタンダード曲です。
“Speak Low”は様々なジャズミュージシャンに取り上げられた名曲中の名曲で、僕も大好きな曲なんですがこのアルバムではロイとジェラルド・クレイトンの静かな絡み合いが、まるで『Kind of Blue』に収録されていた”Blue in Green”でのマイルス・デイヴィスとビル・エヴァンスのようでもあります。
心の琴線に触れる演奏とはまさにこのことですね……。
あまりに美しすぎて聴いていて逆に悲しくなってしまいます……。悲しくなった後は、アルバム最後の曲で盛り上がりましょう!
サム・クックの代表曲にして永遠のソウルの名曲”Bring It On Home To Me”です。
何度聞いてもこの歌メロ部分は拳を握りしめたくなるような熱いメロディーですね!
最後の最後にこんな熱いソウルの曲でアルバムを締め括るなんて……間違いなく『Earfood』は名盤です!
これこそがロイ・ハーグローヴというミュージシャンが表現したかった音楽なのだと感じます。
絶対に聴くべき名盤ですよ♪

以上、【ロイ・ハーグローヴの絶対に聴くべき名盤3選】でした。
3枚ともどれもロイ・ハーグローヴというミュージシャンの違った顔が垣間見れる作品となっております。
ストリングスが印象的な静謐なアルバム『Moment To Moment』、クインテット編成で往年のハード・バップのようなジャズを演奏した『Nothing Serious』、ロイ・ハーグローヴが書いた曲の中で最も素晴らしい1曲”Strasbourg / St. Denis”を含む代表作『Earfood』
出来れば全ての作品に耳を通して頂ければ……と思います。
ロイ・ハーグローヴという一人の天才ミュージシャンが残した芸術作品を、一人でも多くの方に聴いて感動してもらいたいと僕は思っています。
オマケ
名盤『Earfood』発売後のライヴ映像を収録した映像作品も存在しています。
DVD作品の『Live At The Morning』です。
“Strasbourg / St. Denis”と言えば、TwitterやFBで紹介するときに必ずのようにみんなが貼る動画があります。
そのYouTubeでも有名な”Strasbourg / St. Denis”は、このDVDに収録されています。
ピアニストのジェラルド・クレイトンのソロがあまりに凄くって、そちらにばかり目が行ってしまいそうですが……ロイの溌剌としたトランペットソロもとても魅力的です♪
こんなにすごいジャズの演奏がパリで繰り広げられていたなんて……ぜひ生で体験したかったものです……。