
2018/07/07
映画『ブラックホーク・ダウン』で描かれたモガディシュの戦いを2冊のノンフィクション作品で読む!
モガディシュの戦いを描いた『ブラックホーク・ダウン』
ノンフィクション作家と元シール・チーム・シックス隊員の異なる目線で書かれた2冊の本
前回の『CIAの対テロ戦争について異なる視点から書かれた2冊の本』のように、今回もノンフィクション作家によって第三者目線で書いた作品と実際に戦闘を経験した元シール・チーム・シックス隊員が当事者目線で書いた作品とをご紹介いたします。
今回は映画で有名になった『ブラックホーク・ダウン』について書かれた本になります。
映画『ブラックホーク・ダウン』は、1993年10月3日、東アフリカに位置するソマリアの首都モガディシュにて100名の米軍特殊部隊の兵士たちが独裁者アイディード将軍の副官2名を捕らえる作戦を行った事件を題材にしています。
この作戦は、ソマリアのゲリラ部隊によって2機の最新鋭ブラックホーク・ヘリが撃墜され失敗に終わりました。
墜落したヘリの生存者を助けるため米軍を中心とする多国籍軍がゲリラとの市街戦を繰り広げることになります。
この悲惨な事件を取り扱った内容が『ブラックホーク・ダウン』という作品です。
リドリー・スコット監督によって製作された映画『ブラックホーク・ダウン』の原作が今回ご紹介する1冊でもあります。
それではまずはその原作の方からご紹介します。
ブラックホーク・ダウン〈上下巻〉―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録
映画『ブラックホーク・ダウン』の原作がこの『ブラックホーク・ダウン〈上下巻〉―アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録』の2冊になります。
時間の制限のある映画よりも更に詳しい内容となっています。
映画では大活躍する1人のキャラクターがいるのですが、その人物は実際には《複数の人物の行動》を1人にまとめているのです。
限られた上映時間や俳優の数に予算など……大人の事情でそうなったんでしょうか。
しかし映画の方はこちらの原作の目立った事柄をしっかりと描いているので、「あ、この部分、映画のあのシーンだな!」と読んでいくと気づくことがあります。
僕は先に映画の方を観てからこの本を読んだのですが、その順番の方が良いのかな?と個人的には思います。
まずは映画で視覚的に鑑賞して大幅な内容を知ってから、原作本でより詳しく読んでいくと面白いと思います。
ちなみにこちらの原作本は、ノンフィクション作家のマーク・ボウデンが、当事者へのインタビューや当時の報道などを元に第三者の目線で描いています。
なので、まるで小説を読むかのようにスラスラと読めて物語に夢中になれます。
しかしあくまで《第三者目線》なので、「この部分は、本当なのかな?」と感じたりもします。
そういう疑問も感じつつも、個人的にはある内容が次にご紹介する本と一致していて、何かすごく納得したのを覚えています。
それはアイディード将軍の副官2名を捕らえにブラック・ホークヘリが目的地に向かっている中、地上部隊が遅れて現場に向かっている時のことです。
目的地に向かったブラック・ホークヘリを追って地上部隊の車両が基地から街に向かっていきます。
車両部隊は、アメリカ正規軍の他にデルタ・フォースや海軍特殊部隊の精鋭SEALチーム・シックスがハンヴィー(高機動多目的装輪車のこと)に乗って目的地に向かっていました。
その中のSEALチーム・シックスのメンバーを乗せたハンヴィーが待機地点に向かってる時、SEAL隊員のジョン・ゲイがAK-47の銃声を聞き、直後に自身の右臀部に激しい痛みを感じ「撃たれた!」と叫んだ。《上巻P.101参照》
ゲイの横に座っていたデルタ隊員のティム・マーティン曹長が様子を調べたところ、銃弾はゲイが常に腰に下げていたランドール・ナイフに当たっていた。
そのナイフのお陰で軽い怪我で済んだ……という件です。
この内容と同じ部分が次にご紹介する本に出てきます。
ビン・ラディン暗殺! 極秘特殊部隊シール・チーム・シックス あるエリート・スナイパーの告白
この本は、アメリカ海軍の極秘特殊部隊である元SEALチーム・シックスに実際に所属していたハワード・E・ワーズディンによって書かれています。
本の題名に『ビン・ラディン暗殺! 』と書かれていますが、実際には著者が暗殺計画に参加していたわけではありません。
単にビン・ラディン暗殺計画を実行したのが、著者が所属していたSEALチーム・シックスだったということです。
ちょうどこの本の日本語訳版が出版されたころにビン・ラディン暗殺計画を実行したSEALチーム・シックスが有名になったから、それに合わせてタイトルに付けたんでしょうか。
まぁそれはいいとして、著者のハワードはビン・ラディン暗殺計画の20年近く前にSEALチーム・シックスの隊員としてソマリアにてモガディシュの戦いに参加しています。
三部から成るこの本の、3分の2に当たる「第一部」と「第二部」は著者がSEALチーム・シックスの隊員になるまでの過程が長々と書かれています。
なぜSEALチーム・シックスの隊員になろうと憧れたのか?から始まって、実際にSEALチーム・シックスの隊員になるための過酷な訓練を経験した苦労話などです。
自伝的内容が強く、正直言いますと実際の戦闘が始まる「第三部」まではそこまで面白い内容ではないです……。
「第三部」になってようやくモガディシュの戦いに参加していた頃の話になります。
ここで先ほどご紹介していた本とのある共通点が登場します。
著者がSEALチーム・シックスの隊員になった頃からのチームメイトに”リトル・ビッグ・マン”という仲間が出てきます。
彼は、「小柄な体格に似合わないような大きいナイフを常に腰からぶら下げていた」ことから”リトル・ビッグ・マン”というあだ名で呼ばれていました。
その”リトル・ビッグ・マン”と著者のハワードは、モガディシュの戦いにSEALチーム・シックスを代表して参加します。
当日の彼らの任務は、アイディード将軍の副官2名を捕らえにブラック・ホークヘリが目的地に向かっている中、待機地点までハンヴィーに乗って地上から向かうことでした。
その道中で”リトル・ビッグ・マン”が悲鳴を上げます。《P.322参照》
「くそ、やられた!」
敵の撃つ銃弾に当たった”リトル・ビッグ・マン”の様子を見に行くと……ランドール・ナイフの破片が側に散らばっていた。
AK-47の銃弾は、”リトル・ビッグ・マン”が大好きでどこに行くにも身に付けているランドール・ナイフに当たったのだ。
そうです。
この”リトル・ビッグ・マン”というのが、先に出てきましたSEAL隊員のジョン・ゲイのことです。
一応、ハワードのこの本では匿名性を持たせるために自分以外のSEAL隊員はあだ名で呼ばれているのですが……この本よりも数年前に出版されていた『ブラックホーク・ダウン』の原作で普通にジョン・ゲイと本名が出ちゃっていました。(笑)
しかしこうやってモガディシュの戦いを実際に経験した元SEALチーム・シックスの隊員が書いた本と、ノンフィクション作家がインタビューなどを元に書いた本との内容が一致していたので「実話なんだな……。」と僕は納得しました。
以上、モガディシュの戦いを描いた『ブラックホーク・ダウン』をノンフィクション作家と元シール・チーム・シックス隊員の異なる目線で書かれた2冊の本のご紹介でした。
映画の方は、ヒットしたのでそこそこ有名だと思うのですが、原作の本はもっ濃い内容で読み応え十分ですのでぜひ読んでみて下さい。
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