
2018/07/17
大義なき戦争で成長した民間軍事会社の成功と衰退を描いた2冊の本。
大義なき戦争で成長した民間軍事会社
今回ご紹介するのは、世界最大の「民間軍事会社」であった《ブラックウォーター》社を取り上げた『ブラックウォーター 世界最強の傭兵企業』とイラク戦争で急成長を遂げた民間軍事会社の《クレセント・セキュリティ・グループ》社の誘拐事件を取り上げた『戦場の掟』の2冊の本です。
どちらもノンフィクション作品ですが、ジャーナリストが第三者目線でインタビューなどを元に書いています。
個人的利得で行動する「傭兵」と事業利得を重んじる「民間軍事会社」
2000年代に入ると、それまでの金を目的に戦争に参加する「傭兵」とは違い完全に法人化された企業である「民間軍事会社」が「テロとの戦い」で急成長していきました。
単純に言えば、「傭兵」はフリーランスで「民間軍事会社」は会社員のような感じです。
「傭兵」は個人的利得を第一に考えていて彼らは現金しか信用しないため、短期的な契約でしか信用できないものです。
しかし「民間軍事会社」に所属するオペレーター(武装警備員)たちは、法人企業に所属する会社員でもあります。(非正規がほとんどだが……。)
そのため個人的利得よりも事業利得を重んじて責任ある行動をとる傾向にあります。
とはいえ、彼らが必ずしも模範的な行動ばかりするのか!?ということになれば答えは「No」のようです。
彼らの多くは元特殊部隊員などで、難しい任務を遂行する能力には長けているものの必ずしも品行方正な行動をしているとは限りません。
また高額な給料の裏では、任務中にいつ命を落としてもおかしくないような危険が常につきまとっています。
そんな「民間軍事会社」について書かれた2冊の本になります。
『ブラックウォーター 世界最強の傭兵企業』
調査報道員でもあるジャーナリストのジェレミー・スケイヒルの取材によって書かれた本です。
世界最大の「民間軍事会社」として有名な大企業《ブラック・ウォーター》の誕生から成功、衰退までを細かく描いています。
自身も元特殊部隊員であったエリック・プリンスが、いかにして《ブラック・ウォーター》社を立ち上げ大企業にしていったのか?が最初の方は書かれています。
この辺のお話は、まるで企業のCEOによって書かれたビジネス書とまではいきませんが、それに似たような感じで起業する人へのアドバイスのようにも読めます。
いかにして成功を掴むのか?って感じです。
しかし大企業になればなるほどに、不祥事を起こす可能性も出てきます。
それが2007年9月16日のイラク、バグダッドで起こったブラックウォーターのオペレーターによる一般人を巻き添えにした発砲事件です。
この事件が起きたことでブラックウォーターの信頼は見る見るうちに落ちてしまい、最終的には社名を変えてまで会社を存続するしかない状態にまで落ちていきます。
しかしそれも当然としか言いようがないような酷い事件です……。
犠牲になられたルバイエ一家の方々があまりにも不憫でなりません。
理不尽な理由で一般人を巻き添えにして彼らを犠牲にするような会社が潰れるのは至極当然のことでしょう。
この後、ブラックウォーターはXe社と社名を変更します。
ちなみに以前このブログでもご紹介していました『三重スパイ― CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」』に登場する「2009年12月30日アフガニスタン、ホースト基地(チャップマン前哨基地)」での自爆テロ事件の犠牲になった警備会社の職員は、このXe社に所属していました。
この他にも逆に会社の杜撰(ずさん)な管理体制の犠牲になったブラックウォーターの社員たちの事件も取り上げられています。
この事件についての画像検索は【閲覧要注意!】なのですが、2004年3月31日にイラク中部の都市ファルージャで実際に起きた襲撃事件のことです。
ブラックウォーターに所属する4人のオペレーターたちが食料と台所用品をトラックで運んでいました。
しかし彼らは現地の武装勢力に襲撃され、命を落としました。
彼らは危険地域に装備の足りないまま会社命令で出動されています。
そして武装勢力に襲撃され、彼らの死体は市内を引きずり回され、橋に吊り下げられて晒し者にされました。
2007年の事件が起こる3年前にもこのような不祥事を起こしているのですが、それでも管理体制を変えないまま反省もせず更なる不祥事を起こしてしまっています。
こういった内容がこの本では更に詳しく書かれています。
530ページとかなりのページ数でズッシリと重いぐらいの厚みのある本ですが、読み応えは十分です!
ぜひブラックウォーターのような大規模な「民間軍事会社」にご興味のある方は、こちらの本を読んでみて下さい。
またそれだけでなく、ひとつの企業の成功から衰退までをビジネスの観点から読んでみても面白いかもしれません。
お勧めです。
『戦場の掟』
2冊目にご紹介するこの本は、《クレセント・セキュリティ・グループ》という「民間軍事会社」に所属していたオペレーターたちが巻き込まれた事件を中心に書かれています。
主にイラクでのアメリカ軍基地の警備や物資の運搬などを行っていました。
「民間軍事会社」は、「傭兵」と違い自ら戦争に参加するのではなくって基本業務としては警備や物資の運搬などの業務をしています。
危険は伴いますが、常に銃の撃ち合いをして戦闘をしているわけではありません。
先のブラックウォーターの2004年3月31日のファルージャの事件もそうですが、彼らは何も戦闘をするためだけに行っていたわけではありません。
食料や台所用品をトラックで運んでいただけなのです。
そういった運搬業務は、もちろんアメリカ軍の基地への運搬が主とはなりますが、場合によっては現地の住民や生活に苦しんでいる難民を相手にしている場合だってあるのです。
それなのに、現地の武装勢力にアメリカ人だというだけで襲われることがあります。
必ずしも「民間軍事会社」が「悪」だとは限らないんですよね。
もちろん「正義」でもないですが……。
なにも全てのアメリカ軍や「民間軍事会社」の人たちが、現地に戦争だけ望んで行っているわけではないと僕は思います。
この『戦場の掟』は、クレセント・セキュリティ・グループに所属していたオペレーターたちが2006年11月16日にイラクとクウェートの国境付近の街サフワン近辺で数十人に及ぶ武装集団に襲撃された「クレセント拉致事件」について書かれています。
彼らはイタリア軍の装備を積み込むためにタリル空港基地に向かっていました。
物資を積んだトレイラートラック37台をオペレーターが乗る護衛車5台に護られて移動していました。
しかし通常ならば、護衛車には1人もしくは2人のイラク人オペレーターが同情しなくてはいけないのですが、この事件の日に限ってイラク人通訳がたった1人のみ同行する状態でした。
そして武装集団に襲撃され、アメリカ人4人、オーストラリア人1人の計5名の警備員が拉致されました。
この事件は誘拐犯から送られてきた5人の映像と共に事件を知る人たちに大きな衝撃を与えました。
会社の杜撰なやり方の犠牲になった5人のオペレーターたちの運命は如何に……!?
最後には、衝撃の結末が訪れます。
かなりショッキングな結末ですので、心して読んでください。
382ページとまぁまぁ読み応えのあるページ数ですが、結末が驚きの内容ですので読み進めていくと非常に興味深い内容となっております。
お勧めです。
以上が、今回ご紹介したかった「民間軍事会社」を取り扱った2冊のノンフィクション作品でした。
今後もこういたったノンフィクション作品を読み続けていって、このブログを通してお勧め出来ればな~と思います。
ぜひ今回ご紹介しました2冊の本も読んでみて下さい。
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